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Re: ▽ 碧い空に手を伸ばして / 短編集 ( No.116 )
日時: 2012/03/03 22:16
名前: 花瑚 (ID: Kkmeb7CW)

【太陽に目を細めて】

「皆田に気がないなら、優しくしないで」

彼女にそう言ったのは僕だ。安西は俺のことどう思ってるんだろう、なんてことを隣で毎日考えてる皆田を見ていられなかったから。ちょっとは期待してもいいかな、なんて笑う皆田を彼女に傷付けてほしくはなかった。皆田は…幸せにならなきゃだめだ。
———これだけ一途な奴は滅多にいないと思うんだよね。いつだったか、彼女の友達に漏らしたことがある。
あの言葉を受けても、最近の彼女の皆田に対する態度は変わらないように思う。
これはどういう意味なのだろうか。

「皆田、期待してもいいかもしんないなあ」

ぽかぽかと降り注ぐ陽の光を見上げて、思わず目を細める。最近元気のなかった彼女は、笑っているだろうか。

   ●

本命に振られたのは3か月前のこと。同じクラスの女子で、委員会が一緒のとき話していて楽しかったから、という理由。男っていうのは単純で、たまたま好きな歌手が一緒だったりするだけで、昨日までなんとも思っていなかった女子にときめいてしまったりする。
『千代田と話していてすごく楽しい』
そう言われることは多い。それでいて、勢い込んで告白すると
『ごめん、そんな風に見たことなかったわ』
決まり文句が返ってくる。
結局、自分はそういう対象には向いていないのだ。恋愛なんて。恋愛のれの字も語れないくせに、ふて腐れてみたりする。

   ●

「ちょっと、千代田」

眠すぎて机に倒れこんでいると、目の前に気配があった。仲森だ。
フラれた時はよくこうして慰めに来てくれた。皆田は適当人間なのでそんなに構ってはくれず、いじけていたところに仲森が来てくれた。
『頑張ったんじゃない』
さばさばしている仲森に言われて、恥ずかしいけど少しだけ泣きたくなった。仲森に褒められると嬉しい。
今は立ち直ったため、仲森がこのクラスに来ることは珍しい。皆田は、休み時間になると一番クラスが遠いくせにしょっちゅう1組に行っているが、千代田は気をきかせて行かないことにしている。

「どうしたの」

寝ぼけ眼で顔をあげると、

「すごい寝ぐせ」

顔を見るなり吹き出された。今日は寝坊したの、口を尖らせて言うとまた笑われた。ちょっと気に入らないけどなに、と仲森を促す。

「まあ、ちょっとね」

話は大体見当がつく。仲森が話に来ることはこれくらいしかないのだ。先読みして口を開く。

「皆田、なんかした?」
「いや?あっちはうまくいってる」

あれ。少し拍子抜けた。最近の仲森は、安西と皆田のことしか考えていないんじゃないかと思うほど二人の話しかしてこない。

「じゃあなに」
「いや、大したことじゃないんだけど…。朱実(あけみ)のこと」

ああ、そういうことか。仲森は、僕の本命の三上(みかみ)朱実の事を言っている。フラれてから、三上のことはあまり考えないようにしていた。自分の存在を受け入れてもらえないことは辛い。どんなに想っていても、報われないことがある。そんな事実を目の前に突き付けられた気がした。
仲森には、もう一度頑張ってみると言った。毎日のように心配そうにこっちを見てくる仲森に、もう大丈夫だと知らせたくて。

「三上がどうしたの」
「…なんか、千代田のことが最近気になってる…みたいな」
「はぁ?」

フラれて3カ月。最初はぎくしゃくしていた三上の態度もやっと普通に戻ってきた。もう、忘れようかとも考えていた。仲森の言うように、もっといい人がいるかもしれない、と。
『だけど、千代田が幸せならいいんじゃない』
真っ直ぐに僕の瞳を見て言う、仲森があまりにも眩しくて。
『強いねぇ』
そう返した僕に、
『強くなんて……ないよ』
どこか悲しそうに呟く仲森を、何故か急に思いだした。

   ●

『っていうのを、朱実に言っといてって言われたんだよね。まだあきらめてないかなあ、って心配してたからさ。良かったね。これで両想いじゃん。あ〜、これで安心したなあ。みんな幸せだ』
早口でそう言って、直後に鳴った予鈴に促されるように走っていた仲森の背中を見送る。いつもの仲森とは様子が違ってように見えた。何かあったのだろうか。考えてみるが何も浮かばない。また一人で抱え込んでいるんだろうな、そんな風に思考を巡らす。
仲森は悩んでいても、誰にも頼ろうとしない。一人で抱え込んで、隠し通す。どれだけ仲良くなっても、どこかに踏み込めない場所がある。皆田や安西にはそんなことはないように見える。自分は嫌われているのだろうか。…それにしては、悩んでいるとよく力になってくれる。だけど、こうして頼って甘えてばかりいるのは心苦しい。何か仲森の力になりたい、もっと打ち解けてほしい、もっと話してほしい。
そういえば、仲森に好きな人はいないのだろうか。仲森はこの性格で頭も良く、運動も出来るのできっとモテるのだろう、と考える。仲森はどんな人が好きなんだろうか。自分は、対象に入っているのだろうか。それとも、他の女子と同じように対象外なのだろうか。

———そう思ってしまうのは何故だろう。

空を仰ぐと、綺麗な碧が視界いっぱいに広がる。太陽に目を細めて、ただ仲森のことを想った。