コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: くだらない為、無題! ( No.28 )
- 日時: 2011/07/08 22:04
- 名前: 仁都 (ID: qcI1n3YR)
第2話 「childrenのthreat」 Part7
幼稚園児達の、静かな寝息が聞こえる。
——いや、女子高校生の寝息も、ひとつだけ混ざってるんだけど。
私は、可愛らしく眠る幼稚園児プラス上条先輩を起こさない様に、就寝部屋から抜け出している最中。せらちゃんに、約束のお菓子を渡す為に。
この部屋から少し行った、お遊戯室でせらちゃんが待っている。そこへ、お菓子を持った冬真が合流する予定。私が行くのは勿論——2人の喧嘩を、防ぐためな訳であって……。
あ、今、くだらない理由とか思ったそこの君?
結構重要なのよ、これ?
なんならあなた、行ってみる?
……と、居もしない空想上の人物に語りかけていても時間の無駄なので、とりあえず移動します。
男子が就寝している他クラスを通り過ぎ、キッチンを通り過ぎ、職員室を——かなり恐る恐る通り過ぎて。
なんとか、目標地点に到達。
「せらちゃーん……?」
む? 居ない?
もしかして、もう寝ちゃったとか。
うん、あり得るよね。もう真夜中だし、幼稚園児が起きてる方が不自然——
「おねえさん」
「きゃあっ!?」
「ちょっと! こえがおおきいよ。しずかにしないと、ばれちゃうでしょ?」
いつの間にやら私の足下に立っていたせらちゃんは、子供らしく口に人差し指をあてて、声を潜めて私を怒る。
「はあ……ごめんなさい、ごめんなさい」
「わかれば、いいけど。……ねえ、おやつは?」
「えっと、冬真が持ってくる筈なんだけど」
相変わらずな彼女に、腰を低くして対応する。
それにしても、ヤバい、不安になってきた。あの冬真のことだから、すっぽかしたり、買ってきても、幼稚園児には食べられない様な激辛とか持ってくるんじゃ……?
どうしよう。今になって、奴に行かせた事を後悔する。
「おい、そこの幼稚園児2人。……コレだろ」
不意に、目の前にコンビニ袋が落ちてきた。
「え、っと……冬真!? 本当に買ってきた!?」
「おねえさん、うるさい!」「うるせえよ」
ハモった。2人は目を見合わせると、無視あるいは舌打ちという反応を見せ、せらちゃんの方は袋を覗き込んだ。
「……買ってきて悪いか。頼まれたから、行ったんだろ」
「あ、ううん、悪くはないんだけど……」
せらちゃんが床に並べて行くお菓子を見ると、ドーナツとか、ポテトチップスとか、普通のお菓子ばかりみたい。よかった……。
「そこのガキも、さっさと食って寝ろよ。…………は?」
珍しく、冬真が驚きの表情を見せる。
それもそのはず。——せらちゃんが、泣いていた。
「え、せらちゃん!? どうしたの。ほら、お菓子あるよっ」
「ぐすっ……う、ううっ……」
押さえ込む様に泣きながら、彼女は言った。
「ちがう……おかあさんの、おかしじゃない……!」
『おかあさんの、おかし』?
それって……
「もしかして、お母さんの事を思い出したの? お母さんの味が、恋しくなっちゃった……?」
「…………うん」
——なんだ。泣かれるのは困るけど、可愛いところ、あるじゃない。
寂しかった訳か。いわゆる、ホームシック。
「大丈夫。明日には会えるから、今日はもう寝よう?」
「うあっ……おか、おかあさんっ!!」
……ホームシックといえど、泣き止んでもらわなくては困る。どうしよう?
まさか、私がお母さんの代わりになるなんて、出来ないし。
「——おい、後輩野郎、後ろ向いてろ」
「は? 私? ……って、野郎じゃないんですけど」
「うるさい、黙れ、さっさとしろ。バレたら困るの、お前だろうが」
ムカっとくる、この言い方。
でも今は、泣き止んでもらうのが先……後で覚えてなさいよっ!
とりあえず、素直に後ろを向く。
「よし。……お前も泣くな。俺だってな——」
コソコソと、内緒話のときみたいな音だけが聞こえた。
ううん、本当に内緒話してる?
「——え?」
「だろ。……だからお前のは、たいした事じゃねえんだよ」
せらちゃんの、驚きの声。同時に、泣き止んでいる。
「おにいさん……」
「気にすんな。ほら、戻った戻った」
少し申し訳なさそうな顔をして、せらちゃんが部屋を出て行った。
私は振り向く。
と、変わらない、仏頂面な冬真が居た。
「何してたの?」
「さあな。……あーあ、面倒くせえ」
素っ気ない。
だけど……
「……ありがと」
「どういたしまして?」
全く、恩着せがましいんだから!
「冬真も、早く戻りなよ」
それだけ言って、お遊戯室を後にする。
一体、どうやってせらちゃんを泣き止ませたのか分からないけど、とりあえず寝よう。これ以上ないくらいに、眠い。
布団に入って数十秒で、私は眠りに落ちた。
『俺だってな——おかあさん、居ねえんだよ。ずっと。』
自分の言った言葉を思い出し、馬鹿だな、と冬真は思った。
そんなこと、とっくの昔に忘れていた筈だった。
なのに。
大した事じゃないだろうと言って、『微笑んだ』冬真に、一人の幼稚園児はどう思っただろうか。——言いふらさなければいいが。特に、あの生意気な後輩には。
「ま、小さい子供は、なんでも忘れるだろうな」
——昔の、俺の様に。
月明かりが、冬真を照らしていた。
ー学校にて・第2話エピローグ?ー
上条真野は、走っていた。
バイトで溜めたお金を、職員室へ持って行くところである。
「失礼しまーす! 窓の修理費、持ってきましたっ」
職員室に居た教師一同が、その大声に、迷惑そうな表情を見せるのに、彼女は気付かない。
「ああ、上条。話は園芸部部長から聞いたんだが……」
「はいっ! ちゃーんと持ってきましたよ」
嬉しそうに、得意げに言う女生徒に、すこし困り顔で顧問教師は言った。
「あのな? ……修理費は、部費で落とせばいいんじゃないのか?」
「…………あ、そっか」
よくよく考えれば、する事のない部でも、部費は少しくらい分けられている。それはまさに、こういう非常時に活用するものであって。
「修理なら、もう終わっているから、そのお金はいらないんだ」
「……はーい! 失礼しましたーっ」
入ってきた時と同じテンションで出て行く彼女は、考えていた。
——こんなこと、冬真に言ったら怒られちゃいそうだから……パーティーでも開こうかなっ!
結局のところ、既に直っている窓を見て、部員達は感づいていたのだが。