コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 魔法使いの宝物 ( No.14 )
- 日時: 2011/05/01 21:15
- 名前: 桜野兎姫 ◆hGvsZemfok (ID: 6fmHesqy)
〜第八話〜
あれからもうだいぶ歩いたが、遺跡が見えてくる気配はない。木もだんだん多くなり、周りが暗くなる。周りが暗くなったのは木のせいだけではないようで、木々の間からは、月が見え始めていた。
「ねぇ、まだつかないの?」
「もうちょっとだと思うんだけどなぁ」
困ったように頭をかくシウルに、私は空を指差しながら言う。
「もう暗くなってきたよ?」
「今日はこの辺で休めばいいんじゃありませんの?」
「それもそうか」
納得したシウルが、周りをきょろきょろし始めた。するとシュネが、少し大きめの木を指差す。
「あのあたりはどうですか?」
その木の下にみんなで協力して大きいテントと小さいテントをひとつずつ建てる。といってもほとんどジェラーニが魔法で組み立てたのだが……。
「では、毎回こうれいのくじ引きですの。印付きだった方が大きいテントを使えますのよ」
私たちは、ジェラーニの持っている割り箸のような棒を順番に引いていく。結果は私、シウル、の二人が印なし。ジニアスの表情が異常にうれしそうだったが、それは使えるテントが大きいからということにしておこう。
炎使いのジニアスがつけてくれた火でランプをつけ、テントに入ると思っていたよりは少し広かった。夕食は、シウルが持ってきてくれていたサンドイッチで済ませ、後かたずけを終わらせると、床に寝袋を広げた。
そこで私は昼のことを思い出す。
昼間、シウルにハート型の氷をもらった時のこと。部屋の扉を開けると、そこは私があこがれていた部屋そのものだったこと。とてもおいしい紅茶を飲ませてもらったこと。そして、シウルとであったときの始めの一言。そこまで思い出して、私はふと不思議に思う。
あの時シウルは、私が名乗る前に私の名前を呼んでいた。あの紅茶も私はどこか懐かしい味だと感じていた。部屋にあった家具のカバーの模様も、氷の形も、私の大好きなハートだった。そこで私が考えたことはひとつ。
シウルは今日出会う前から私のことを知っていた? そして私は彼のことを知らない。ということは——。
「ねえ、シウル?」
「ん? なんだ?」
「シウルは三年以上前、私にあったことがある?」
「なんで?」
シウルは少し驚いた顔をする。
「あのね、私、三年前から記憶がないの。だからもし3年以上前にシウルと会ったことがあったとしても何も覚えてない。私、シウルの家で目を覚ましてからびっくりするようなことがいっぱいあった。でもね、どれも初めてのことじゃない気がしたの。シウルが入れてくれた紅茶の味も、魔法を見たのだって。だから……」
そこで私はどう話していいか分からなくなり、言葉に詰まる。
「ごっごめんいきなりへんなこと言って」
私は急いで謝り、その話をやめようとする。しかしシウルは、そんなことは気にしてなかったようではなしを続ける。
「いや、いいんだ。確かにルミと会ったのは今日が初めてじゃない。でもどうして?」
「それは、私が名前を言う前にシウルが私の名前を呼んでた気がしたから……」
「そうか、確かに呼んだかもしれないな。なつかしいな、そういう鋭いところ、昔からぜんぜん変わってない」
「シウル! 三年前、何があったのか教えて! 忘れたままじゃいけない気がするの!」
私は思わず叫んでいた。少し身を乗り出してシウルの返事を待つ。
「まあいいが、ちょっと落ち着け。といっても三年前何があったかなんて俺が聞きたいくらいだが……」
ランプをはさみ、向かい合って座ると、シウルはゆっくり語りだした。
「ルミと俺は、幼馴染だった。いつも大きな木の下で待ち合わせをして、暗くなるまで遊んでた。あの紅茶は、ルミの大好物だったんだ。いつも家に来たら飲んでた。 だからシュネさんが持ってきた手紙でルミが全部忘れてるって知ったときはだいぶショックだったんだぞ? 」
シウルは、少し笑うが、すごく悲しそうだ。
「たぶんもともと魔界の人間だったから魔法を見てもあんまり驚かなかったんじゃないか? だけど、あんなにいつも一緒に遊んでたルミが三年前、突然待ち合わせの場所に来なくなった。家まで行っても誰もいないし、森中探し回ってもどこにもいないし、どうしたのかと思った。俺が知ってることは簡単に言えばこのくらいだ」
シウルはわざとなんでもないことのように語っていたが、無理してることはばればれだ。
「ごめん。何も覚えてなくて」
「いや忘れたのは仕方ないよ。それに俺にはわからないが、何か理由があって忘れてしまったんだろ? それは、ルミのせいじゃない」
シウルは私を安心させるようにぽんぽんと軽く頭をたたいて寝袋に入る。
「さあそろそろ寝よう。明日もまだ冒険は残ってるぞ?」
シウルは自分だってつらいはずなのに私をきづかってくれている。そう思うだけで目が熱くなった。私も急いで自分の寝袋に入り、ぬれた目を隠すようにして、
「消すよ」
とランプに手を伸ばした。
「ああ」
シウルの返事を聞いてランプを消し、目をつぶると、私はいつの間にか眠ってしまった。