コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: †he legend of story【カキコの書き手登場】 ( No.69 )
- 日時: 2011/04/03 19:59
- 名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)
Ep11
魔界都市グリモアの南、暗黒街。暗い夜空にランプが灯るこの町は、まるでハロウィン・パーティーの舞台のようだった。
だが、行き交う者はもちろん人間ではない。
異形の姿をした魔物や魔族が溢れかえり、ワイワイと賑やかに話し、歩き、店に入っていく。
万全の配慮で進んでいた友桃、そるとくりーむ、萌恵は全身を包み込む麻衣のローブを纏い、身を隠していた。
このローブには魔獣の毛が組み込まれており、これを羽織れば人間の匂いはなかなか嗅ぎつけられない。
しかし、少しの油断も許されない。一寸先には魔族。ここで人間だとバレてしまえば取り囲まれて一貫の終わりだ。
そんな中、そるとくりーむが突然、歩を止める。
「……っ…」
そして片手で耳たぶを押さえて、うつむいた。急に立ち止ったそるとくりーむを心配して萌恵が近づく。先頭を歩む友桃も振り返った。
「そるとさん…?どうしたんですか」
萌恵がそう聞くと、そるとくりーむは手を耳から離し、壊れたピアスを彼女に見せる。そこには、そるとくりーむがいつも右耳に付けていた赤のピアスがあった。しかし、今、それは醜く歪み、真ん中からパキリと割れている。萌恵は「あっ……」と声をあげた。
「それ、そるとさんが大事にしてたピアスじゃないですか!…残念でしたね…綺麗だったのに…」
そう、それはそるとくりーむが両耳につけているピアスの片方だった。左耳には緑、右耳には赤のピアス。左耳に残された緑のピアスを見て、ふと思う。変な組み合わせだったが、何か意味があったのだろうか。…前から気になっていたので、萌恵はこの際聞いてみようと思った。
「そういえば…そのピアス、何かの魔道具なんですか?片耳ずつ、色が違ってますよね!」
萌恵がそう聞くと、そるとくりーむは壊れたピアスをポケットにしまいこんで、答える。
「…いや、ちょっと違いますねー…。——---…お守り、なんですよ」
「お守り……?」
「そうですー。健康祈願というか、安全祈願というか」
ほぇー…と驚く萌恵は一瞬考え込んで、「あ」と思いつくように声をあげる。
「じゃあ尚更壊れちゃったらダメなものじゃないですか!…うわあ…何かよくないことが起こる予兆だったりして」
その呟きに反応して、そるとくりーむは目を瞑った。脳裏に、あの黒髪紅目の魔剣使いが思い浮かぶ。そして小さな声で静かに呟いた。
「………よくないこと、…———もう、起こってたりして…ね」
「…え?」
「いや、なんでもないですー」
そるとくりーむは誤魔化すように微笑んだ。萌恵は少し不思議に思ったが、それは前方の声にかき消される。友桃がにっこりと笑って、そるとうりーむと萌恵を呼び、ある一点を指差した。
振り返る萌恵とそるとくりーむ。友桃が続ける。
- Re: †he legend of story【カキコの書き手登場】 ( No.70 )
- 日時: 2011/04/03 20:00
- 名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)
「そるとさま、萌恵さま、もうすぐ宿に着きますよ。暗黒街を通り抜けて、あの丘にある…———ほら、あの屋敷。今宵はあそこに泊まる予定です」
2人は驚き、目を見開いた。友桃が指差す先に在るのは、見るからに宿とは言えない豪邸。どこかの大富豪の別荘のような屋敷だった。
萌恵が感嘆して、友桃に向かって叫ぶ。
