コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: くだらない為、無題! ( No.7 )
- 日時: 2011/07/08 21:37
- 名前: 仁都 (ID: qcI1n3YR)
第2話 「childrenのthreat」 Part2
飛んで来た物体を、倉沢先輩が持ち上げてみると、それは——
「ほうき……?」
ごく普通の竹箒だった。
「なんでほうきなんかが——」
「これは、あの子かなぁ」
「ったく、またあいつかよ……」
私と素乃くんを除く部員はみんなそれに見覚えがあるようで、苦笑あるいは迷惑顔など、個々にリアクションをとっている。
素乃くんはもちろん、いつもの不安顔でキョロキョロ、だけど。
私はといえば、そんな場合にする表情や言葉の持ち合わせなんてないものだから、ただ成り行きを見ているしかない。
これは何か聞くべきか、なんて思ったところで、別館の古くさい扉が大きく開かれた。
「みなさん、ご無事ですかっ!?」
扉を開いたその女生徒は、慌てたように大声を張り上げてそう言った。
でも、私が彼女に抱いた第一印象は、「綺麗」というその言葉だった。
それこそ、倉沢先輩と並ぶくらいに。
背中に流れる艶やかな黒髪。
あんなに大きな音をたててドアをあけたとは思えないほどに細く、長い指。
制服からのぞく肌は色白で、一見すればひ弱そうなのに、よく見るとしっかり筋肉がついているようで。
「健康的な美しさ」というものを完璧に兼ね備えた彼女は10人中10人の目を奪うことなんて容易だろう。
しかし彼女は、私のそんな羨望の眼差しなどには気付く様子もなく慌ただしく言葉をつなげた。
「あの、そこの花壇をお手入れしていたら大きな音が聞こえて——……!!」
「いやいや、大丈夫だよー」
一向に落ち着きを見せない彼女に対し、上条先輩はまったりとそう言う。
「この部屋ん中みれば分かるだろ。なんもねえよ」
冬真も面倒くさそうに続いた。
「え、え、あ——……あ、はい。そうみたいですね、よかった……。て、冬真くん、先輩には敬語、ですよ! いつも言ってるじゃないですか」
「んなことより窓みろって、窓。……あっちのがよっぽど大変だろ」
「窓……? あ、ああーっ! 私ですか!? ご、ごめんなさいっ! ごめんなさいぃ!!」
なんかこの人、色々すごいなぁ……。
「まあまあ、落ち着いて未花ちゃん。新入部員諸君にも紹介しなくっちゃ!」
「新入……あ、1年生のですか? よかったですね、真野ちゃん!」
そこで初めて「未花」先輩は笑顔になった。
に、しても——
やっぱりこの人、美人だ、と私は思う。
笑顔になると、とたんにまわりの雰囲気まで明るくなる。
私や素乃くんの入部が原因みたいだけど、この笑顔を見られるなら入部してよかったかも、なんて無意識に思ってしまうのが不思議だ。
「えーと、この子は此処の部員じゃないんだけど、簡単に紹介しておくねっ!
私の友達の未花ちゃんでーす! 部活は園芸部、ちなみに部長で、担当がこの別館の窓の外の花壇。だからこれからもちょこちょこ見かけるかもね!」
あ、この人だったんだ、あの花壇手入れしてたの。
それにしても、几帳面なんだなぁ。
「それでもって、この通り心配屋さんなのっ。まあ、そこが可愛いんだけどねぇ。」
「ちょ、真野ちゃん! やめてくださいよーっ」
未花先輩は照れたように否定したけど、どうも本当らしい。
さっきの一件で十分すぎるほどに分かってしまいますよ……。
すると未花先輩は、またいきなり申し訳なさそうな顔になり、
「それよりも窓……すみませんでした! 今から先生のところに報告して、私が弁償しますから!しばらく不便なのは本当に申し訳ないんですが——……」
「いいよ、いいよ。こっちこそごめんねぇ、びっくりさせて。それに……弁償は私たちでがするよ!」
「ええっ!? いいんですか? わたしが割ってしまったのに——」
「ううん、もとはといえばこっちの責任だし」
「おい、勝手にきめんなよ。俺は金なんてねえから」
なんでそういう風に人の善意を踏みにじるのよ!
と、いいたいところだけど、私も正直持ち合わせがない。
どっちに着くべきか、と、私の中の天使と悪魔が格闘試合を始めた時、倉沢先輩が口を開いた。
「金なら俺がだす。それならいいだろう?」
ええ、なんという善人!
いや、もしかしてお金持ちだったりして?
うん、この先輩なら十分にあり得る。
「だめだめ! ひとりに任せるなんてできないよ。」
「あの、私は……」
「未花ちゃんは気にしないで? 部長さんが他の部の事に気を回してたら、園芸部の子も大変だもん。ね?」
上条先輩、何気にうまくフォローしてる……。
なんか感動かも。
そうだ、私だってお金の事気になんてしてられない!
「あの、私も協力します」
「おお、さすが未来のエース! 我らが期待の星っ!」
さすがにそれは褒め過ぎですよ。
「だから、冬真も協力してよね」
「なんで俺なんだよ。つーか呼び捨てしてんじゃねえ」
無視無視。
この場は挑発してでも協力させるんだから!
その時、校内放送が流れてこう告げた。
——園芸部部員の生徒は、次回の高校園芸大会について打ち合わせを行いますので、職員室前に集合してください——
「あ、私行かなきゃ。……けど、本当にいいんですか、みなさん……」
「もちのろんだよ! さあ部長は行った行ったぁ!」
「あ、で、では。本当にごめんなさい」
そういうと、後ろ髪を引かれるのか、ちらちらと振り返りながら未花先輩は職員室に向かった。
それを確認すると、私はおずおすと不安を告げた。
「すみません、あんなこと言った割に、私あんまりお金ってないんですけど……」
言いたくないけど言わないとどうしようもない。
すると他の部員は
「わたしもないよんっ」
「ぼ、僕も……すみません……」
——え?
上条先輩、自信ありげに弁償するって言ってたけど……
「じゃあ、どうするんですか?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!」
わざとらしく一呼吸おいて、先輩はこう言った。
「みんなでバイトをします!!」