コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

リバーシブル ( No.7 )
日時: 2011/04/12 20:44
名前: 北野(仮名) (ID: A0pjLufI)

=第四話=怒り

「どんな理由があろうともやっちゃいけないことがある。その一つが
 盗みだ」
治が普段見せないようなきつい目で萩原を睨みつける。
「うるさい。こうでもしないと、その人とはなし・・」
「あんたバカだろ」
それまで静観していた紫表が話に割って入る。
「こいつ・・治には窃盗についての辛い記憶が二つある。
 その内のしょうもないほうの話しをしよう」




幼稚園のころ、こいつはまだ女子を好きになることができていた頃、
治には好きな子がいた。でも、ガキのころのこいつは、本当に
どうしようもないくらい、コミュニケーション能力が無かった。
だから治はその子の気を引くためいろいろちょっかいをかけた。
その内の一つに物を隠すってのがあったんだ。
ま、つまり盗みな。



そう言ったあと紫表は一拍置いて続けた。
「そして、そのせいで嫌われましたとさ」
ついでに、これは実話だ。


だが、萩原には大人しく、話を聞く気配がない。
いきなり、手に持ったラケットで紫表に襲いかかって来た。
「うるっさいわね!!先輩のすることに口出すんじゃねぇっ!!」
上からまっすぐ振り下ろされる。
「危ない!紫表君!!」
とっさに伊達が叫ぶ。
だが、ラケットは空を斬っただけだった。
紫表の反射神経は新入生の中でもかなり速く、数多の運動部から
勧誘を受けているぐらいだ。
「ラケットは人殴るものじゃあないっすよ」
ヨコから治が口を挟む。
「てめぇ!!よけんじゃねぇっ!!」
振り下ろされたラケットが今度は斜めに振り上げられる。
「それに、今回あなたは犯行前ではなく、後にこの手紙を出した。
 ま、つまりこれは予告状とは言えません」
体を横に反らし、またラケットをかわす。
「このまま暴れるというなら傷害の未遂でしょっぴかれますよ」
「ちょこまかと・・・」
今度は右から左へと水平にラケットが振られる。
それはしゃがんでよけれたが、それは予備動作にすぎなかった。
すでに、やや高めにボールは放られている。
「うっとおしいっ!!!」
そして、超至近距離で、スマッシュが放たれた。
「紫表兄!」
「紫表!」
「紫表君!」
「烏丸!」
その場の空気がまるでスローモーションのように感じられる。
ボールは寸分の狂い無く、紫表めがけて飛んでいく。
その場にいた全員が、打った張本人も含めて、目の前で起こる
であろう残酷な未来から目をそむけるため、固く目を閉じた。






だが、次に目を開けた時、紫表は無傷だった。
もうすでにボールははるか彼方へと逃げて行った。
「あっぶねえなぁ・・・」
そう言って紫表は萩原の方に向き直った。
その光景を一番驚いて見ていたのは伊達だった。
「うそでしょ・・・あんなの・・超速戦闘じゃない限り・・・
 よけられるはずがない・・・
 あの子ほんとに・・・・・何者なの?」

もはや抵抗する意思を打ち砕かれた萩原はその場に倒れるように
座り込んだ。





〜三日後〜
「あの先輩どうしてるんだろうねぇ〜」
ふと思いついたように、ポツリと基裏の口から言葉がこぼれた。
「井上(今さらだが依頼者)がゆるしてやったから
 何もなかったかのように学校に来てるよ」
基裏の独り言を聞き逃さなかった小島が答える。

あんなことがあったのに、ほんとに何事もなかったかのように
ふるまえるのだろうか、
そのやりとりを聞いた紫表はそんなことを考えたのであった。

                       続く