コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: †he legend of story【カキコの書き手登場】 ( No.60 )
- 日時: 2011/04/03 02:12
- 名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)
Ep9
暗雲たちこめる中、不気味な雰囲気漂う荒れ地に逆戻りしていた黒兎はとぼとぼと歩いていた。
地図は萌恵が持っているし、生活必需品もそるとくりーむに持たせていたので先に進むことも野宿することさえできない。
勢いであの3人のもとから離れて行ってしまったので、そういうことは全然考えていなかった。
黒兎はふぅっと小さく息を吐く。…別に、後悔はしていない。だって、萌恵とそるとくりーむが悪いんだから。
……僕は、…悪くないもん。
冷たい風が吹く。そのたびに足元の木の葉がカサカサと散る様子をなにげなく見つめていた。
あの2人と共にこの荒れ地を進んでいた時よりも一層寒くて感じて、身ぶるいする。
…なんでだろう。今は身体の奥がとても寒い。
なにか、大切なものを失ったかのように胸がうずくのを、黒兎は認めたくなくて堪える。
違う。ちがう、チガウ。
僕には、仲間なんていらない。
一人でも、生きていける。
だって……———これまでも一人で生きてきたじゃないか。
【桃源郷ノスタルジア】で魔剣の遣い手として畏怖された時も、暴れまくって警察沙汰になり、牢屋で過ごしていた時も。
釈放の条件として、魔王討伐チームに入ることが決まった、あの日も————……
『黒兎さん!よろしくおねがいします、私、萌恵っていいます!これからチームの仲間として頑張っていきましょうねっ』
『こんにちはー、ぼくはそるとくりーむっていいますー…まぁ、色々とお世話になりますー。…あ、この喋り方、デフォなんで怒らないでくださいねー?』
王宮で出会った萌恵と、そるとくりーむ。今でもあの時のことは鮮明に覚えている。
…王宮の廊下をひとりで歩いていた時。すれ違う者は僕のことを怯えた目で見、軽蔑し、ヒソヒソと陰口を叩く。僕はそれを冷たい瞳で見返して、そして目を閉じた。
あの時の僕はひどく人間不信で、病んでいたといっても過言ではない。僕には失うモノもなかったし、失いたくないモノもなかった。ただ強さだけを追い求めて、それで満足していた。
—————……そんな僕に、フツーの人間と同じように接し、とまどいもなく笑いかけ、そして正面から向き合ってくれたのが、萌恵とそるとくりーむだった。
廊下から続いていた、外の庭園。僕はそのまぶしさに立ち止まる。あの美しい花も、明るくて全てを包み込む青空も、僕には似合わない。
そう思って、再び廊下に引き返そうとしたとき、名前を呼ばれた。
『黒兎さんですよね!?』
萌恵の声だった。傍にはそるとくりーむも居て、花を観賞していたらしい。チームの仲間として僕を知っていた2人が、近づく。それから、一方的な自己紹介をされた後、ぐいっと手をとられ、引っ張られた。
『黒兎さん!ここのお花、とっても綺麗なんですよ!一緒に見ましょうよっ』
萌恵が嬉しそうにはしゃぐ。一方そるとくりーむは僕の背を押し、
『あったかいですよー。ほら、はやくはやくー…』
と、僕をせかす。2人に無理やり庭園に押し込まれ、外に出た。その瞬間、僕は目を見開く。
——……それは、僕とは無縁だったはずの美しすぎるモノたち。
庭園に乱れ咲く多種の花。そして暖かく身体を纏う風。風になびかれて花びらが空中に舞う。
唖然としていた。僕の前に、世界が開けたような気がした。
振りかえると、微笑みかける二つの顔。それは…僕を変えた。
自分でも笑えちゃうくらい、僕はあの2人に影響されまくってる。今だって…——--。
「……ちぇ、変なこと思いだしちゃったじゃないか。…なんでこんなこと」
強烈な突風が黒兎を現実に戻す。今いる世界は、あのまぶしい景色とは相対の、闇が広がる殺風景な荒れ地。
——…、ああ、たいしたことはない。
もといた世界に戻ってきただけ。暗くて冷たい、僕がいるべき本当の世界に。
わづかに頬がひきつった。こんなに感傷的になっている自分が可笑しい。
ふと、空を見上げた。…曇天。黒か白かもはっきりしない、不安定な色が続いていく。
黒兎は思った。これは自分の心の中を見ているようだ、と。
——--------その時——---------—
「きゃああああああああああああああ」
近くで、女性の叫び声が聞こえた。
それも切羽詰まったような金切り声。黒兎はガバッとその声の聞こえた方角に振り向く。しかし、そこに姿は見えない。
だが、確かに聞こえたそれに不安感が募り、気づけば全速力で走っていた。
一瞬の声だったから、わからない。確証はない。けれど、ここらには、僕たち魔王討伐チームの他に人間は居ないはず。もしかしたら…。
もしかしたら、萌恵の叫び声かもしれない。
あの後、僕を追いかけてきていたとしたら…
そして、魔獣に襲われたのだとしたら…
最悪の想定が浮かぶ。激しく呼吸をし、疲れきっている身体を酷使して走り切った。
すると、荒れ地の道が開いていく。平地のような場所に出た。…やはり、僕の考えは当たっていたよだ。
トロールが姿を現す。薄緑色の分厚く異質な肌を露出させ、今にもその手に持つ金棒で誰かを襲おうとしていた。
僕は魔剣を腰の鞘から瞬時に抜き取ると、高く跳び、叫んだ。
「そいつから離れろッッッ——-!!!!!」
トロールが僕の声に反応して振り返る。飛び込んでいった僕は、両手で『ブラック・ラビット』を持ち変え、振りかぶった———。