コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: †he legend of story【カキコの書き手登場】 ( No.5 )
- 日時: 2011/03/28 22:17
- 名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)
Ep2
「ぎゃあああああああッッ!!」
萌恵はビッグ・ベアーを見ながら後ろ向きに2人のところまで走る。我ながら叫びながら逃げている様は情けないと思うのだが、今はそれどころじゃない。黒兎とそるとくりーむの背中に抱きついてバシィっと指差した。
「あ、あれ、あれ…ッ…」
もはや言葉にもならない。それよりも、さっきの驚きで心臓が止まるかと思った。そんな萌恵を見ながら、そるとくりーむはいたって表情を変えずに杖を構える。
「はいはい萌恵サン、だいじょーぶですってー。てゆうか、これから魔界都市に入るのにそんな逃げ腰じゃダメですよー?こういうときは焦らず平常心で対処しないとー」
「……そるとくりーむさん、ひとつ言っていいですか?」
「なんですか萌恵サン」
「杖……逆に持ってますよ」
「…………」
そるとくりーむは何も言わず、杖を持ち直した。それを見て黒兎が「ふっ……」と笑う。
「ダメですね、2人とも。こういうときは焦らず平常心だって言ってるじゃないですか。さぁ、僕の剣さばきをそこで黙って見てればいいよ、下僕諸君?」
「………黒兎さん、ひとつ言っていいですか?」
「なんだい萌恵君」
「剣……鞘から抜いてませんよ」
「…………」
黒兎は何も言わず、剣を鞘から抜いて再び構えた。
「ほら、アレだから。僕たち、まだ初心者だからね。こういう失敗はつきものさ、ハハハハハ」
「そーですよー、そう小さいことをグダグダ言ってるとー萌恵サン、老けちゃいますよー?アハハハハハ」
「…………」
た、頼りになるのかこの2人。というか、自分も入れたら3人なんだけどね。萌恵は行く末が心配になってきた。
つい先日、ノスタルジアの王宮に呼び出された黒兎、萌恵とそるとくりーむは魔王討伐チームに入った。
しかし、当然ながら萌恵たちは魔族相手に戦うことは初めてなのだ。
たしかに、人間相手では負け知らずなメンツなのだが…魔族相手となるとそう簡単にはいかない。
これからはより強い精神で乗り切らねばならないのだ。
…それでも、緊張しているのは自分だけではないのだと萌恵はほっとしていた。
感情を表に出さないそるとくりーむも、強気な黒兎も、人間らしい一面があるのだと。
萌恵は弓を握りしめた。大丈夫。私だけじゃない。そう、最初は誰だって恐い。けれど、私は一人じゃないんだ…——。
「コホン。気を取り直して————————……行くよ?」
黒兎が、先手をきった。
タタタッと俊足でビッグ・ベアーに立ち向かう。彼女の身の丈ほどある長い日本刀は軽々と振りかぶられ、ビッグ・ベアーの胴をかすった。
『グアアアアアアアアアアアッッ』
「…チッ。一撃じゃ倒れないか」
黒兎はブンブンと両手を振り暴れるビッグ・ベアーから距離を置くと、血の付いた剣を一振りし、汚れを取る。
次は、そるとくりーむが杖を構えた。上空に杖をかざすと、魔法陣が5つ現れる。そるとくりーむが詠唱し始めた。
「聖なる光よ、我に力を与えたまえ。大地の恵みよ、我の糧となれ。出でよッ—------……だいこん大魔法!!」
そう言い放ち、杖の先をビッグ・ベアーに向ける。その瞬間、5つの魔法陣が重なり、一つの巨大な魔法陣が現れた。吹き上げる旋風。
すると、ビッグ・ベアーの頭上から、何百何千もの大根が降ってきた。
『グオオオオオオオオオオ!!!!』
ビッグ・ベアーが動揺している。そう、あれは幻覚魔法の一種。本当は大根なんてひとつも降ってはいないのだ。しかし、痛覚は感じる。まるで、それが現実のように…。
チャンスだ。ビッグ・ベアーが大根に気をとられている間がチャンス。
萌恵は2人が攻撃している間に遠距離に移動していた。そうだ。人一倍気の弱い私が唯一勝てるもの。それは離れた所から放つ矢。
弓を握りしめ、ビッグ・ベアーの頭に狙いを定める。右、左、右、左……大根を避けるようにして振る頭。でも、問題ない。
萌恵は二本同時に矢を放った。二つの矢が吸い込まれるようにビッグ・ベアーの脳天に直撃する。
一本は右寄り。もう一本は左寄り。頭を左右に振っていても当たるように、だ。
萌恵はふう、と息を吐いた。成功。急いで黒兎とそるとくりーむの元へ駆けつける。
「やりましたね!黒兎さん、そるとくりーむさんっ!!」
黒兎がこちらに近づきながら剣を鞘におさめた。
「ちぇ、僕の出番が少なくてがっかりだよ」
同時にそるとくりーむも杖を振り、魔法陣を払いながら言う。
「そうですよー、萌恵サンがとどめ射しちゃったら、まるで萌恵サンひとりの手柄みたいじゃないですかー」
萌恵は苦笑いした。え、ここはもうちょっと感動的な場面じゃないんですか?ほら、協力して敵を倒したんですよ?もっと、三人で肩を抱き合ってやったね!ってよろこぶものじゃないんですか?え?
黒兎がじっと萌恵を見つめた。
そして、またもや萌恵の心の中を読むように言い放つ。
「萌恵君、かんちがいしないよーに!僕たちは魔王討伐という一つの目的を達成するために一緒に旅をするだけであって、実を言えば誰が一番敵を倒せるかというライバルなんだよ」
「え、ええええええええええ!?」
そ、そうだったんすか!?ここまできて衝撃の事実だった。え、まじですか、それ。なにこれ、え?フツーに友情高めようよ、フツーに!一緒に戦うんだから仲間じゃん。そんな、あからさまに敵視してますよ的なこと言われても…。
萌恵は助けを求めるようにそるとくりーむを見る。すると、彼女は視線をはずして、
「ま、そーいうことだから」
とひとこと呟いた。そ、そるとさんまで?萌恵は口をあんぐり開けて、肩を落とした。なにこのチーム。うわ、なんか裏切られた感ハンパないんですけど…?え、いいの、コレ?RPGゲームの舞台裏って、こんなに壮絶な仲間モメしてるの?
萌恵は、やはり、このチームの行く末が心配になった。