コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: †he legend of story【カキコの書き手登場】 ( No.51 )
- 日時: 2011/04/01 09:56
- 名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)
Ep7
グリモアの門前で立ちすくむ3人…黒兎、そるとくりーむ、萌恵の前に現れた友桃はにこりと笑って首をかしげる。ポロポロと壊された外壁の屑が落ちていくなか、沈黙だけが過ぎていった。そして、ようやく声を振り絞った萌恵が他の2人にひそひそと呟く。
「よ、よかったじゃないですか…ほら、これで門を通過できますよ」
苦笑いで笑って見せる萌恵。しかし、動揺の色が隠せていない。その言葉に黒兎は半キレ気味に言い返した。
「よかっただって!?ばっかじゃないの?あいつ誰!モンスター?新手のモンスターなの?そうだよ、僕たちを殺そうとしてるんだよ、そうに違いないって!」
黒兎が友桃を指差して叫ぶ。一方の友桃は頭の上にハテナを浮かばせながら三人の様子を見つめていた。そんな彼女の様子をぼーっと見ながら、そるとくりーむが言う。
「…あれ、友桃さんでしょー?仲間じゃないですかー。黒兎サン、ハナシ聞いてなかったんですかー…?」
不可思議そうに呟く彼女に、黒兎はブンっと振り向き、またしても暴言を吐く。
「はぁ?あんなハチャメチャな奴が!?ちげえよ、きっとあいつは友桃とやらの皮を被ったモンスターに決まってんだろ!僕たちをあの門ごと始末しに来たんだって!幻術師がなに惑わされちゃってんのさ!」
拳を握りしめて叫ぶ黒兎に、そるとくりーむが溜め息をつく。まあ、黒兎さんがそう思うのもふしぎじゃないですよね…と萌恵は眉をひそめて笑う。結構疑り深く、思考までもがゴーイングマイウェイな黒兎さんは、いったんそうと信じ込んだことに考えを変えない。たしかに、インパクトが大きすぎて焦るのもわかるんだけど…。萌恵はこれじゃあ話が進まないと思い、一人でに友桃のほうに歩み寄った。
「ちょ、萌恵君!?」
と黒兎の静止をうながす声が聞こえるが、こればかりは無視だ。萌恵は外壁の残骸を踏み越えながら、友桃の前へ近づく。そして困惑気味の彼女に向かって右手を差し出した。
「え…と、友桃さん…ですよね?私、魔王討伐チームの萌恵っていいます。これからよろしく!」
そう言うと、彼女はぱあぁと目を輝かせて萌恵の手を握った。
「はい!こちらこそ!あ、あのー…わ、私…皆さんのお力になりたくて…思わず門を吹っ飛ばしてしまって…驚かせてしまってすみません」
「いえ、謝るのはこっちです。なんか黒兎さんが友桃さんのこと変な誤解してて…せっかく助けに来てもらったのに…」
「いえいえ!私なんかが出過ぎたまねを…。火薬の量まで間違えちゃったし…もう本当に何とお詫びを言ってよいか…」
お互いに交互に頭を下げる。まるでシーソーのような、そんな2人の様子を見てそるとくりーむが黒兎の袖を引っ張った。
「ねー黒兎サン、あの2人見てくださいよ。似た者どうしみたいですねー。もう意気投合してるしー…、って黒兎サン?聞いてますー?」
黒兎はツーンと頬を膨らませる。いまだに友桃のことが信用ならないらしい。そるとくりーむは「だめだ、こりゃ」と小さな声で呟いて、目を伏せた。そして、萌恵と友桃の方へゆったりと歩んでいく。
すると黒兎があたふたしながら叫ぶ。
「そると君!?キミも行ってしまうのかい!」
「はあ…?決まってるじゃないですかー…。ああ、もー…いいかげんにしないとー、置いてっちゃいますからねーホントー」
と言いながらも既に黒兎を置いて行ったそるとくりーむは、瓦礫を抜け、萌恵の元に辿りついていた。
友桃に軽くお辞儀をして、萌恵と同じように右手を差し出す。
それから軽く挨拶を交わし、何やらその三人で盛り上がっていた。笑いあう声と、友桃の純粋な笑顔。
ぽつんと置いてけぼりにされた黒兎は、再び徐々に頬を膨らませていき、ぷー…と唸る。
にぎやかに話す萌恵とそるとくりーむ、そして友桃の姿。それをまじまじと見せつけられているように感じて、黒兎の拳にはだんだんと力が入っていった。
この僕を放ったらかしにしやがって…!そっちがそういう気なら、こっちだって!
黒兎はもやもやとした心の中をぶちまけるように、最大限の声で目前の三人に向かって叫んだ。
「僕の言うことを聞かない下僕なんて、もういらない!せいぜい楽しくそっちの三人で旅してればいいよッ!!僕は先に魔王を倒しに行ってやる。一人でも十分だ。これからは別々に行かせてもらうよ!」
一言一句、息を止めて言い放った黒兎に、吃驚して振り向く三人。しかし、萌恵もそるとくりーむもしばらくすると困ったような顔をして。
「何言ってるんですか、黒兎さん。もー、冗談言ってないではやく友桃さんに謝ってくださいよ。彼女は助けてくれた恩人なんですから」
「黒兎サーン、今回ばかりは横暴すぎると思いますよー…?さぁ、こっちにおいでくださいよー」
と、揃いもそろって言う。まるで駄々をこねている子供をあやすような口ぶりであった。黒兎はそれを聞くと、憤慨して頭に血を昇らせる。それから小さく「チッ…」と舌打ちをすると、大振りに後ろを向き、それから何も言わずにスタスタと歩いていってしまった。
さすがに見ていられなかった萌恵が黒兎の名前を呼ぼうとしたが、その口を後ろから伸びてきた手が押さえた。萌恵が振りかえると、意外にもそるとくりーむがふるふると頭を横に振る。
「ほっとけばいいよ…どうせ、すぐに飽きて戻ってくるから、あの人」
よく彼女のことを知ったような口ぶりであった。普段はあまり自発的な行動をしないそるとくりーむに止められ、萌恵はおろおろと困惑する。そうしているうちに、黒兎の姿は遠くなっていき、もうどこにも見当たらなくなっていた。萌恵はそるとくりーむの手を取り、視線を落とす。
「で、でも…本当にいいんですかね。黒兎さん、お腹減ってるって言ってたのに——…」
「別に…いいんじゃない?ああいう軽率な行動をする黒兎サンのほうが悪いんですよ。あなたがそこまで心配する必要はない。萌恵サンは甘いんですよ、そういうところが…。フツーはあんな態度の人、追いかけて行こうなんて思いませんって…——そうでしょう?」
「そう…ですか?…——まあ、そるとさんがそこまで言うなら…」
萌恵はやはり黒兎のことが心に残る。最後に見た、どこか寂しげな後ろ姿が瞼に焦げ付いて忘れられない。しかし、半ば強引なそるとくりーむにも逆らえず、うつむいていた。隣から友桃の声が聞こえてくる。
「あ、あの…さっきの方、追いかけなくても…?」
そるとくりーむは振り向き、「問題ありませんよー」とわずかに微笑みながら呟いた。
いつのまにか元のマイペースな声音に戻っている。萌恵を説得していたあの時の喋り方は初めて聞いた。きっと、あれが本来のそるとくりーむの声だったのだろう。
さらさらと風が吹く。落ち葉と共に外壁の屑がバラバラに散っていった。
空を見上げると、もう日は落ちているようで、本格的に夜色の空が広がっている。
萌恵はこの空の続く先にいる黒兎を思いながらも、歩を進めて行った。