コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- ■恋情シンメトリック ( No.113 )
- 日時: 2012/03/03 12:15
- 名前: ひろ ◆iSQNAQKEEo (ID: xJuDA4mk)
- 参照: うちのぱそこさんが反抗期すぎて全然動きません
◇ 佳藤 絢音 / カトウ アヤネ (♀) | ◇ 峰川 陽太 / ミネガワ ヨウタ (♂)
※まだ絢音ちゃんは卒業してません。高3だけど。
佳藤絢音は、寝惚け眼で見つめていた時計の針がとっくに八時半を指していることに気付き、慌ててベッドから飛び出した。絢音の通う高校では八時半に出席点検をするのだ。今から行ってもどうせ欠席扱いだろう、と諦め、飛び出したばかりのベッドに再び潜り、二度寝をしようとしていた。
もともと低血圧気味な絢音はすぐにうつらうつらと転寝をし始める。舟を漕ぎだしたあたりで玄関のチャイムが鳴った。
「絢音先輩っ! もう遅刻ですよお!」
聞こえてきたのは、可愛い可愛い後輩の声。間延びした声は、しかし女子のものではなく、れっきとした男子のそれだった。朝食を食べていない絢音の空きっ腹にはよく響く。
玄関まで向かう途中に、くう、と腹の虫が鳴いたのを絢音は確認して、そろりとドアノブをまわした。
「——峰川。朝からうるさい」
不機嫌顔を惜しみなく晒す絢音だったが、いかにも鈍感そうなこの後輩はそんな表情に気付きもしない。にこにこと張り付いた人懐っこい笑顔に、絢音はまたいつものように心を許してしまいそうになった。
これでは駄目だ。ふるふる、と頭を振って思わず微笑んでしまいそうになる頬を引き締める。不機嫌さを表に出して、絢音はつっけんどんな態度で峰川に言った。
「大体、あたしが遅刻ならあんたも遅刻でしょ。こんな時間にうちに来て、一緒に登校するつもり?」
「えっ! なんで分かったんですか!」
「分かる分からないの前に、それしかないって」
「ありますよう! 例えば、絢音先輩に会いたかったからってだけかもしれませんよ?」
「あんたがそんなことのためだけに動く奴だと思えないしね」
「失礼ですねえ。俺だって好きな人に対してはそれくらいしますよ!」
「あんたの好きな人があたしなわけないじゃない」
その言葉が唇から出た瞬間、絢音は言い逃れできないような切なさを胸中で感じた。とくん、と規則正しく動く鼓動が途端に乱れたような、そんな錯覚を覚える。絢音は自分を落ち着かせようとちいさく溜息を吐いて、峰川の額をとん、と押した。
額は案外急所だ。押された反動で後ろに退いた峰川を見て、絢音は扉を閉める。
「ちょっ、絢音先輩っ」
「あたし頭痛いの。だから今日は休み。峰川は学校行ってきなよ」
「——っ、分かりました」
峰川の足音が完全に聞こえなくなるまで、絢音は扉に身を預けていた。やがて足音が聞こえなくなり、気配がなくなったことに安堵して、絢音は部屋の中に入っていった。
ひとりで住むには広すぎる部屋の、中央に置いてあるソファにごろりと横になる。先程の乱れた鼓動の理由を黙々と考えてみるも、答えは結局ひとつにしか繋がらなかった。
「いつ言おうかな……。今さら、こんなこと言えないし」
一目見たときから好きだった。淡い恋の始まりは、峰川が絢音の後輩として同じ部活動に所属したとき。絢音を含む美術部の冴えない顔ぶりのなかに、一際輝いて見えたような気がしたのだ。お世辞にも格好いいとは言えなくて、取り柄といえば人懐っこいところくらいしか上げられない、峰川陽太のことが。
絢音はずっと、好きだった。
「もう高3だよ。しかも冬。卒業シーズン。悩むなんてあたしらしくない」
言い聞かせても、絢音の身体はソファから動かなかった。本当は今すぐにでも着替えて部屋を飛び出して、峰川と一緒に登校しようとすることだって出来る。でも出来ない。
「……大体さあ、こんだけ近くにいるんだから、気付いてくれればいいのに」
改めて考えた自分の身勝手な思考に、絢音は思わず自嘲の笑みを零すのだった。
◆◆
寒空の下、放り出されたような形の峰川陽太は、アスファルトの上に積もった柔らかい雪を、履き慣れたスニーカーで踏みしめて歩いていた。歩を進ませるたびに、きゅ、きゅ、と鳴る軽い音に、自然と気分が高揚する。青一色のマフラーに白く染まった息を吐き出した。
そして、先刻の不機嫌そうな自分の先輩の顔を思い浮かべ、無意識に眉尻を下げた。
「絢音先輩に、いつ言おうかなあ……」
表情を綻ばせ、陽太は卒業までの日にちを指折り数えた。あの、素直じゃないけど可愛い先輩に会えるのも、残りわずか。さすがにこのままではいられない。
下手なことを言って嫌われたらどうしよう。このままの関係でいられなくなるのは、とても辛い。でも、想いを伝えなければ、この先二度と会えなくなるかもしれない。
「卒業前日、とか、どうだろ」
遅すぎず早すぎず。出来ればもう少し考える時間を稼げる日。卒業式はいろいろな意味でありきたりすぎて嫌だ。かといってあまり早すぎると、口下手な自分ではあまりいいことを言えそうにない。
「……ていうか、絢音先輩も気付いてくれたらいいのに。俺、大好きアピールしまくってるのに。ほんと、鈍感だなあ」
絢音が聞いたら即座に反抗するような台詞を、陽太はしみじみと呟いた。
【恋情シンメトリック】
(ベクトルの先は、)(最初からお互いを向いていた)
