コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: †he legend of story【カキコの書き手登場】 ( No.39 )
- 日時: 2011/03/30 23:14
- 名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)
Ep6
グリモア城にて。魔王討伐チーム3人が友桃と運命の出会いを果たしたこの時、グリモア城にも変化が起こっていた。
いまだに解散せずにとどまっていた月読愛、紗夢羅、山下愁、ゆんの四人のいる特別待合室に、新たな訪問者が現れたのである。
だんだんと近づいてくる数人の足音…そして、バタン———…と、静かに扉が開かれる音。壁際で言い争っていた愁とゆんは一時休戦し、現れた人物に敬礼する。一方、月読はちらりと一瞥しただけだった。ティーカップを置いた紗夢羅が人懐こい声で歓迎する。
「あ、元帥と詩織ちゃんだ〜っ!おっひさぁ〜〜♪」
魔王軍元帥が軽く会釈をする。野宮詩織はかついでいた漆黒の大鎌を下ろして紗夢羅に笑みを向けた。そして何事もなかったように紅茶をすする月読の隣にスッと座る。月読は一瞬嫌そうな顔をしたが、しかし何も言わなかった。
「紗夢羅っちも月読嬢もあいかわらずデスネェ。月読嬢は私のことをまだ苦手なようデ…?」
「何を言っているのかしら。月読は『苦手』なんじゃなくて『嫌い』なんですの。…離れてくださる?死神とお茶をする趣味はありませんの」
「キャハハハ!…まあ固いこと言わないでくだサイ。私は結構、月読嬢のそういう冷たいところ、嫌いじゃないんデスヨ…?」
そう言って詩織が月読の肩を引き寄せる。ぐい、と縮まる距離に月読が牙を見せた。辺りの空気が凍りつく。月読は鬼のような形相で低く呟いた。
「……月読に触るな、この無礼者が」
月読の魔族特有の威圧感が部屋全体を包み込む。あきらかにピリピリとした空気の中、それでも詩織は腕を退けない。ヘラヘラと笑うだけで、彼女の覇気をものともしていないようだった。詩織が笑いを交えて言う。
「アレ?怒っちゃいましたカ?いいんデスヨ?その自慢の牙で私の喉元に噛みつき、引き裂いても。まァ、私はそれくらいじゃあ死にませんがネ!キャハハハッ」
狂ったように笑いだす詩織。月読は怒りの頂点に達し、とうとう我を忘れて牙をむく。口を大きく開いた時だった。
——-----———リン…——-------———
やすらかな鈴の音が部屋に響き渡る。
すると、さきほどまでの部屋中に散漫していた殺気がふっと消え去った。まるで浄化されていくように清涼な風が辺りをなびく。月読は詩織の首に噛みつく直前でピタリと止まっていた。
部屋に居る者全員がその音の方に目を向ける。そこには、巫女服姿の人物が、ちょうど扉を開け放った状態で立ち止っていた。そして、ひとこと、凛と響く声音で言う。
「……遅れました」
ふわり、と袖をたなびかせて部屋に入る彼女は幹部に一礼し、そして詩織の方へ歩み寄る。
詩織は「あーあ…イイトコだったのにィ」とぼやいて、ようやく月読から手を離した。詩織の座るイスまで近づくと、銀弧はそっと詩織の肩に手を乗せる。
「御客人。席を、譲ってもらえますか」
冷気を帯びたような声だった。詩織は銀弧に振り向くと、一瞬つまらなそうな顔をして、席を立つ。
「いいデスヨ?…お久しぶりデスネェ、銀弧さん。やはり貴方は此処にいましたか。いやはや、懐かしいものデス」
「さて…?何のことでしょう。私はアナタと会ったことはありませんが」
「へェー…、そういう『設定』デスカ。難儀なものですネェ…ようやくしがらみから解放されたというのに、まだ未練がおありのようで」
「……——-何をおっしゃっているのか、わかりかねますね。人違いをされているのではないですか」
「………ふーん。あくまでもシラを切っちゃうのネ」
「——-------—……」
「まァ、いいや。私にはもう関係のないことデス。それに…ここで全てをバラしちゃったら後が面白くないデスし?」
詩織はそう言い切って数歩移動すると、置きっぱなしにしていた大鎌を持ち上げる。それを肩にかつぎ、トコトコと扉の前まで歩んでいった。そのまま振り返らずに「じゃーね、皆サン。空気悪くしてゴメンナサーイ」と高らかに言って扉を閉める。台風が過ぎ去ったような状況だった。月読はまだ動揺しており、牙を露わにしたまま。他の幹部は次々に溜め息をつき始める。
ゆんは胸に手をそえて、気の抜けるような声で。
「はぁ〜…、やっと息が出来たっす。もう死ぬかと思いました」
と言う。隣の愁は腕を組み直して目を閉じた。
「まったくだな。死の国からやってきた客人とはいえ、あんな得体のしれない奴を好き勝手させていいのか?魔王は何を考えてやがる」
元帥はその発言にぴくりと眉を動かし、ふうと溜め息をついた。
「…魔王様にもお考えあってのことでしょう。私めは野宮様の監視役を命じられております故、これにて失礼」
元帥はいかにも重い足取りで部屋を出る。きっとあの詩織にいろいろと苦労しているのだろう。幹部のメンバーは同情の目で元帥を見送った。
銀弧はそれを見届けると月読の背中をさする。
「大丈夫ですか、月読の末裔よ」
月読はひどく疲れ果てた表情でこくんとうなづいた。
「……これが初めてじゃないもの。あの死神に絡まれるのはいつものことよ。気にしてないわ」
案外、強気な返事が返ってきたことに銀弧は微笑みながら席を離れた。それと相対して紗夢羅が月読のもとへ駆け寄る。ティーカップに紅茶をそそぐと彼女の前に置き、心配そうに月読を見つめる。月読は苦笑して手を振った。
流れるように部屋を歩き、扉の前まで進んだ銀弧に愁が声をかける。
「あんた、何処にいくんだ?」
銀弧は少し立ち止まり、ふらりと顔だけを愁のほうに向けて微笑した。
「……まだ、私にはやるべきことがありますので」
そう言うと、足早に部屋を出る。彼女の去った後にも部屋には健やかな空気が残っていた。ゆんがほー…と彼女が閉めた扉を見つめながら呟く。
「ほんと、謎な人ですよねー…銀弧さん」
ほのかに芳る桜の残り香が幹部たちの鼻をかすめた。