コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- リバーシブル ( No.28 )
- 日時: 2011/04/23 20:00
- 名前: 北野(仮名) (ID: meZEZ6R0)
=第二十二話=激昂
「なぜ・・・俺の脳天に叩き込まなかった?」
廃工場の一室で、龍牙の声が壁に当たり反射する。
「なぜ剣を引いた?」
耐えがたい怒りで、剣を握りしめた拳がワナワナと震える。
「俺の動きに反応出来たことが・・・」
悔しさと焦りが心の底から押し寄せてくる。
こんのガキィッ・・・
「俺が貴様から目を離したことが・・・」
手に持っているそれを引き継いだことが・・・
「そんなに嬉しいか!クソがぁッ!!」
ただ・・ただじじいじゃなくて、ばばあの弟子だというだけで
それを受け継ぎやがって・・・
「それを継ぐにふさわしいのは、この俺だぁッ!!」
左手で、龍紋木刀を指差し、右手で剣を振りかぶる。
もう一度超速戦闘を使い、紫表の方へ突進する。
紫表はそれに対して、剣を木刀で払いのけようと、
下から木刀を振り上げた。
ところが、そこに龍牙はいなかった。
「終わりだ。そのおごりが敗因だと思え」
そうして、背後から刃は振り下ろされる。
まるで、そこには何も存在しないかのように、
龍牙の一太刀は紫表の体をすり抜けた。
だが、本当にすり抜けただけだった。
「残像だと・・・」
龍牙は頭の中で、それを否定した。
自分がそんなものにかかる訳が・・・そもそも残像なんか、
できるはずがない。
「残像なんて、光より速くないと無理じゃないのか?」
これは、昔から思っていた疑問だった。
マンガのキャラクターはボンボン使っているが、
目に見えるものが実はそこに無いなど、光より速く動けないと
できないのではないかというのが、過去の自分の結論だった。
「お前は頭がパーなのか」
紫表の気配が真後ろから現れる。
反射的に、距離を取り、振り返り、目を合わせた。
「あのなあ、光が届くより速く動くんじゃあない。
脳がそこに物があるという光景を演算処理している間にそこから
移動すればいいんだ。それが、俺流の残像の原理だ」
紫表が演算処理とかいう面倒くさいことばを使ってまで説明する。
憐れみでもかけたつもりかよっ・・!
頂点に達したはずの怒りもメーターを振り切って、
頂点を越えた地点にまで到達する。
まだその怒りは留まるところを知らない。
怒りを通り越して、激怒、いや、激昂状態にまでなる。
「さっきお前は、自分の動きが読み取れたことが嬉しいか、
そう聞いたよな」
龍牙が我を忘れかけているところに紫表が声をかける。
「嬉しい訳ないだろ。できて当然のことだ」
「てえぇめええええぇッ!!!!!!!!!!!」
追い打ちをかけられた龍牙は、完全に我を忘れた。
衝空拳で吹っ飛ばされた蟹原は、第二撃を避けるため、
少々加荒田に負担をかけてでも、強引に起き上がった。
「おっさんタフだねぇ」
目の前で基裏がうっとおしそうにこっちを見てくる。
蔑みの目が、怒りに変わっていたのに、また蔑むような目に
戻っている。
全くコロコロと表情の変わるガキだ。
だが、今の攻撃を喰らってはっきりと分かったことがある。
あの至近距離での攻撃を喰らってもこんだけということは
間髪入れずに何十発も喰らわない限り、手傷こそ負うとして、
敗れることはないだろう。
それに、基裏自身も反動を受け、やや後退してしまうので、やはり
何十発もくらうことはない。
勝利はすぐそこだ。
ハァ、こんなんじゃ駄目だな。
そう言いつつ、基裏は溜息をついた。
「紫表兄の妹として申し訳ないよ。そろそろ勝てないとね」
いきなり、目の前で体育の前にするような準備体操を始める。
屈伸から始まり、伸脚へと続いていく。
「無限衝空拳だ」
ふとまた聞きなれない言葉が耳に入る。
「間髪いれずに50発も入れたら勝てるっしょ」
右手をグー、左手をパーにして、パンパンと叩き合わせる。
手を反対にして、また同じことをした。
これを聞いた時、つい蟹原は吹き出してしまった。
「何笑ってんのよ?」
またあの、毒蛇に睨みつけられているような感覚が身体を包む。
「だってそうだろう。間髪いれずに50発だと?
反動を対処してからものを言え」
あっはっはっ、と大笑いすると
身を包む感覚が変わった。
さっきのような恐ろしさとは違う、ある種の重圧が加わる。
確かに、体は動く。だが、精神的な重力は肉体的な動きをも支配し、
動きが緩慢になる。
「別に、あんたに言われるまでもないし」
そう言うと、基裏の姿が消えた。
超速戦闘、いや、ドリームバードだ。
例の衝撃波の爆音が轟き、風圧が蟹原に襲いかかる。
今までは本気じゃなかったのか、今度の動きは
捉えることができなかった。
とりあえず、不意打ちを避けるため、一番危険な後ろに振り向く。
案の定、そこに基裏はいた。
とっさに衝空拳に備えて、受け身の準備をしたが、
また快音が轟き、基裏の姿は消えた。
幾度それが繰り返されただろうか、
長かったようにも短かったようにも感じる。
それほど、蟹原は衝空拳を警戒し、瞑想に近い状態まで
集中していたのだ。
そしてあるとき、基裏の姿を見失った。
前にも後ろにも右にも左にもいない。
気付いた時にはもう遅かった。
「上か!」
自分に覆いかぶさる、影で判断することができた。
もうすでに、衝空拳の体勢に入っている。
まずい・・・・・
これでは本当に、間髪いれずにごじゅ・・
そんなことを頭で考えている間に一発目が飛んできた。
蟹原は勢いよく地面にたたきつけられた。
基裏は確かに反動を受けてやや後退したが、
見方を変えれば真上に上がっただけなので、すぐに重力に負けて、
近づいてくる。
そして、二発目、三発目、四発目、五発目、六発目・・・・・・・と、
次々と基裏の攻撃は蟹原にクリーンヒットしていく。
そうして、調度50発目で、蟹原は完全にのびた。
「言ったでしょ、私一人で充分だって」
そう言って基裏は、伊達の方へ向き直り、満面の笑みで
誇らしげに、
「すごかった?」
と聞いてきた。
「百点満点だよ」
伊達は、そういうしかなかった。
基裏の成長が、基裏本人から伝わってきた。
誇らしさと、一緒に
続く
________________________________
長えぇっ!