コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: リバーシブル ( No.50 )
日時: 2011/05/12 17:45
名前: 北野(仮名) (ID: grnWwvpR)

=第三十九話=天才


零花様に会った俺はしばらくボゥっとしていた。
まずそもそも自分に話しかけられているとは思わなかったからだ。
返事をしないことから聞こえていないと思われたのかもう一度
声をかけてきた。

「ボクの名前は?」

暖かく、慈しみのある声だった。
確か、その声を聞いた瞬間にほんの少し気分が楽になったのを
覚えている。
幼い自分は質問されているのに無視はよくないってことで
名を名乗った。

「か・・・からす・・烏丸・・・・・紫・・・・表」

「へえ、いい名前だねぇ」

名前を伝えた後に最初に返ってきた言葉がそれだった。
その時に何を感じたのかは分からないが、
自分に、つい先ほど起きたストーリーを会ったばかりの
零花様に話すことにした。


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始まりは、道ですれ違った中学生ぐらいの人が、
五人ぐらいの集団で歩いているのを見かけたところから始まった。
おそらく、その日の授業の内の一つが理科、それも生物分野
だったのであろう。
その単元の内容について大盛り上がりしていた。

「メンデルの法則ってなんだよ〜」
「3:1だ、3:1」
「優性と劣性だろ?」
「そうそう、しわの種子と丸い種子、どちらも純系だったら」
「配合したら絶対に丸くなるんだよな」
「他にもあるぜ、例えば・・・」

この話を聞いたとき、がくぜんとしたのを覚えている。
血の気の引いた顔で、ゆっくり家に帰った。

「ただいま・・・」

母さんはキッチンで洗い物をしていた。
水はシャーと勢いよく流れている。
当時は洗剤もあまり性能がよくなくて、なかなか汚れは
落ちなかったらしい。

「お母さんって・・・O型?」

「ええ、そうよ」

水の勢いを強くしつつ、背中越しにそう答えた。

「お父さんって・・・O型?」

「うーんと、そうね」

ピタっと一旦水を止めて、タオルで手を拭いてから
こっちに歩いてきた。
早く手を洗いなさいと言って洗面台の方に行けというような
仕草でこっちにやってきた。

「じゃあさ・・・」

その瞬間に、絶望のハマって欲しくない最後の一ピースがハマった。
目から涙がこぼれ落ちた。
言いようのない脱力感が五体を支配する。

「どうしたの!?泣いたりなんかして!?じゃあさって何!?」

心配したのか母さんは駆け寄ってきた。
肩を持って、目線を合わせて、俺の口から出かけた言葉を
出すように促した。

「じゃあ、なんっ・・なんで僕は・・・A型なの?」

そう言うやいなや、一瞬で母さんの表情が凍った。
知られてはいけない物を知られてしまった。そんな感じの目だった。

「お父さんとお母さんが両方O型だったら・・・
 子供は絶対O型になるって聞いたよ」

なのに、俺の血液型だけがAだった。
他は、みんなOだというのに・・・

「父さんも・・・母さんも・・・・基裏も、みんなっ、
 みんな僕とは家族じゃないの!?」

宙に浮く感覚だった。
今まで立っていた家族という足場でもあり、支えでもあり、
よりどころでもあった基盤が一斉に瓦壊するように思った。

「そうじゃないの!とりあえず、基裏だけは信じて!
 基裏はあなたの本当の家族だから!」

「基裏にもこのことを内緒にしてるの!?」

ほんの数秒間、沈黙が流れた。
何かを言おうとしているが、言いきれないような顔色だった。

「基裏は・・・このことを知ってるわ。私達を」









          偶然見てしまったから











「どういうことだよ!!僕だけ、僕だけ知らなかったのか!!」

幼いながらも、俺は激昂した。
目は見開かれ、頭に血が上り、周囲の景色は何一つ目に入らなかった。

「来るな!お母さんなんか・・・あんたなんかお母さんじゃない!!」



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そして、ゆっくりと零花様はうなずきながら、俺の話を
最後まで聞いてくれた。




                         続く



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小島「はい、正解は烏丸の過去話でした」

治「この時期紫表がいなかったのにはそんなことがあったのか」

小島「にしても・・・重いな」

治「大丈夫。この過去話はHAPPY ENDなんで」

小島「なーんだ、じゃいいや」

治「じゃ、次回に続くってことで♪」