コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- リバーシブル ( No.26 )
- 日時: 2011/04/22 19:06
- 名前: 北野(仮名) (ID: kBbtVK7w)
=第二十話=基裏の力
吹っ飛ばされた蟹原が、足を高く上げて、反動をつけて一気に
起き上がる。とっさに受け身を取ったのか、かすり傷以外はたいして
ダメージは受けていないようだ。
スーツについた砂をパンパンとはたいて取り、槍を拾い上げた。
「ドリームバード?はて、聞いたことがないな」
情報屋のはしくれとして、それは恥ずかしいな、そう蟹原は思った。
何としてでも解明してやろう。
「超速戦闘ではないのか?」
まずはデータを集めてみよう。何かが得られるかもしれないな。
そう思って、また柔和な態度になる。
「ちょっと話してもらえませんかね」
目の前の少女基裏は、それに対して笑顔で答えた。
「うん、そうだよ。超速戦闘とニアリーイコール。ところで・・・」
基裏が裏に隠していた怒りを表に返す。
伊達家の連中のように、殺気を飛ばして威嚇するものではなく、
ただ純粋に怒りの感情がうかがえる。
「私達の情報を提供したのはあなた?」
そうだ、と蟹原が答えると、基裏の顔つきはまたしても変わった。
今度は汚らしい汚れを見るような視線である。
だが、ゴミを見ているのと、決定的に違う一点は、怒りの有無である。
「ドリームバードが知りたいんだよね、じゃあ教えてあげる」
基裏が左腕を前に突き出す。拳ではなく、平手で。
「そもそも、私はまだ、超速戦闘が使えない。
でも、あと一歩だ」
そう言って、つきだした左腕を右側に持っていく。
そして、一瞬の制止の後、超高速で左腕を引き戻し、
自分の左後ろ辺りの空気を思いっきり叩きつけた。
さっきと同じ、バァンッという音がした。
これは、超音速で空を叩きつけたときに発生する衝撃波の音だ。
そして、その力の反作用の力を受けた基裏は、とんでもない
スピードで突っ込んでくる。
動体視力は良いので、その動きは目で追うことができる。
だが、超高速で移動する物体を回避する反射神経など、
部屋にこもりっ放しだった蟹原にあるはずがない。
もちろん、超速戦闘を使うなど、もっての他だ。
渾身の右フックが蟹原の頬にめり込む感覚がした。
先ほどのように吹っ飛ぶかと思ったが、そんなことはなかった。
なぜなら・・・腕力が一般の女子と大差なかったからだ。
さっき吹っ飛んだのは、油断し、注意の外に外していたからであり、
向き合って闘っている今となっては、全く喰らわない。
「基裏ちゃん、力不足!」
伊達が基裏に向かって叫んだ。
「仕方ないじゃないですか、そこまでするヒマはなかったんです!」
ク・・・口喧嘩が始まった・・・・
蟹原は呆れて物も言えず、ただひたすら目の前の光景に
あっけに取られていた。
「基裏ちゃん、そろそろあっちあっち」
そう言われた基裏をみて、ようやく蟹原も我に帰った。
その光景が可笑しいのか、いきなり伊達が笑いだした。
それを見た蟹原も、ついに怒りが頂点に達した。
「貴様、私を愚弄するのかぁッ!!」
殺気を目いっぱいとばして威嚇する。
だが、基裏も伊達もそんなことには眉ひとつ動かさず、
伊達は呆れ、基裏はさらに怒った。
「あんたのせいで母さんがどうなったか知ってる?」
とたんに全身に悪寒が走る。
殺気を飛ばされている訳でもない。
ただ、あの冷たい目で見つめられているだけだ。
それなのに、それなのに、冷酷な毒蛇にチロチロと
舌で触られている、そんな感じがする。
しかしここで、ふとあることを思い出した。
あいつの攻撃・・・弱くね?
よしいける、そう思った蟹原はふたたび構えを取った。
次はカウンターだ。
「喰らえ」バチィンっ
という音がして、またあしても基裏が消える。
そこだっ!
手に持っている槍を前に突き出した。
だが、槍が何かを突き刺さる感覚はなく、ただ無残にも
空を切った。その瞬間焦りを感じた。
万全の状態ならすぐに判断できたであろう、だが、おごりが
勝利の足元を突き崩した。
シュッ、という音が背後から聞こえる。
そう、基裏は背後にいたのだ。
・・・ところで「シュッ」って何だ?
そう思った瞬間に、蟹原の体は再び宙を舞った。
もう一度、とっさに受け身を取った。
今のは一体・・・
「衝空拳」
振り返ると、基裏がいる。
「私の、唯一の攻撃手段さ」
続く
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基裏
強っ!!