コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: くだらない為、無題! ( No.23 )
- 日時: 2011/07/08 21:54
- 名前: 仁都 (ID: qcI1n3YR)
第2話 「childrenのthreat」 Part5
「完成ーっ! みんな喜ぶねっ」
一番喜んでいる上条先輩がそう言った。
確かにおいしく出来上がったし、栄養のバランスがいいように野菜も沢山入っている。
「そうですね。残さず食べてくれるといいんですけど……」
「心配しなくても食べるだろ。どうせ幼稚園児なんて腹がへりゃ、そこらにある物なんでも食べるしな」
冬真が私の善意からくる不安を一刀両断する。
ちょっとあんたね、そんな言い方ないでしょ!?
「あ……あの、えっと……」
素乃くんはいつもの様に不安そう。
冬真を睨みつけてる私が怖いのかな、とは一瞬思ったけれどこれは譲れない。
こんなところで負けてたまるかってのよ!
「太郎くん、大丈夫だよー。だってほら……『喧嘩する子供ほど仲がいい』って言うじゃないっ?」
ニッコリと上条先輩はそう言う。
……どうでもいいけどなんかそれ、違いませんか?
私はもう子供じゃないつもりです。映画も大人料金ですよ。
……こういうところしか大人の証拠がないって、子供なの?
「いえ、え、あ、そうじゃなくて……」
素乃くんはまだ挙動不審。
ちらちら下を向いたりしていて、なんだか動作がいつもと違う。
——いや、いつも下は向いてるけどね?
と、その時。
「かれーなんて、たべないからねっ!」
「……は?」
いきなり発せられた声は近くから聞こえ、その言葉の意味もよく理解できなかった。
驚いて声の方を見ると、集まっている私たちの足下に彼女は居て、顔が天井と平行なのではというほどにこちらを見上げて難しい顔をしていた。
でも、その顔には「難しい」とはいえ締まりがない。
ぷにぷにした頬、大きな目、黒く長めの髪は頭の高い位置で二つ結びーいわゆるツインテールというものを作り出していて、大きめのリボンが小さな頭に目立っていた。
「幼稚園児だな」
くらさ……雅先輩の言葉が一番的確だった。
「ええと、あのね、今なんて言ったのかなぁ?」
上条先輩が少し笑って聞き返す。
「だから、かれーなんてたべないってゆってるのよ」
ニコリもとせずに女の子は答えた。
「わたし、きょうおとまりする『せら』ってゆうの。かれーはかろりーもたかいしたべたくない」
最近の子供って……!
なんでそんなこと知ってるの!?
「でもねえ、カレー食べないと体に悪いんだよ? 栄養満点なんだもん。ねっ?」
「むだよ、おねーさん。わたしはたべないってゆったらたべないの!」
せらちゃんはそう言うとふと表情を緩め、続けた。
「でも、おねがいをきいてくれるならたべてもいいよ」
「おねがいって?」
「それはね……」
そこで少しいたずらっぽく溜めると、彼女はこう叫んだ。
「おやつ!」
え……。
「かろりーたかいのはいや」って、そう言いませんでした?
「おやつくれたら、かれーたべてもいいよ」
「お前……我が儘も大概にしろ」
冬真がキレた。
気持ちは分かるけど、子供相手に……。
「いいの? わたしがかれーをたべないと、こまるのはおねーさんたちだよ」
一体この子はどこでそんな脅し文句を覚えたのよ……。
素乃くんレベルの人ならもう怯えてるレベルだよ。
実際怯えてるし、素乃くん。
「てめえ、なに言ってんだよ」
「待て冬真。この子供の言う事は最もだ。」
「うーん、そうだねぇ。仕方ないから、少しだけ準備してあげようか? 少しだけだよっ?」
え、ちょ、先輩方、折れたんですか!?
……まあ、他に方法はないけど……。
素乃くんもコクコクと頷いている。いや、ガクガク……?
「やった! じゃあまたあとでね!」
そこでようやく幼稚園児らしく笑うと、せらちゃんは教室へ戻って行った。
「ったく、俺は協力しねえからな」
冬真は呆れたようにキッチンを出て行く。
今に関しては分からなくもないよ?
なんせ幼稚園児の脅迫にのっちゃうんだから……。
「しかし、利口な子供だな」
「そうだねえ」
先輩方はのんきですね……。
まあでも、自分の健康を脅迫のネタに使うなんて、子供にしては奇抜な発想。
交換条件が子供らしいものだったのがせめてもの救いだよね……。
あと一晩、なんとか乗り切ろう。
キッチンから出ながら、私は必死に自分を勇気づけるのだった。