コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: くだらない為、無題! ( No.21 )
- 日時: 2011/07/08 21:49
- 名前: 仁都 (ID: qcI1n3YR)
第2話「childrenのthreat」 Pare4
ここは一体——
足を踏み入れた瞬間、私は唖然とした。
その驚きはもしかすると、あの部室のドアを開いた時と同等か、それ以上かもしれない。
そこは、「戦場」でした——……。
あらゆるところで戦いが繰り広げられている。
銃を片手に打ち合っていたり、かと思えば怪獣を相手に武器を持っていたり。
その傍らでは可愛らしいエプロンをつけて、綿のつまった森の仲間たちと料理をしている一般家庭(?)がいたり。
……ごめんなさい、意味が分からないです。
ここは幼稚園。
文字通り子供たちが至る所に居る。
そしてその状況を表す為に、私は「戦場」という言葉を用いたわけで。
ただし、戦っているのはヒーローを気取った園児達だけではない。
着替えを片手に、逃げ回る園児を追いかける先生方。
大変そうだな、と思ってしまう。
中学や高校の先生なんて、赤点のテスト片手におとなしく聞いている私に説教という名の文句を言うだけ。「先生だって大変なんだ」なんて言うけど、こっちのほうがよっぽど大変そうですよ。
私も今度、逃げ回ってやろうかな、なんてくだらない策略を企てていると、戦場ー教室の奥から1人の女の先生がやって来た。
いかにも慣れたように教室を縫い歩く。時には子供から危ない物を取り上げ、代わりのものを渡し、時には散らかしすぎた園児に片付けを命じ、バイトへきた私たちのもとへ来るまでに、いくつもの問題を解決してしまった。
——ああ、言い忘れていたけど、ここに居るバイトは私ひとりじゃない。
5人全員そろってるんだけど、みんなこの光景に私同様呆気にとられていたから、誰も言葉を発しなかった。
「真野ちゃん! バイト紹介してくれてありがとうね。あぁ、皆さん。私が園長の持田です。1泊2日、よろしくね」
上条先輩とはまた違う、やさしいおばさん、という感じでその人は笑った。
あまりオシャレに力をいれているようには見えず、着ている物はジャージ、セミロングの黒髪は後ろで束ねただけという、いかにも地味な格好をしていたけど、どこにも素末な感じはしない。どちらかというと、それが彼女の本質そのままで似合っているように思えた。
特別美人なわけでもないけれど、くりくりした目は人を安心させる。
幼稚園の園長というのは、きっと彼女の天職なんだろうな、と思った。
「持田さん、こちらこそありがとうございますっ! でも、なんだか大変そうですね」
「そんなことないのよ、いつもこうだからね。」
「なにか、手伝いましょうか」
「あなたはえっと、倉沢くんね? いいのいいの、新人さんにここは荷が重過ぎるわ。……そうね、キッチンへ行ってくれる?」
「でも——……」
上条先輩が言いかけたとき、素乃くんが「ひいっ」と声をあげた。
彼の足下には、自分より大きいものに対抗するのが面白いかのように、紙製の銃をつきつけた子供がいる。
「ああ、ダメよ、たろうくん。あっちで遊びましょうね」
この子もたろうくん……。
ねえ君。この人、体は君より大きいけど、同じたろうくん——ううん、君より弱いかもしれないよ……?
「うーん、仕方ないねぇ。とりあえず行こっか!」
上条先輩はこれ以上いては素乃くんが心配と思ったのか、そう言うと奥へ歩き出した。
私たちもそれに続く。
幼稚園の中にいるって、なんだか不思議。
全部が小さいように思える。
昔はなんの違和感もなかったのにな——
教室も、廊下も、水道も、トイレも。
通り過ぎる物にすべてそんな思いを抱きながら、私はキッチンに入った。
「ええとね、いい?」
持田さんが説明を始めた。
「今日は、あの子達みんなが泊まるのよ。だから食事も多く作らなくちゃいけなくて。とりあえず、そこにある材料でカレーを作ってくれるかしら」
カレーかぁ。
お泊まり会の定番だよね——って!!
「あの子達、全員ですか!?」
結構居たよ? 十、二十……二十五人くらいは居たかもしれない。
「ええ」
そのくらいなんでもないというように、持田さんは苦笑した。
その時、向こうの方で泣き声と、他の先生の悲鳴が聞こえた。
「園長せんせーい! 人数足りないのでお願いしますーっ!」
「はーい、今行きますよ! じゃあみんな、お願いね」
行っちゃった……。
「はあ……面倒くせえ」
「ちょっと冬真ー、そういうこと言わずにさぁ。ほらほらっ!」
「どうする? 全員でやるには少し狭すぎるが」
確かに……調理台は2人立てば精一杯の広さ。
「じゃあ、向こうの机と調理台に分かれよっか! 私と冬真、太郎くんはむこうで野菜切ってるから、のこり2人は調理台でお肉とかの下準備はじめててね! ほら、行くよぉ、2人ともっ」
一気にそう言い切ると、上条先輩は2人を引き連れて、向こうへ行ってしまう。
どうしよう、私料理って得意じゃないんですけど……。
「……始めるか」
私の不安をよそに、倉沢先輩は準備を始めた。
「ルーは置いておいて……あぁ、肉が大きいから、小さく切ってくれ」
「は、はい!」
肉を切るくらいならなんとかできそうだし、頑張らなきゃ!
えっと、この位かな……。
包丁で大きさを決め、切りにかかる。
「あれ……?」
切れない……。
肉がヌルヌルしててすべっちゃうよー!!
もう、ちゃんとおさえてるでしょ!?
ずっと格闘するけど、無理。
やっと切れても、園児の口には大きすぎるものばかりだし……。
その時、スッと包丁をとられた。
「く、倉沢先輩!?」
「肉はこのくらいが調度いいはずだ」
そう言うと、私がいくらがんばってもできなかった大きさに切り分けて行く。
「さすが……」
「簡単だ」
グサッ
悪気はないんだろうけど、でもさ……
なんだか泣きたくなってくる。
こんなんでバイトなんかできるんだろうか?
「それと」
「はい?」
「俺は雅でいい」
「え?」
「倉沢じゃなく、雅だ」
言い終わると同時に最後の肉がきちんと切れた。
それって、呼び名の事……?
なんでだろう。どっちでも一緒だと思うけど。
「雅くーん、とりあえずにんじん切れたよんっ」
「ご苦労様。じゃあ熱を通し始めるか。」
「へえ、肉も早く切れてんな。……切ったの、雅さんすよね」
意味ありげに私を見て鼻で笑ってくる冬真。
なんなの、あいつ! 私が下手とでもいいたいの!?
……得意じゃないだけよ。
結局、雅先輩が火を通し、ルーを溶かし、煮込んで、私が味見をしたカレーはおいしく出来上がりました。
…………おいしいからいいよね?