コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: くだらない為、無題! ( No.26 )
- 日時: 2011/07/08 21:57
- 名前: 仁都 (ID: qcI1n3YR)
第2話 「childrenのthreat」 Part6
「いただきまーす!」
幼稚園児達の元気な声が、小さな教室中に響いた。
夕食の時間、お腹の空いていた子ども達は喋る暇もなくおいしいおいしいとそれだけを繰り返してカレーを食べている。
うーん、なんていうか、こういうのいいなぁ。こうやって喜んでくれると作った甲斐というものもある。
この子達は純粋で素直で、まるで天使の様なー……って。
約一名、不審顔でこちらを見る児童。
それはもちろん——
「せらちゃん、食べないの?」
仕方がないから声をかけてみる。正直いうと、こういうタイプの子って苦手なんだよね……。
きついという言葉がぴったり当てはまる、それも女の子。
子供にはあんまり抱く事のない感情のはずなのに。
「おやつは?」
カレーには一口も手を付けていないのに……。
「ごめんね、まだ準備できてないの。この後用意するから、今はカレー食べてね?」
前屈みになって子供に話しかけるこの光景は、端から見れば幼稚園本来の自然な姿なんだろうけど、当事者にとっては全然自然なんかじゃない。
どうしてこんなところで頭を下げているんだろう、私は。
「しょうがないなぁ。ちゃんとよういしてよね?」
ひらがな発音は相変わらず、でも口調だけは変に大人びて彼女は言った。一応カレーは食べ始めてくれたけど、目がこっちを睨み続けている。
これはやっぱり用意するしかないかなぁ……。
「はぁ……」
不意にため息をついてしまう。バイトなのに、勝手なことをしてしまっていいんだろうか?
まあ、やらざるをえないけど。
その時、子供と一緒になってカレーにぱくついていたはずの上条先輩がいつの間にか隣に居る事に気付く。先輩は私に意味ありげな視線を向け、そっと小さなメモも手渡した。
渡し終えると先輩はにっこりと笑うと、再びカレーの残っている机へと戻っていく。
なに、このメモ?
『冬真と2人でせらちゃんのお菓子用意してあげてねっ
ちなみにこれは、先輩による厳選なる抽選の結果なので、変更はできません!
よろしくねっ』
え?
私が用意するんですか? っていうか、冬真と2人で!?
私が抗議の目を向けると、上条先輩は口の動きだけで「おねがいっ」と伝えて来た。
おねがいって、先輩。世の中には頑張っても無理なことってありますよ?
どうしたものかと考えている私は、絶えず幼稚園児と先輩の視線を感じ続け、ついには……
降参したわけです……。
やるしかないか。とりあえず冬真に声をかけておこう。厳選な抽選なのに私ひとりに負担がかかるんじゃ平等とはいえないし、奴に楽をさせると思うと、意地でも手伝わせたくなってしまう。
「ねえ冬真、これなんだけど……」
反発されるだろうと覚悟しながら、上条先輩のメモを冬真に見せる。
反応はもちろん想像通りで……
「………」
も、なかった。
あれ? おかしい、絶対に言い返してくると思ってたのに。
「ったく、あいつはまた……まあいいだろ、買ってくる」
「え……ええ!?」
「馬鹿、デカい声出すな、バレるだろ。じゃあ後は頼んだぞ」
そう言うと、冬真はあっさり出て行ってしまった。
なんか、予想に全く反していて、どう反応していいのか逆に困ってしまう。
ええっと……頼んで、いいんだよね?
私はしばらく唖然としていたけれど、その後はおかわりやら片付けやらに追われ、慌ただしい夕食の時間を過ごしたのだった。