「友桃さん!あれ、本当に私たちが泊まれるんですか!?すごい…立派な建物みたいですけど———……」
信じられない、という思いで萌恵がたずねる。友桃はその様子を「ふふっ…」と笑って、微笑んだ。
「驚いたでしょ?ふふ…でも、本当ですよ。私の知人が住んでいる屋敷なんですが…人間に好意的な魔族の所有しているものなんです。信頼のおける方なので、大丈夫。心配はいりません」
穏やかに笑う友桃の姿を見て、萌恵は半ば困惑気味に「そ、そうなんですかー」と笑い返す。ガイドである彼女がそこまで言うのだから安全なのだろう…だが、多少なりとも不安はあった。人間に協力的な魔族がいたことにも驚きだ。
腑に落ちていないような、とまどっている萌恵の様子を見て、友桃は彼女の手を取った。
「大丈夫です。私を信じてください」
萌恵はハッと友桃を見つめた。彼女は目を開き、どうか私を信じて———…と瞳で訴えかけてくる。普段から笑っていて、目を瞑っているところしか見たことがなかった萌恵にとっては、それは強烈な印象を覚えた。
普段、友桃はおだやかで、笑顔満点で、お花が飛んでいるようにポカポカとしているようなオーラを放っている。しかし、目を見開いた彼女の雰囲気は一転変わって鋭く、芯の通ったものとなっていた。相対する二つの面。
萌恵はその雰囲気に押されるように、コクリとうなづいた。すると、再び目を細めて笑う友桃。彼女は2人に背を向けて、「さあ、行きましょう。あと少しです」と言って先を進んでいった。
萌恵は高鳴っていた胸をおさえ、友桃の後をついていく。
歩き始めながらも、萌恵は内心、吃驚していた。
友桃という人物が思っていたより奥深くてミステリアスなのだと。穏やかで丁寧で優しい笑みを持つ人…。しかし、それだけではないらしい。もっと、本当の彼女の素顔がある。そう感じた。
それに———…彼女の雰囲気が変わった時、背筋が一瞬ぞくりとした。
だって、…彼女の目は…——
自分の命を懸けても何かをやり遂げようとする、そんな目だ。
覚悟の目。しかしそれは私たちを無事にナビゲートすることに向けられている物ではない気がする。
もっと、何か、別のものに対しての覚悟。それが垣間見えたように感じて、萌恵はドキリとしたのだ。
萌恵は、友桃の背を見て、わずかに息を吐いた。少し前まで一緒に旅を続けていた黒兎の姿と重なる。
しかし、彼女はここにはいない。
——…黒兎さん、大丈夫かな。やっぱり、心配だな。あの人、あいかわらずゴーイングマイウェイだし、注意力散漫だし…危険な目に合ってないといいんだけど…——--
萌恵はブンブンと頭を振って、気を取り直す。大丈夫だよ、黒兎さん、頼もしいし、強いし。萌恵は強引に心配ごとを頭から消去した。
…一方、そるとくりーむはずっと考え込んでいた。口をつぐみ、友桃の背を凝視する。
そしてポケットに入れた赤いピアスを握りしめながら、ひとり呟いた。
「…ぼくが今日中に使える魔法は、あと二つ…か」
ふと夜空を見上げ、月を見る。まだ夜が明けるまで時間は長い。
一日24時間以内に使える魔法は最大三つ…それがそるとくりーむの幻術師としての枷であった。
高位魔法専門のそるとくりーむにとっては、一回に使う魔法ごとに体力の消費が激しい。しかし、そるとくりーむはそれでも最上ランクのほうであり、普通の幻術師が高位魔法を無理に使うと死にも値するのだ。それを一日に三回も使えるそるとくりーむは確かに天才であった。
だが……———
もう一度日が昇るまでは、そるとくりーむが魔法を使える回数はわずか残り二回。
それがそるとくりーむには気がかりであった。それに、状況が状況なだけあって、尚更。
「——…せいぜい、今宵が良い夜になることを願おうか…。ねぇ…?——————…黒兎サン」
そるとくりーむは、夜空の流れ星を見つめて、笑った。