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Re: ▽ 碧い空に手を伸ばして / 短編集 ( No.104 )
日時: 2012/02/19 20:56
名前: 花瑚 (ID: HOE8nich)

【碧い空に手を伸ばして】

「みんなに幸せになってほしいんだよね」

彼女は、呆れるほど真っ青な空を窓から見つめながら、ぽつりとそう呟いた。ざわめく教室の中で、うっかりしていたら聞き逃してしまいそうな小さな、だけど意志の強くこもった声。

「みのり、最近あんたと話してると楽しそうだし。あたしも、あんたならみのりのこと安心して任せられる」

そして、はあっと息をつき真っ直ぐに俺を見た。

「だからさ、頼むよ。みのりのこと。……あたしはしばらく恋愛無理っぽいしさ」

あまりにも友達思いな彼女は、そう言って自嘲気味に笑った。


   ●

中学に入ったら急に周りが色めき立つ、なんてことは分かっていたつもりだった。だがこんなにもやれ彼氏だ、彼女だなんて聞かされるこっちの身にもなってみてほしい。
『シアワセそうで何よりだね』
誰か棒読みの俺の声に気付け。これだから幸せボケしてる奴らは。
こっそりした舌打ちの音は誰にも聞こえていないだろうか。
こんなこと知られたら
『また本命に2回も玉砕してる皆田(かいだ)がひがんでるぞ〜』
なんて言われかねないからな。

…ひがんでなんかいねえよ!

   ●

「皆田〜、なんかみんなが寄ってたかって俺の事苛めてくるよ〜」
「それはお前がドMだから」
「ばっさり切り捨てないで!」

ひどー、と言って隣でむくれている千代田(ちよだ)を尻目に、『お前も仲森(なかもり)にしとけばいいのになあ』なんて余計なことを考える。
仲森は、安西(あんざい)みのりの親友で俺の気持ちを知ってか知らずか色々と協力してくれる奴だ。基本的にさばさばしていて、勘がよく濃やかだ。その割にはお人好しで人の事しか考えてないようなところもあるのだが。
それと反対に、安西はのんびりおっとりマイペースだ。いかにも女子って感じの。この二人がなぜこんなに仲がいいのか、俺にはさっぱり理解できない。

千代田は俺の友達で、あの通りのドM。仲森は千代田のことが好きだったらしいが、それも意外だった。二人は、いかにも“友達”という関係で、器用な仲森は千代田が好きだなんて、おくびにも顔に出さない。
当たり前のように千代田は気付いてなくて、仲森に恋愛相談なんか持ちかけたりするから、仲森は仲森でひっそり傷ついているんだろう。
千代田は、この前同じクラスの女子にフラれたばっかりだ。いまだに未練たらたら。そんな千代田に、仲森は優しかった。千代田も中森に頼りっきりで。
———だけど千代田はなびかなかった。

『僕、もう一回頑張ってみようかな』

俺にそう告げた千代田を見て、どうしようもなく切なくなった。どうしてこんなに、

———届かないんだろう。

そして仲森は、

「告白して、フラれて気まずくなったら、せっかくいい感じのあんたとみのりもやりにくくなるし、もう思い続けんのも疲れた。やめる」

見るからに痛そうに顔を歪めてそう言った。
あの千代田の事だ。仲森に期待させるようなこともたくさんしてきたのだろう。そのたびに裏切られ、一向に振り向く気配のない千代田に、仲森がしびれを切らすのは、当然といえば当然だ。

「結局恋愛よりも友情なんだよね、あたし」

仲森の疲れ果てた声は、今でも耳にこびり付いたままだ。

   ●

——俺と安西は今いい感じに見えているのか。
そう言われると、嬉しさがこみあげてくる。フラれること二回。自分でもよくやってられると呆れるほどに、安西の事ばかり考えてしまう。安西は小さくて、小動物みたいだ。触れたら壊れそうなのに、思いのほか芯は強かったりする。辛くても、苦しくても見え見えのから元気で立ち直る。人に弱さを見せるのが得意ではないらしい。そういう不器用なところに惹かれたのかもしれない。

「皆田くんは、強くていいと思う」

俺のどこが強く見える?

そう聞いた俺に、安西は

「だって、狼狽えたりしないでしょ」

内心、そういうこと言われたことにすごく狼狽えてるんですけど。
安西との時間は、いつも過ぎるのが早い。もうちょっと続けばいいのに、なんていう甘い考えはすぐに裏切られる。

——安西は、俺の事を一体どう思っているのか。
大分打ち解けてきたとは思う。二回の告白がチャラになるくらい。…ほんとにチャラになればいいのだが。

   ●

俺の五年間の想いは、いつになったら届くだろうか。
友達思いの彼女も、幸せになれるだろうか。

俺は碧い空に手を伸ばして、そんなことを考えてみたりする。