コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: くだらない為、無題! ( No.8 )
- 日時: 2011/07/08 21:42
- 名前: 仁都 (ID: qcI1n3YR)
第2話 「childrenのthreat」 Part3
「バイト、ですか」
なるほど、確かにお金を稼ぐ為にはそれしかない。
「うん! 暇でやる事ないんだし、社会勉強になるし、一石二鳥でしょっ」
二つ目の理由って、とってつけたような感じがするんだけど、あえて今はスルーしておこう、うん。
「待てよ。俺はバイトなんかしねえ」
出た!
冬真の俺様・我が儘虫!!
「ダメだよー。だって募集人員5人のそろわないとできないんだもん」
「え、なにするか決まってるんですか?」
「うふふ、コレだよ、コレ!」
といって上条先輩が、ストラップのついた自分の鞄から取り出したのは、1枚のプリント。
私と倉沢先輩、素乃くんの3人は、A4サイズの大して大きくもないそのプリントを覗き込んだ。
いちばん上には『おほしさま幼稚園』という大きな字と、白黒印刷の星のマークがいくつか躍っている。
「『おほしさま幼稚園』? なんですか、これ」
「あのね、話すと長くなるんだけど——」
前置きして語り出した上条先輩の話はまとまっておらず、その言葉通りに長くなったので、私が代弁しておこうと思う。
先輩にはお姉さんがいて、その人にはすでに子どもがいるそうだ。
早婚だったお姉さんは、周りのお母さんのように器用になんでもできるわけがなく、困っていたという。
そんな時に彼女が子供を入園させたのが、この幼稚園。
夜にお泊まり保育なんかもしている親切な幼稚園で先生もいい人達ばかり。
困った事があると、幼稚園以外のところの事でも相談に乗ってくれ、大いに助かっていたそうだ。
先輩のお姉さんの子——、いわゆる、先輩の姪にあたる子は卒園してしまったらしいけれど、その頃の縁が今も続いているそうで、今に至るという。
「——でね、その幼稚園が春のお泊まり会の手伝いをしてくれるバイトを募集してるんだって!」
「それがお姉さんから先輩に伝わって来たわけですか」
「しょーゆーコト!」
「しかし、なんで5人そろってでないといけいないんだ? 別に募集しても変わらない気もするけどな」
「ああ、それはね、幼稚園児の事で先生たちは手一杯で、バイトの方まで余り手が回らないらしくてさ。ついでにお泊まり会だし、気心のしれたバイトがまとめて来てくれたら助かるーっ!ていう感じなんだってっ」
「気心のしれた」というところで、明らかに素乃くんは不安そうになった。
それを察知したのか、それまで我関せずとばかりに黙ってそっぽを向いていた冬真が疑問の声をあげた。
「気心しれた5人もなにも、俺らは会って1週間かそこらの、しかも単なる部活仲間だろうが。」
「それで十分! みんなこーんなに仲いいじゃんっ」
なんて、上条先輩は自信満々におっしゃる。
そうでしょうか……。
って、そんなこと言ったらこいつの思うつぼじゃない!
「そこの1年眼鏡がいいっていうならな。けど、どう見てもそいつ、気心しれてねえだろ」
うっ
痛いところをつかれた。
確かに素乃くんはまだ挙動不審というか、私たちを信用しきれてないというか……
「……り……ます」
「へ? どうしたの、太郎くん?」
ブツブツとなにかを唱え始めた素乃くん。
上条先輩でなくても同じ事を言いたくなる。
「僕……やりますっ——!」
初めて素乃くんが顔を上げて私たちを真っ直ぐに見た。
眼鏡の奥の瞳はまだ不安げだったけど、強い決意が感じられる。
「さっすが!! ……ふふふ、どう? 見た? 冬真っ!」
まるで自分の手柄をあげるように上条先輩が冬真を振り返る。
冬真は驚いた顔で素乃くんを見ていたけれど、約束は約束と勝手に話を進める上条先輩を見てあきらめたようだ。
ため息をつくと、別館を出ようとする。
「ちょっ! どこいくのよ!」
「今日は帰る。……バイトはどうせ明日以降からだろ」
その言葉に私は少し驚いてしまった。
その間に冬真は出て行ってしまったけれど。
——今の、「バイトする」って意味だよね? ……ひねくれてたけど。
「よしよし、冬真も了承したことだし、私これから幼稚園に行ってくるね!」
上条先輩も冬真の後を追うように出て行ってしまった。
「今日は解散、か。」
そう言うと、倉沢先輩も帰り支度をはじめた。
「え、皆さん帰られるんですか? じゃ、じゃあ僕もお先にっ……」
最後になってはたまらないとばかりに素乃くんはそそくさと部室を出た。
さっきの彼との違いように私は少し呆然として閉まったドアを見つめる。
——私も帰ろっと。
その時、出て行きがけにポンと頭になにかが乗った。
びっくりして見上げると、そこには倉沢先輩の整った顔があり、私と反対にこっちを見下ろしていた。
その手の意味を考えながら、鼓動が速まるのを感じる。
い、いきなりなんなんだろう……?
頭の中が赤熱していく私をよそに先輩は、
「鍵、頼むぞ」
そう言うと、あっさり手をどけて帰ってしまった。
……あ、そういうオチですか。
いささか残念な気持ちも残るものの、外を飛んで行くカラスの声で我に返った私は、日の暮れかけた空を見て、慌てて別館を後にしたのだった。
もちろん鍵を片手に、ね……。