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Re: 魔法使いの宝物 ( No.16 )
日時: 2011/05/01 21:28
名前: 桜野兎姫 ◆hGvsZemfok (ID: 6fmHesqy)

〜第十話〜

私は、恐る恐る目を開ける。そこに見えたのは真っ黒なローブだった。シウルがとっさに作り上げた氷のたてが私を守ってくれたのだろう。しかし完璧には防ぎきれなかったようで、私を守った黒ローブの氷使いシウルは、右手で左肩を抑えている。抑えられた肩からは、赤い液体がぽたぽたと滴っていた。

しかし、いつまでもそこに突っ立っているわけにも行かなかった。狼は、大きな足を持ち上げ、二度目の攻撃を始めようとしている。ジニアスは炎で剣を作り出し、ジェラーニは近くにあった大き目の岩を魔法で持ち上げ、戦闘体制にはいっている。シュネの光は、もう狼の後ろ足を黄色く染めていた。

「ルミ、ここは危ない。離れて待っててくれないか?」

私の身を案ずるその一言がとても悲しかった。私以外のみんなは自分の力で戦っている。私のことまで気遣って守ってくれる。でも、私は何もできない。みんなと同じ場所に同じように立っていてもこうも違うのだ。私はここにいても邪魔にしかならない。そう思うと、どうしようもない何かがこみ上げてきた。私は部屋の端まで全力で走る。

それから私は、長い長い戦いを部屋の片隅でじっと見ていた。みんなそれぞれ戦っているのに私は……。どんなに考えまいと思ってもどうしても考えてしまう。

しかし、私だけ闘いに参加しないというのも許されないことだったらしい。巨大な狼は、次のターゲットに私を選んだようだ。

狼は突然こちらを向くと、一気に私の元までやってきた。この部屋の私がいるのとは反対の角の近くで戦っていた狼は、五秒で私の所までやってきた。二百メートルはあるはずの距離をたった五秒で。そしてまたその大きな足を私の上へと振り上げた。

今度こそ間に合わない。どんなに足が速い人でも、二百メートルを五秒で走るのは無理だ。それにあの巨大狼はもう五秒も待ってくれないだろう。もう助からない。そうあきらめかけたとき。

「ルミ! そいつに直接触れ!」
「え!?」

思いもよらないことをいわれ、戸惑うが、今は言われたようにするしかない。このまま何もせずにたっていたところでやられるだけだ。

「えいっ」

思い切って私は狼の体に触れる。

すると信じられないことが起こった。私の足元に真紅の魔法陣が開く。その魔法陣はほかの誰のものよりも巨大で、あの大きな狼よりも大きかった。狼に触れた手から何かかが私に流れ込んでくる。頭の中には、知らないアルファベットの列が、弧を描くように流れていた。

アルファベットの流れが止まり、魔法陣も閉じると、そこに残ったのは力を失った巨大狼だった。

私はその場に座り込む。そんな私の元にみんな驚いた顔で駆け寄ってきた。

「今のはなんですの?」
「何があったんだ?」

問われるが答えられない。私にも何があったのか全くわからなかった。

「帰ろう。立てるか?」

私は小さくうなずき、優しく差し出されたシウルの手のほうへ、右手を伸ばす。しかし、私は途中でその手をとめた。

もしも今、私がこの手を握れば……。私が彼の手に触れれば、彼は——?
そんな考えが私の頭の中を何度も駆け回る。

私のこの手は、シウルの何倍もの大きさがあるいわば化け物を一瞬で倒してしまったのだ。この手でシウルに触れたら……。そう考えると、差し出されたこの手を握ることはできなかった。そんな私の気持ちを察したかのように、シウルは一言。

「大丈夫」

と言った。それでも手を握るのをためらう私。すると、シウルは半ば強引に私の手をつかみ引っ張った。

引っ張られた勢いで、立ち上がった私の体が、シウルにドンとぶつかる。かなりの勢いでぶつかった私の体をシウルはよろけることなくがしっと抱きとめ、耳元で一言つぶやいた。

「な? 大丈夫だっただろ?」