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Re: †he legend of story【カキコの書き手登場】 ( No.9 )
日時: 2011/03/29 15:33
名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)

Ep3




一方【魔界都市グリモア】では数人の魔王の幹部がグリモア城で集っていた。月読愛はロココ調の可愛らしいティーセットを机に散らばせ、優雅に紅茶をすする。そして反対の席には紗夢羅が鼻唄を歌いながら頬杖をついていた。壁際に立つのは軍服姿の護衛隊長、山下愁と副隊長のゆんである。
中心に置いてあるのは監視用の特大級の水晶玉。その水晶玉には、魔界都市の国境付近で戦っていた魔王討伐チームの3人が映しだされている。

そう、なぜ幹部が集まったか。それは魔王討伐チームに対抗するための作戦会議を開いたためであった。
しかし、いたって急なことであり、グリモア城の近郊にいた幹部しか集結できず、話しあいは中断せざるおえなくなった。

「月読がせっかく足を運びましたのに……いったい他の幹部は何をしているのかしら?」

月読愛がティーカップを静かに置き、冷たい声で言い放つ。鼻唄を止めた紗夢羅が歌うようにつぶやいた。

「仕方ないじゃないですかぁ♪幹部は国に散らばるようにして住んでるんだから。離れたとこに住んでるせいでどうしても来れない人は仕方ないよ、月読ちゃん♪」

「……それでも、納得がいきませんわ」

月読がふう、と溜め息をつく。それから、再び不機嫌な声で話し始めた。

「それに、月読がいらついている理由はそれだけじゃないんですの。……たった数人の人間を片付けるために、なぜ幹部が集まらなければなりませんの?そこらへんのザコ魔族にでも任せればよいものを」

そう言って、カチャカチャとティーカップの紅茶をスプーンで混ぜる。だんだんと声に怒気が籠り始めているのは、その場にいた誰もがすぐにわかった。山下愁が、頭をポリポリ掻きながら、めんどうくさそうに口を開く。

「まぁまぁ、そう怒りなさんな、月読嬢。私らだってムカついてるさ。私の場合、気の利かない部下に寝ているところを強引に起こされてね。今だって心底眠いのを我慢しているのだよ」

そこで、隣に立っていたゆんがボソッと言う。

「気の利かない部下って……俺のことっすか」

愁は大きくうなづいて答えた。

「そうだ。集会が中止になるのならば私をわざわざ呼ぶんじゃないよ。そういう無神経なところが彼女のできない理由じゃないかね?ゆん副隊長?」

ゆんはキッと愁を睨んだ。

「お言葉ですが、俺、彼女はできないんじゃなくって作らないんです!ていうか部下の色恋話に口を出さないで貰えますか、隊長。隊長こそ、万年ぐうたら女だから彼氏ができないんですよ。べーっだ!」

「なんだと…?」

険悪な空気。壁際の上司と部下対決は激化していく。それをよそに、紗夢羅が席をすっと立って水晶玉を覗きに行った。つんつんと指で撫で、映しだされている3人を凝視する。
その様子を不気味に思った月読が声をかけた。

「何をしていますの?あなた」

紗夢羅はにこにこと笑いながら映しだされる光景を見て、答える。

「ん〜♪…楽しくなってきそうだなって。この人間たち、けっこうやるんじゃない?ほら、荒れ地のビッグ・ベアーを一瞬でヤっちゃった」

「…まぁ、人間どもの中でも魔王討伐チームというのは精鋭を集めたものなのでしょう?戦いにおいて素人ではないのなら、当然の結果じゃありませんこと?」

「そうかもねー…でも、ちょっとは手ごたえありそうじゃん♪退屈嫌いのお嬢様にとっては、いい暇つぶしになるんじゃないかと思うんだけど?」

「あら、甘く見てもらっては困りますわ。月読はこんなヤワな人間たちと遊んでやる趣味はありませんの」

「そう?…そっかぁ、それは残念。もっと面白い展開になると思ったのに〜♪」

そう言うと、紗夢羅は再び鼻唄を歌い始め、月読のティーセットからティーカップをひとつ取ると、勝手にポットから紅茶を注ぎ始める。
月読はピクリと眉をひそめたが何も言わず、ただ紅茶をすすった。
壁際の2人はまだ痴話ゲンカをしている。

月読はそっとティーカップを置くと、水晶玉に目をやった。


そしてフッと微笑して目を細める。


「…そう、退屈は嫌いなんですの。…あなたがたは月読を楽しませることが出来るのかしら?」


月読はひとり呟いて、水晶玉に爪を立てながら指を滑らした。
なぞった部分に、線をひいたような引っかき傷が残る。
それはまるで、3人の身体を引き裂くように——————……。