コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: くだらない為、無題!〜名前募集していますっ〜 ( No.33 )
- 日時: 2011/07/08 22:07
- 名前: 仁都 (ID: qcI1n3YR)
番外編 「若き日の、大人な自分」
こんにちはっ、皆さん!
誰に挨拶してるんだとか言われても気にしない、気にしないっ!
今日お話するのは、若き日の私、上条真野の、物語——
「上条さん、これ教えてくれない?」
「どれ......? ああ、この数学の。これは——」
放課後、帰り支度をしていた私に声をかけてきたのは、クラスメイトの女の子。中学3年ともなると、やっぱり勉強のことが気がかりみたい。
自慢じゃないけど、数学は得意科目だったりするから、こうして質問を受けるのもそう珍しくない。
......数学以外の教科まで質問される事もあるんだけどね......。
「——で、こうなるの。分かった?」
「うん、やばい、すごくよく分かる! やっぱり上条さん、頭良いねえ。外見も美人だし......あーあ、私もそういう風に生まれたかったなぁ!」
「ええ......それは言い過ぎなんじゃ?」
軽く、苦笑。
でも本心では、結構ダメージ受けてたりするんだよ?
胸のあたりまで伸ばした髪は、もともとの癖のせいで、先の方だけが内巻になっている。眼鏡はかけるのが面倒だから、コンタクトレンズですませ、外でかける事は殆どなかった。
髪のカールに関しては、なかなか好評なようで、こうして褒められるときによく言われるポイントでもある。
顔立ちも、自分では特に意識したことがないけれど、周りにはよく美人だと言われる。
ただ、そんな外見が、私にとっては、異常な程のコンプレックスだった——
周囲には、常に「できる優等生」みたいな目で見られちゃうし。
時折受け狙いで発言しても、シーンとした空気になるか、逆に褒められるかのどちらか。......誰も、私のオヤジギャグに笑ってくれないんだもん。
そしてなにより。
誰も、今みたいな勉強以外のことで、私に話しかけてはくれなかった。
「私じゃ相手に不足してしまう」「話すには少し緊張する」
そんな理由がほとんどで、私に対しての不満や嫌悪や、そういった類でではなく。
たまに言われれば、それは確かに嬉しいかもしれない。でも、こんな風に、みんなに一線を引かれてしまう事は、誰とでも話していたい私にとって、苦痛以外の何者でもなかった......。
「あ......時間だ」
とっくに話も終え、時計を見やると、四時の少し前だった。
私はこれから、約束がある。
とはいえ、私からの一方的なものだけど。
自分の気持ちを奮い立たせて、私は「そこ」へ向かった——
ーー体育館裏。
告白なんかによく使われる、おなじみの場所。
そして私は今、そのおなじみの光景を、自ら作り出していてーー
「......好きですっ! 付き合ってください!」
勢いで一気に頭を下げ、手紙を両手で突き出す。
彼は少し、戸惑っているみたい。
お願いお願いお願い!
なんでもいいから、とりあえず受け取ってよー!
ドキドキと大きく波打つ心臓。
と、そこに、その動きを静止させるかのような言葉がーー
「......ごめん。」
「......あ............」
ーー沈黙。
その場を取り繕う様に、苦笑しながら彼は言った。
「やっぱり、俺なんかじゃ不足だろ? 上条さんには、もっといい人いるから。それに、モテるから、すぐに他の奴らがよって来そうっていうか。だから......今回は、ごめんなさいってことでーー」
それだけ言って、彼は私に背を向け、気まずそうに走っていった。
その、小さくなっていく背中を見つめ、私はただ、涙を流す。
ーーやっぱり、そうなんだね。
私の本心なんて、誰も見てくれない。
成績や、外見や、評判や、そんなものばっかりで。
ねえ、他の人が来たからって、私があなたを振るとでも思ったの?
私、そんなに酷い人じゃないつもりなんだけどなーー
後から後から溢れ出る涙にどうする事も出来ず、目を擦っていたらコンタクトがずれはじめてしまった。もう、なにもかもがもどかしくて、周囲と自分を隔てる「外見」という壁にうんざりした。
静かにコンタクトを外し、眼鏡をかける。
ーーこれからはもう、周囲に遠慮なんて、しないでいこう。
それで嫌われるなら、それでもいい。私はただ、「私」という人間を、見てほしいから......。
家に帰ったら、この長い髪も切って、気持ちも新しくするんだ。
きっと。
周りの期待通りの優等生でいなくなったら、傷つく事も、あるだろう。
だから、その度に、こうして泣くんだ。
泣くだけじゃない、笑って、怒って、それでもまた笑って。
——でも、泣いてしまった時、コンタクトじゃ痛いから、この眼鏡をかけていよう。
いつでも、素直に泣ける......そんな私になる為に。
ー番外編・終ー