コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: †he legend of story【カキコの書き手登場】 ( No.16 )
- 日時: 2011/03/29 20:33
- 名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)
Ep4
そのころ、魔獣ビッグ・ベアーを倒した3人はとぼとぼと、いつまでも続く荒れ地を進んでいた。敵が現れたら次のステージに行けるという便利機能はこの世界にはない。敵を倒したとしても、こうやって地道に進んでいくしかなかいのだ。萌恵は地図を指で辿ってつぶやいた。
「さきほどのビッグ・ベアーは、魔界都市に続くグリモアの門付近に出没すると記録されていた魔獣です。だから、たぶんこのルートをしばらく行けば魔界都市に入れると思うんです」
それを聞いていたそるとくりーむが遠くを指差す。
「ふーん…じゃあ、アレがグリモアの門じゃないですかねー?」
「え?ど、どこですか?」
「ほら、あの大木の隅にー…でっかくて黒くて、いかにもーって感じの門があるじゃないですかー」
そるとくりーむは杖の先を古い大木に向ける。萌恵は眼を細めてじっとその先を見た。確かに、わずかにしか見えないが漆黒の鳥居がある。まるでカモフラージュして隠そうとするように、その門のまわりには何本も背の高い木が植えられていた。これだ。萌恵は地図と比較する。うん、間違いない!
「よかったです!やっとここまで来れましたね、そるとさん、黒兎さん」
「ん——…、何?着いたの?僕もう疲れちゃったんだけど。っていうかみかん食いたい、みかんー」
「あ、あはは…。ま、まぁひとまず魔界都市に入れば、案内人の友桃さんが宿を紹介してくれますよ。そうしたら晩御飯にしましょう、あとちょっとの辛抱です」
萌恵は苦笑いで答えた。黒兎は肩をだらんと落としてふらふらと歩いている。今にでもぶっ倒れそうな勢いであった。…たぶん、旅の最初の頃に張り切り過ぎたのがいけなかったんだろう。あの頃の黒兎の元気はもう見る影もない。
そんな彼女と比較しても、そるとくりーむは顔色一つ変えずに淡々と歩んでいる。萌恵はなんとなく、そるとくりーむに問いかけた。
「そるとさんは結構旅に慣れてる感じがしますよね?チームに入る前にもこういう仕事してたんですか?」
萌恵が隣に歩み寄りながら聞く。そるとくりーむは一瞬、萌恵のほうをちらっと見て、それから静かに言った。
「企業秘密。…おしえてあげなーい」
「えー…?そう言われたらもっと気になります」
「そうー?……まぁ、幻術師の仕事なんてね、ロクなもんじゃないってだけだよ」
「…?…」
ふいに瞳を曇らせたそるとくりーむが遠くを見る。萌恵はなんだか、彼女が遠い処に行ってしまうような気がして彼女の腕をきつく握った。
いつもは飄々としていて、何を考えているのかわからないそるとくりーむ。それは彼女の性格からだと思っていたが、どうやら少し違うようだ。
…彼女もまた、過去を背負って、ここにいる。
私たち魔王討伐チームに入った者は、決して強いからという安易な理由で選ばれたのではない。
勇者として世間に称えられる存在であると同時に、世間から追い出された人間でもあるのだ。
異質な力を持つものは、過酷な人生を生きて行く運命にある。世間から畏怖された者は見放される。
そう。そんな世間から隔離された者を有効利用するために集められたのが魔王討伐チーム。
壮絶な過去のひとつやふたつ、背負っていてもおかしくはない者たちが集まっているのだ。
萌恵はしみじみと思い出した。突然腕をつかまれたそるとくりーむは少し驚いた顔をして。
「びっくりしたー…なんですか萌恵サンー」
といたって普段通りの声で呟く。萌恵は、咄嗟に手を離してエヘヘと笑った。その様子を不可思議に思いながらも、そるとくりーむは何も言わずに、視線を周りの景色にうつす。
萌恵は思った。…そうだ、そるとさんも黒兎さんも不器用なだけ。やっぱり、私たちは似た者同士だから…仲間なんだよ、と。
「私たち、きっと良いチームになれますよね!」
萌恵がそう言うと、それを何気に聞いていた黒兎が。
「だからー、僕たちはライバルなの!やだよ、仲間なんて面倒くさいじゃん。連帯責任って大っ嫌いなんだから。…ていうか僕の足を引っ張るような奴は即切腹だかんな!」
と釘をさす。変わらない彼女の態度に萌恵は笑うしかなかった。…やっぱ、良いチームになれるかどうかは黒兎さんが主導権握ってるんだよなぁ…と、溜め息をつきながら。
すると——-------…。
「…!ちょっと、そると君、萌恵君、コレがグリモアの門なのかい?」
黒兎が慌てたような、はしゃぐような声で指をさした。萌恵とそるとくりーむがその声に反応して顔を上げる。いつのまにか、門の近くまで来ていたようだ。
萌恵は「うわぁー…」と感嘆の声をあげ、そるとくりーむも「ほー…」と嘆息つく。
目の前には、巨大な漆黒の門構えがそびえ立っていた。