コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

続きは、また ( No.74 )
日時: 2011/11/07 15:52
名前: 花瑚 (ID: lMzQV.10)

【続きは、また】

久しぶりに帰ってきた、この街。
何もかもが昔と同じってわけではない。
田舎だったはずの町は、適度に田舎な街になっていて。
コンビニがいくつか増えて、がたがただった砂利道はちゃんと通りやすい道路に。
懐かしい景色もどこか違う。

———ああ、この街も変わってしまったのかな。

変わらないのは私だけ。
私だけが取り残されてしまった、

異世界とも呼べるあの街で。



昔通っていた通学路をブラブラ歩いていると、前から男子中学生が1人歩いてきた。
知らない人だと思って顔を伏せた。

「あれ、杏(あん)?」

誰かが、私の名前を呼んだ。
———え、誰?
思わず、声に出すと

「あれ?覚えてないの」

間抜けな声をしたその男子が首をかしげた。

「俺だよ俺、伊吹(いぶき)。隣に住んでた」

愛嬌のある顔でそう言う、伊吹と名乗る男の子。よく見ると、目の下にほくろがある。

……え、全然思い出せない。
誰……?

「…ごめん」
「えっ!覚えてないの?」
「———そっか。俺のこと覚えてないか」

なんだか悲しそうに目を伏せて、石ころを蹴っている制服を着た——伊吹を私は覚えていない。
この人は、誰なんだろう?
隣に住んでた…?
私の家の隣って誰か住んでたっけ———?
霧がかかったように霞む記憶をもどかしく感じるとともに、
“どうしよう、私っておかしいのかな”
不安がむくむくと湧き上がってきた。
何で覚えてないんだろう。
だけど。

私のことを、この街で覚えている人なんていたんだ。
そのことが少しだけ嬉しかった。



「それはそうと、何で帰ってきたの?」

朗らかな笑顔で聞いてくる、伊吹に

「……ちょっと一人旅みたいな」

苦し紛れに言った嘘に、伊吹は突っかかりもせず

「ふ〜ん」

興味なさそうに言った。



私がこの街を離れたのは、8年前だ。
親の転勤、なんて簡単な理由じゃない。
真逆だ。
親が無職になった。
両親ともに辞職を出して、
“私を連れて都会に出ていく”
そう告げられた時、私は素直に頷かなかった。
頷けるなはずなんてなかった。
なじんだこの街は、両親にとってはただの田舎に過ぎなかったのだろう。
“もっと上を”
幼い私には分からなかったが、そう求めていたに違いない。
現に今だって、私のことなんかお構いなしに仕事に打ち込んでいる。
私が学校でいじめられてるのなんて、知らないでしょ?
私が学校抜け出して3時間も電車乗りついで、こんなとこに来てるなんて知らないでしょ。

当時の私に、拒否権はなく私はこの街を離れた。

それが、8年前。
男友達がいたなんていう記憶はない。

「……行くとこないの?さっきから同じとこ行ったり来たりしてるけど」
「何でついてくるの?」
「いや…久しぶりに会えて嬉しかったから」
「え、だからってついてくるんだ?なんか危ない人なんですけど」
「俺んちくる?」
「……は?」
「お菓子あるよ」
「……」



結局、お菓子につられてやってきてしまった伊吹の家。
小さいけど立派な家だ。
隣に目をやると、新しい洋風の家が建っていた。

「ここに杏の家があったんだけど」

伊吹がそう言う。
脳裏に昔住んでた家の外観が浮かんだ。
赤い屋根の、普通の家だった。
小さな庭によく来ていたネコと、親には内緒で遊んでいたっけ。

伊吹の部屋に上がってみたけど、何も浮かんでくることはない。
伊吹は、“よく私とここで遊んだ”と言っていたけど。
お茶菓子を取りに行った伊吹に、部屋で待たされた。
ベットに腰かけて、空を仰いだ。

伊吹は私のことを知っていて。
私は伊吹を知らない。

変わってしまった街。
もう、ここにはない私の家。
思考を巡らせていると、伊吹が戻ってきた。

「お菓子これでいい———」
「ごめん帰る」
「え、ちょっとどうして」

涙を見られないように、顔を伏せて玄関へ急いだ。



何で涙なんかが溢れてくるのかは、私が一番聞きたい。
一体、過去の私に何があったんだろう?

玄関へ向かっていると、電話が見えた。

———電話?

受話器の傍に写真があった。
幼いころの私と、伊吹。


———記憶が鮮やかによみがえった。
私は、忘れたかったんだ。
あなたへの気持ちを。

何も言わずに伊吹の前から消えた私。
電車に乗ったあとに、

「どうして、どうして。言ってくれないんだよ!?俺のこと嫌いなのかよ?俺は、俺は…」

そう言って切れた電話。
傷つけることは分かっていた。
自分も傷つくことくらい。

だから、消さなきゃいけなかった。
忘れようとした。

あの恋心を。



靴を履き終えた私に、慌てて

「おい、ちょっと待ってよ!!またあの時と同じこと……っ!」

伊吹がそう言った。

「伊吹」
「え…、思い出したの?」

玄関の外に出ると、

「続きはまた今度」

そういって扉を閉めた。

「え、ちょ、続きって!?」

玄関を飛び出してきた伊吹に

「また電話するからー!」

私はそう叫んだ。