コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 小説カイコ ( No.1 )
日時: 2012/08/25 21:41
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: rOrGMTNP)
参照: http://mb1.net4u.org/bbs/kakiko01/image/5jpg.html



◇第一話 幽霊からのテガミ編◇



「はぁ。」

今日も疲れた。肩を回すと、ゴキゴキと凝った音がする。
桜散って今は五月。穏やかな春の日は光陰矢のごとくあっという間に過ぎて行き、ドキドキだった高校の入学式も終わってはや一か月が経っている。しかし相変わらず毎日ものすごく疲れるのだ。肩が凝って目の奥が痛くなる。我ながら健全な若者らしくないなと思う。もう年なのだろうか。
今日もいつもと変わらず、「小説カキコ」という小説投稿サイトを開いて、見慣れたパソコンの画面を頬杖を付いた格好でぼけーっと眺めていた。

———— 静かな部屋に響く、時計の秒針がやけに印象的だったのを覚えている。

「ん?」
画面の向こうの世界が、何だか変な感じがする。だけど、どこが変なのかよくわからない。でもなんとなくいつもと違う気がするのだ。何が違うんだろう、としばらく考えたが全然分からなかった。
まぁいいか。いつも通りあの小説を見に行こう。一番左端の「小説を書く・読む」のアイコンをクリックしようとカーソルを動かす、と

“カイコを育てる・観る”
目を疑った。なんだカイコって。カイコって、虫の蚕?更によく見ると、左上の「小説Kakiko」の文字。「小説Kaiko」になっている。うーん、管理人さんがリニューアルしようとして間違えちゃったのだろうか。いや、んなアホなことある訳ないよな。
それからふと目に留まったのはお馴染みの羽根ペンを片手に持ったクマのキャラクター。なんと彼の持っている白い羽根ペンが、白い芋虫にすげ替わっていた。これは……蚕のつもりなんだろうか。








ピピピピピピピピピピピ…… ピピピピピピピピピピピ……


翌朝。
目覚まし時計の音で目が覚めたのは朝の五時半。布団の温もりの中でぼうっとした意識のまま、何となくさっき見た夢を思い出そうとしていた。が、あまりうまくいかない。草刈りをしている男の子の夢だったことは確かなんだけど……意味分かんないや。

そういや、昨晩のカキコの異変はどうなったのだろうか。カイコは流石にないだろう。ギャグにしてはキツすぎる。
朝ごはんのお茶漬けを胃袋に流し込み、歯を磨きながらパソコンの電源を点ける。しばらくするとブーンと聞き慣れた粗動音がして、デスクトップの草原が現れた。そのまま、インターネットを開いてカキコのサイトへと飛んでみたが……特に異常なし。
昨日「カイコ」だった部分は何事も無かったかのように「カキコ」に戻っていて、熊のキャラクターが持っていた白い芋虫もいつも通り羽ペンに戻っていた。まるで、ハナっから何も無かったかのように。
謎は多いままだったが構っているヒマはない。腕時計に目を落とすともう六時になっていた。まずい、これ以上ゆっくりしていると電車を逃してしまう。

制服のボタンを急いで閉めて、玄関を出て自転車の置いてある駐車場へと向かった。昨日の晩は雨が降ったらしく、玄関のタイルがじめじめと湿っていて、植木の葉も多く朝露を光らせていた。自転車のハンドルも水で湿っている。

少しだけ、風が吹いていて涼しかった。
早朝の空は、淡い水色を映して澄み渡っている。
電線の間をツバメが二羽、じゃれ合うように飛んで行った。


———— んん?
自転車のカゴの中にエナメルを詰めようとしたら、カゴの中いっぱいに何か妙なものが詰まっていた。ピンポン玉より一回り小さめのカラフルなボール。赤もあれば青も黄色も緑色もあって、目がチカチカする。あれだ、スーパーボールって言うんだっけ。奴らがざっと100個以上詰まっているっぽい。
しかしこんなタチの悪いいたずらをしたのは誰なんだろう。それより、これは一体どうしたらいいんだろうか……。
そんなことを考えていると、ポーンと後ろから軽い音がして、足元で何かが跳ねていた。ふと目を落とすと跳ねているのは青色をした同じようなスーパーボールである。

「……!?」
急いでボールの飛んできた方向を見ると、誰かがこちらを見ていた。朝って言ってもまだ暗くて顔がよく分からない。けれど、シルエットから判断するに投げた犯人は子供らしい。俺と目が合うと、そいつは走って逃げて行った。

「おい、ちょっと待てよ!」
走りながら叫んでも振り向きもしない。数十メートルくらい走るとそいつは急にピタリと止まった。華奢な体に山吹色の腰まであるパーカー。近所の中学生だろうか?

その背中に追いついて、少し息を整えてから思い切って話しかけてみる。
「スーパーボール投げたの、き…」
「やっぱり。」
君だよね? と聞こうとして、急に言葉を遮られた。すると、そいつはくるりと体の向きを変え、いきなり真正面から俺に体当たりを食らわせた。細い体のどこにこんな力があったのかと思わせるぐらいに物凄い勢いで。

「うわっ、」
派手に尻餅をついてしまうかと思ったが不思議なことに俺の背後にあるべき地面が無かった。……どうやら信じられない事にマンホールのフタが開いていて、俺はその中に突き落とされたようだった。