コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- リバーシブル ( No.51 )
- 日時: 2011/05/14 10:16
- 名前: 北野(仮名) (ID: gzQIXahG)
=第四十話=welcome to Date family
そんなことのあった次の日の話だ。
俺は、宮城県まで来ていた。雄大な景色の中、
はあっ、とため息をつき、幼いながらも感嘆し、
目を奪われ、心の中が空っぽになった。
今よりももっと空気は綺麗で、他の住人たちも活気に満ち、
コンクリートの檻に閉じ込められていた自分の世界の小ささを感じた。
零花様がここに、伊達家に連れて来てくれたのだ。
あの後、枯れたはずの涙が、もう一度俺の中からわきだしてきた。
今度は涙を流すだけで、叫ぶことはしなかった。
怒りはもうさっきの叫びですべて吐き出した。
次に、悲しみを涙と一緒に体から押し出そうとしたんだと思う。
そんな俺の姿を見て、零花様は優しく
「私達のところで、落ち着いてから帰りなさい」
とだけ言って俺を東京駅の方に連れて行った。
幼稚園児だから誘拐なんて知らなかった。
いや、知っていたとしても、今その立場にあったとしても、
多分零花様についていくだろう。
初めて会った時から信用できた数少ない人間の一人だった。
これはあとから聞いた話だが、もうこの段階で、母さんに
電話して、事情は説明したらしい。
電話番号は伝えたような気もするが、昔のことだし、
錯乱状態だったからそのあたりのことはそこまで詳しく
覚えてはいない。
「ただいま」
今と変わらない、重たく巨大な木製の扉を開けて
零花様は帰宅した。
「おかえり、おばあちゃん。ん?その子誰?」
今にして思うと、それが伊達先輩だったのかもしれない。
見知らぬ子供に対して好奇心旺盛で、キャッキャキャッキャと
はしゃぎたおしていた姿はとても眩しかった。
「こら、おばあちゃん疲れてるんだから。お帰り」
伊達の母親であろうその人はまだ俺に気付いていないようだった。
なにせ、零花様はお年寄りが持つとは思えないほど多くの荷物を
持っておられたのだから。その人の立ち位置からは調度
隠れていたのだろう。
「その前に、すまないけどみんなを呼んでくれんかの?」
「えっ、ああうん分かった。みんなー、こっち来てー」
ぞろぞろと色んな人が集まってきた。
正直言って他の人の顔は覚えていない。
おそらくはその中に宗治くんや雄太さん、伸治さんもいただろう。
だが、体験したことのない余りの人の多さに俺は
委縮し、さらに縮こまっていた。
「ちょっと帰りに訳ありの子をみつけてね・・・」
すらすらと流れるように俺の境遇を説明してくれた。
周囲の大人たちはふんふんと頷いていたが、
伊達先輩はなんのこっちゃ?とでも言いたそうに
ポカーンと口を開いて首をかしげていた。
「あっ、そうだおばあちゃん、ちょーそくせんとーできるように
なったんだよ、昨日」
幼い伊達は超速戦闘はできても、どういう意味か分からないのか
かなり棒読みでそう言った。
「!!その歳でできるようになったのかい?」
まだ小さかった俺も周囲の驚きようからして、
それがすごいことだというのはなんとなく分かった。
「見ててね、えいっ!」
瞬時に伊達はその場から姿を消し、15メートルほど離れたところに
再び姿を現した。
母親は自分が教えたんだから当然、と言いたそうだったし、
零花様は普通に感心していた。
だがそれ以外の面々はつい先ほどの伊達のように、目を丸くしていた。
—————なんでみんなこんなに驚いてるのかな?
それに似たようなことを紫表は考えた。
なぜなら、紫表にはその動きが見えていたからだ。
「じゃ、そっち戻るよ」
もう一度伊達は地を蹴ってこちらに跳んだ。
だが、必要以上に力を入れてしまい、俺のいるところまで
まっすぐ飛んできた。
「危ない!」
伊達の母親が叫んだ。
だが、動きが見えていた紫表にとっては何が危ないのか
全く分からなかった。
とりあえず、自分にぶつかりそうだと思ったから
横にずれてみた。
案の定、自分のいたところを伊達が通過した。
しかし、勢いはもっと強く、壁まで跳び、
全身を壁に叩きつけそうなほどだった。
それを見て一番最初に反応したのは、母親でも、零花でもなく
紫表だった。
目の前にいる人を助けたい、ただそれだけを考えて
全力で地面を踏みつけた。
伊達が習得したばかりの超速戦闘をはるかに上回るスピードだった。
そのおかげで、一瞬にして伊達を追い抜き、
誰かが大けがをする前にそれを止めることが出来た。
「あ・・ありがと」
今すぐ起こるであろう大事故から身を挺して助けてくれた
紫表に、驚きつつも礼を言った。
だが、大人たちの反応は無様極まりないものだった。
つい先ほど超速戦闘を始めて見た、伊達家でもない子供が
一発で、誰の教えを請うこともなく、超速戦闘を会得したのだ。
向こうの立場になれば驚かない訳は無い。
みな自分の目を疑い、目の前の出来事を否定しようとした。
だが、それが当然だった紫表にとっては何をそんなに
驚いているのか、全くと言っていいほど分からなかった。
「・・・天才というやつか」
最初に我を取り戻した零花はそうつぶやいた。
続く
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小島「こんなときから戦闘の才能があったとは・・・」
治「みんな末恐ろしいガキだと思っただろうな」
沙羅「私なんてこのころようやく動画変換ソフトを
使いこなしていたころだったのに・・・」
基裏「それはそれでどうかなあ?」
代介「次回予告でーす、このあと大変な事件が誰かを襲う」
治「誰かって誰さ?」
基裏「言っちゃつまんないっしょ」
小島「それじゃ、もう何話か紫表のワンマンプレーが続きます」
沙羅「飽きないでね」