コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 続きは、また ( No.74 )
- 日時: 2011/11/07 15:52
- 名前: 花瑚 (ID: lMzQV.10)
【続きは、また】
久しぶりに帰ってきた、この街。
何もかもが昔と同じってわけではない。
田舎だったはずの町は、適度に田舎な街になっていて。
コンビニがいくつか増えて、がたがただった砂利道はちゃんと通りやすい道路に。
懐かしい景色もどこか違う。
———ああ、この街も変わってしまったのかな。
変わらないのは私だけ。
私だけが取り残されてしまった、
異世界とも呼べるあの街で。
◆
昔通っていた通学路をブラブラ歩いていると、前から男子中学生が1人歩いてきた。
知らない人だと思って顔を伏せた。
「あれ、杏(あん)?」
誰かが、私の名前を呼んだ。
———え、誰?
思わず、声に出すと
「あれ?覚えてないの」
間抜けな声をしたその男子が首をかしげた。
「俺だよ俺、伊吹(いぶき)。隣に住んでた」
愛嬌のある顔でそう言う、伊吹と名乗る男の子。よく見ると、目の下にほくろがある。
……え、全然思い出せない。
誰……?
「…ごめん」
「えっ!覚えてないの?」
「———そっか。俺のこと覚えてないか」
なんだか悲しそうに目を伏せて、石ころを蹴っている制服を着た——伊吹を私は覚えていない。
この人は、誰なんだろう?
隣に住んでた…?
私の家の隣って誰か住んでたっけ———?
霧がかかったように霞む記憶をもどかしく感じるとともに、
“どうしよう、私っておかしいのかな”
不安がむくむくと湧き上がってきた。
何で覚えてないんだろう。
だけど。
私のことを、この街で覚えている人なんていたんだ。
そのことが少しだけ嬉しかった。
◆
「それはそうと、何で帰ってきたの?」
朗らかな笑顔で聞いてくる、伊吹に
「……ちょっと一人旅みたいな」
苦し紛れに言った嘘に、伊吹は突っかかりもせず
「ふ〜ん」
興味なさそうに言った。
◆
私がこの街を離れたのは、8年前だ。
親の転勤、なんて簡単な理由じゃない。
真逆だ。
親が無職になった。
両親ともに辞職を出して、
“私を連れて都会に出ていく”
そう告げられた時、私は素直に頷かなかった。
頷けるなはずなんてなかった。
なじんだこの街は、両親にとってはただの田舎に過ぎなかったのだろう。
“もっと上を”
幼い私には分からなかったが、そう求めていたに違いない。
現に今だって、私のことなんかお構いなしに仕事に打ち込んでいる。
私が学校でいじめられてるのなんて、知らないでしょ?
私が学校抜け出して3時間も電車乗りついで、こんなとこに来てるなんて知らないでしょ。
当時の私に、拒否権はなく私はこの街を離れた。
それが、8年前。
男友達がいたなんていう記憶はない。
「……行くとこないの?さっきから同じとこ行ったり来たりしてるけど」
「何でついてくるの?」
「いや…久しぶりに会えて嬉しかったから」
「え、だからってついてくるんだ?なんか危ない人なんですけど」
「俺んちくる?」
「……は?」
「お菓子あるよ」
「……」
◆
結局、お菓子につられてやってきてしまった伊吹の家。
小さいけど立派な家だ。
隣に目をやると、新しい洋風の家が建っていた。
「ここに杏の家があったんだけど」
伊吹がそう言う。
脳裏に昔住んでた家の外観が浮かんだ。
赤い屋根の、普通の家だった。
小さな庭によく来ていたネコと、親には内緒で遊んでいたっけ。
伊吹の部屋に上がってみたけど、何も浮かんでくることはない。
伊吹は、“よく私とここで遊んだ”と言っていたけど。
お茶菓子を取りに行った伊吹に、部屋で待たされた。
ベットに腰かけて、空を仰いだ。
伊吹は私のことを知っていて。
私は伊吹を知らない。
変わってしまった街。
もう、ここにはない私の家。
思考を巡らせていると、伊吹が戻ってきた。
「お菓子これでいい———」
「ごめん帰る」
「え、ちょっとどうして」
涙を見られないように、顔を伏せて玄関へ急いだ。
◆
何で涙なんかが溢れてくるのかは、私が一番聞きたい。
一体、過去の私に何があったんだろう?
玄関へ向かっていると、電話が見えた。
———電話?
受話器の傍に写真があった。
幼いころの私と、伊吹。
———記憶が鮮やかによみがえった。
私は、忘れたかったんだ。
あなたへの気持ちを。
何も言わずに伊吹の前から消えた私。
電車に乗ったあとに、
「どうして、どうして。言ってくれないんだよ!?俺のこと嫌いなのかよ?俺は、俺は…」
そう言って切れた電話。
傷つけることは分かっていた。
自分も傷つくことくらい。
だから、消さなきゃいけなかった。
忘れようとした。
あの恋心を。
◆
靴を履き終えた私に、慌てて
「おい、ちょっと待ってよ!!またあの時と同じこと……っ!」
伊吹がそう言った。
「伊吹」
「え…、思い出したの?」
玄関の外に出ると、
「続きはまた今度」
そういって扉を閉めた。
「え、ちょ、続きって!?」
玄関を飛び出してきた伊吹に
「また電話するからー!」
私はそう叫んだ。
