コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: リバーシブル ( No.20 )
日時: 2011/04/18 18:26
名前: 北野(仮名) (ID: vfhHNd5c)

=第十五話=怒り(2)


「みんな、ありがとう」
遅くなってしまった朝食の前に、沙羅がみんなに頭が
地に着くかと思うほど、深々とお辞儀をする。
みんなには、感謝してもしたりない、それほど強い借りを
作ってしまった、そう沙羅は思った
「そいじゃあ、ご飯でも食おうか」
おじいさんの方の現当主がそう言ったので、
朝食の時間となった。
朝食は家の外見と完全にシンクロして、
さすがとしか言いようがない和食だった。
白米と味噌汁、焼き魚(鰆かな?)、卵焼きに、菜っぱのお浸し。
全体を眺めると、とても色彩豊かで、食べ物ではないように
思えるほどの美しさを感じる。
見た目はいいんだけどね、と伊達は言ったが、
味もとても素晴らしかった。

そして、午前10時ごろ、伊達家の電話が鳴った。
それをとったのは、伊達の父親だった。
「はい、もしもし」
「烏丸紫表を出せ」
変声機ごしの、無機質な声で、藪から棒に命令してきた。
「あの〜あなた誰ですか?」
「いいから紫表を出せ」
なかなかに横暴な態度だ。
話し合いは無理と悟ったのか、伊達の父は紫表を呼んだ。

「誰だ?」
「分かってんだろ?昨日電話してやるって伝えたしよぉ」
伊達の父から聞いていたのと違い、普通に人の声がする。
「てめぇ・・・」
「そうカッカすんなよ、今日はいい知らせをしようと思ってよ。
 詳しいことはそっちのじじばばどもに聞けや。
 龍牙(りゅうが)が決着をつけようと言っている。
 明日の朝、廃工場に遊びに来い。そう伝えろ。ああ、あともう一つ」
「なっ、お前今なんて・・」
ガチャン!という音がして、電話は切れた。
紫表は少しの間、固まっていた。
「なんて言ってたの?」
伊達と基裏が詰め寄ってきた。
「詳しいことは家の人に聞けば分かる。
 だからこう伝えろと言っていた」
その場の空気に沈黙が漂う
風の吹く音さえ聞こえる。
実際には、紫表が黙っていたのは2秒程度だったが、
その重苦しい空気の中では、もっと長く感じられた。
「龍牙が決着をつけようと言っている。
 明日の朝、廃工場に遊びに来い。
 ああ、あともう一つ、年齢制限は15歳まで。
 逆らったら・・先代はどうなるかな?ってさ」
家の中に戦慄が走る。
確かに、今日はまだ伊達の曾祖母の姿を見ていない。
だが、その場にいた人たちが反応したのはそこでは無かった。
「龍牙・・だと・・?」
何やら知り合いのようだな、ふと基裏はそう思った。
「龍牙って誰なんだよ?」
代介が家の人達に詰め寄る。
「龍牙はわしの弟子じゃ」
その問いに答えたのはおじいさんの方の当主だった。
「おじいちゃんとおばあちゃんは過去にそれぞれ一人ずつ、
 自分の剣術の全てを一族以外の人達に叩き込んだの。
 おばあちゃんは誰か知らないけど、おじいちゃんが教えたのが
 龍牙よ」
引き続いて伊達が説明する。
「そして、龍牙は私利私欲のために力を使い、破門された」
今度は健史が引き継いだ。
目には怒りの色が見える。
また、電話が鳴った。今度は一番近くにいた紫表がとった。
「話を聞いたか、小僧」
またしても龍牙からかかってきた。
今までとは違い、紫表の怒りの向きが決まった。
「ビビって逃げるなら今だぞ」
電話の向こうから笑い声が聞こえてくる。
だが、紫表はとり乱すこともブチ切れることもしなかった。
「安心したよ」
「あぁ?」
「あんたをつぶすのに、だらだら日本中走り回らなくていいって
 分かったからさ」
「大層な口を聞くなよ、小僧」
そう言い残して、電話はまたしても切られた。
                          つづく