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Re: †he legend of story【カキコの書き手登場】 ( No.71 )
日時: 2011/04/03 22:01
名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)

Ep12





「あーあ、夜になっちゃった…。まったく、この地図おかしいよ。グリモアの門なんて、どこにもないじゃないか。高くそびえたつ漆黒の門…って聞いたんだけど、見当たらないし。それにこの荒れ地、ビッグ・ベアーが出るって噂があるんだろ?やだなぁ、もう。誰だよ、僕を魔王討伐チームに推薦した奴!こんなの割に合わないっつの!」

少年は地図を広げて、機嫌の悪そうな声で独り言を繰り返しながら荒れ地を進んでいく。日が完全に落ちた今、この荒れ地は闇に包まれており、先も見えない。
それに加えて、道に迷ってしまったらしい。こんなところで翌朝まで野宿なんて…と少年はひたすらに歩きまわっていた。

「なにか…なにか、目印みたいなものないのかなぁ。ま、期待しても無駄だとは思うけど!」

ランプを四方八方に翳しては、キョロキョロと辺りを見回した。しかし、そこに在るのは枯れかけた木と草むらのみ。
少年が本日何度目かもわからない溜め息をついたときだった。


——-------リンッ…—---------—

場違いなほど綺麗な、鈴の音。

「…?…なんだ?気のせい、かな。さっき鈴の音が聞こえた気がし…——-」

——------リンッ…リンッ…—-------------

再び、その音は続く。それはこの少年を誘うように、だんだんと離れていった。暗い荒れ地に木霊する、鈴の音。

「僕を…呼んでるの?…——-あ、ちょっと待ってよ!置いてかないで!」

遠のく鈴の音に、慌てて少年はその音を追いかける。何故かはわからないけれど、その優しく優雅な響きについていかなければならないような気がしたのだ。少年の走るペースに合わせて、リズムよく鳴る音。

——-----リンッ………—-------------

途中で、その鈴の音は途絶えた。少年がそこで立ち止まる。その鈴の音の正体を探ろうとしてランプをかざすと、花びらが点々と落ちて積み重なっている道があった。花…それも、よく見ると桜ではないか。

「桜なんて…季節はずれなのに———…」

少年は疑問に思いながらもその道をザクザクと歩んでいく。しばらくすると、開けた平地に出た。そこで、驚愕のものを発見する。その巨体にランプをかざすと…——薄緑色の分厚い肌。手に持った金棒。これは…—---!!

「野生のトロール…ッ!」

少年は身構える。とっさに辺りに生えていた草むらに忍び込んだ。が、様子がおかしい。そのトロールは動きもしない。眠っているのか、とも思ったが、それにしては呼吸音がない。トロールは下品な怪物だ。眠っているのなら寝返りをうったり、うるさいいびきをかいているはず。少年はそっー…とその巨体に近寄った。そして、もういちどランプをかざす。

トロールは、死んでいた。

———…否、殺されていた。

「…ッ…野生のトロールはかなりの荒くれ者だ…そう簡単には倒せない…——誰がやったんだ…?」

亡骸となったトロールの巨体を見回すと、雷に打たれたような黒いコゲ痕があった。そしてその中心部には胸から背中まで貫通した、大きな穴が開いている。血液は飛び散っていない。となると、一瞬の炎か電撃を喰らったんだろう。…それに、死んでからあまり時間が経ってない。まだ生温かい肌を触って、確信した。

殺された時刻は、ついさっき。
雷なんて落ちていないから、これは誰かが仕組んで殺した痕跡だ。
けれど、トロールの身体にはこの貫通した穴以外に傷がない。
他の魔物と争った形跡も、なかった。

——------------……これは、まさしく人間の技だ。

それもただの人間じゃない。僕と同じ、魔王討伐チームのメンバー…。


「…けど、なんで魔王討伐チームの人間がここにいるんだ?もうとっくに魔界都市に入ったのだとばかり思ってたんだけど…——-」

そう。僕、コウタは魔王討伐チームの追加派遣員。
先に魔界都市に入って行ったはずのチームを追いかける形でグリモアの門を探していたのだ。
しかし、ついさっきまで、そのチームの人間がここでトロールと戦っていた…?

「…変なの」

コウタは呟いた。そして、考えを巡らせる。最初に思いついたのが、もしかして僕と同じように道に迷った挙句、魔界都市に入れずじまいのところでトロールと遭遇して戦ってたってパターン。ま、それならそれで僕はチームと早く合流できそうだからいいんだけど…——-。って、これじゃあなんかオマヌケだな。道に迷って敵地に入れなかった勇者なんて、かなり情けない。…あ、僕もひとのこと言えないケド。

コウタが溜め息を吐いてトロールから離れようとした時…——

「……誰か、誰か…助けて。この人が…死んじゃう」

それはそれはかすかに耳を澄ませていなければ聞こえないほどの声。
少女の声だった。せいいっぱいの震える声で泣きじゃくりながら呟いているような…。

「そこに、誰かいるの!?ねえ、どこにいるんだ?」

コウタが叫ぶと、その声は微弱ながらも先程よりは大きな声で叫び返した。

「……ここ、ここよ!はやく、はやくしないと…この人が、死んじゃう…っ!!」

コウタは振り返る。すると、一番多い茂みの中に、わずかに動く人影を見つけた。コウタはランプを前方にかかげながら走り寄る。ビクリと肩を震わせる人影に、コウタはできるかぎり優しい声で茂み越しに話しかけた。

「大丈夫。僕は人間だし、キミの味方だよ。…そこにトロールが死んでいたけど、それはキミがやったのかい?」

人影は、ふるふると首を横に振る。そして、ようやく茂みを腕で割いて、その少女は姿を現した。

「ちがうの。わたしじゃないの……この人が」

金髪の少女は振り返って、茂みの中を見る。コウタはつられるように、茂みの中に足を入れてその奥を見た。
そこにいたのは、ひどい傷だらけの女の子。
漆黒の長い髪を散らせて、蒼白な顔で横たわっている。口元には血がこびりつき、その剣を持つ手は火傷をしたように赤くなっていた。一見、死んでいるのかとも思ったが、喉が動いている。
…生きている。でも、危険な状態だ。
コウタは急いで少女にたずねる。

「この人、誰なんだ?」

「わたしを助けてくれたの。トロールに襲われそうになっていた時、この人が現れて……でも、あの金棒で怪我を。わたしがこの人を見つけた時には倒れてて……それで…ここまで運んで…」

少女はかなり動揺しているようだった。
確かに、少女の服にも血がところどころついている。これは横たわってる彼女を運んだ際に付いたものだろう。少女のスカートが少しずつ破られており、それは彼女の出血を抑えるための布として使われていた。応急措置の仕方が丁寧で、正しい。
これなら、助けられるかもしれない。

コウタは少女に向かって言った。


「この人を助けよう。…手伝ってくれる?ええと…キミの名前はなんだっけ?」

少女は涙目でコクンとうなづきながら、小さな声で言った。

「……美波」