コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 小説カイコ ( No.111 )
- 日時: 2012/07/25 07:57
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: BoToiGlL)
- 参照: セミ入り味噌汁を食った………夢を見た
翌朝。
目が覚めると朝の六時だった。昨日の疲れが出たのか、いつもより三十分遅く起きてしまった。あーあ、こりゃ朝練出れないな。
「なっ!」
危ない。うっかり潰すところだった。
なぜか枕の上にカイコがいた。いつもは繭の中に入って寝ているくせに、今日は繭なしである。
「おい、カイコ!危なかったじゃないか。もうちょっとで潰すところ……」
「高橋、ちょっと話しかけないでくれる?」
カイコの声がいつもよりだいぶ低い。
どうしたんだろう。カイコに何があったのか。
しばらく俺もカイコも黙ったままだった。外は雨が濁流の如く降っているようで、ガラス戸越しにザアザアと雨粒が砕ける音が響いてくる。
朝から雨、か。どうしよう、今日はジャージで登校してしまおうか。
とりとめもなくそんなことを考えていると、ふいにカイコが話しかけてきた。
「ふぅー、やばかった」
「やばかったって何が?」
するとカイコの体が一瞬、金色に光った。
「今、僕ね、うっかり蛾になりそうだったんだ。」
「えっ、ガって蛾?」 そういや蚕は蛾の一種だった。
「うん。まあ僕は蛾になっちゃいけないっていう契約なんだけどね。たまに僕、蛾になりそうになっちゃうの。」
「へぇ。契約って?」
「えっとね、確か弘化四年、丁未の年に契約したやつ。約束は守らなきゃだからね。」
「弘化って……明治よりは昔だよね?そういやカイコさ、この前実は百六十四歳とか言ってたけど、あれ冗談じゃなの?マジなの?」
するとカイコはふぅ、とため息をついた。
「もう六時だけど。学校は大丈夫なの?遅刻はやだよ。」
「ああ、雨降ってるし、朝練出ないから大丈夫。」
「そっか。」
ザアザアと雨戸を叩く雨の音はだんだん強くなってきているようだった。隣の部屋から、弟の目覚まし時計が鳴る音が聞こえてきた。しかし、すぐに目覚ましの音は止まり、弟は再び眠りについたようだった。どうやら、あいつも朝練を休むつもりらしい。
「高橋の弟さん、また寝たの?」カイコが伺うように聞いた。
「そうみたい。あいつ滅多な事じゃ起きないから。普通に喋っても平気だよ。」
カイコはよいしょっと座りなおした。深呼吸を一回するような仕草を見せて、ゆっくりと喋り始めた。
「えっとね、僕が百歳越えっていうのは本当。で、僕と土我が知り合ったのは犬養首相暗殺の年だったかな。学校で習ったでしょ?」
……ハンパねぇな。
「じゃじゃあ、土我さんって、本当はいくつなの?見た目二十代前半だけど。」
「うーん。僕もちゃんと聞いたことないから分からないけど、土我は確か平安以前の人間だよ。まあ、千歳以上はいってると思うけど。」
「千歳以上!? 俺はそんな人にあんな慣れ慣れしい口を聞いてしまっていたのか。あわわわ……」
「高橋は飲み込みが早いね。もうちょっと驚きまくるかと思ったよ。」
……そりゃもう、時木の件で慣れましたから。
「で、契約っていうのは?」
すると、カイコはしばらくうーん、と唸った。
「ああー、ごめんね。これは喋れないんだ。さもないと僕、人間に戻っちゃうから。多分すごいおじいちゃんなんだろうなぁ。」
「へぇ……っていうかカイコって元は人間だったの!?」
「当たり前でしょ。ただの虫が喋ってたら気持ち悪いよ。あーあ、どうせだったら虫は虫でも、アゲハ蝶とか綺麗な虫が良かったよ。」
そういえば、なんでカイコは蚕なんだろう。蚕って養蚕に使われるぐらいだよなぁ。
「もう質問は終わり? ほら、早くしないと本当に学校に遅れちゃうよ?」
カイコはそう言うと、空中から突然現れた繭の中に入っていった。
- Re: 小説カイコ ( No.112 )
- 日時: 2012/07/25 08:05
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: 8uCE87u6)
- 参照: 最近暑すぎる…
結局、豪雨のためジャージで登校し、それから電車に乗ること三十分。普通に座席で文庫本を読んでいたら、頭上から声が降ってきた。
「あ、高橋君じゃん!」
「ん? あ、おはようございます。」
誰かと思って顔を上げると、中距離の金子先輩(佐藤先輩の彼女様)だった。ポニーテールに小麦色の肌と笑顔が似合う、元気系美人さんである。
「昨日は楽しそうだったね。随分盛り上がってたじゃない!」輝かんばかりの笑顔で金子先輩が話しかけてきた。「でもな〜、七人目っていうのはちょっとムカつく。和尋がタラシってことは知ってたんだけどね。」
「え、それって、昨日の人生ゲームの話ですよね?なんで知ってるんですか……」
「そうよ。言っとくけど、アレ、女子部室まで丸聞えだったんだからね。みんなで爆笑モノだったわよ。」
マジかよー。って、いやまてよ。ということは
「柏木さんだっけ? 高橋君の好きな人?」
「……Σ(゜口゜;」
「そんなにショック受けないでよ〜。ちなみに私と杏は同じマンションだよ☆」
得意げに、Vサインを作りながら金子先輩は笑ってきた。
「━━━(゜ロ゜;)━━!!、っぜ、絶対に言わないで下さいよ!
いや、マジで言わないで下さい……」あわわわわ。これはヤバイよ。相当ヤバイよ。
「そんなに心配しなくても、だいじょーぶよ。私そんなに口軽女じゃないから。あ、でも他の奴らが喋らないとは限らないかもね。」金子先輩は吊革にぶら下がりながら喋り続けた。「まーいいじゃない!どーせならこのまま告っちゃえば?」
朝から気分どん底。杏ちゃんとは委員会まで一緒になっちゃったんだぞ………もしバレてたら相当気まずいぢゃないか……
それから。
学校に着くと、黒板にはクラス全員の名字が縦六列でズラッと書いてあった。どうやら俺の知らない間に席替えがあったらしい。教卓には今井とほっしーが二人で並んで立っている。
「お!高橋ー。俺、席替え委員長になっちゃった!」ほっしーがニコニコしながら言った。「ちなみに高橋以外は全員揃ってたから、席替えのクジみんなでもう引いちゃったんだけど……いいよね?」
「ああ、別にいいよ。ところで俺の席はどこになったの?」
「左から数えて二列目、前から三番目のところだな。」今井が黒板の“高橋”と書かれたところを指さしながら言った。
「サンキュ。ほー、前から三番目か。」机はもう移動してあるようなので、言われた通りの席に自分のエナメルを置きに行く。
エナメルを机の上に置いて、教科書を中にしまい、一息ついて新しい席に座る。黒板の見やすさは上々だし、まぁまぁ窓からの風も入って来るし、けっこう当たりの席かもな。
周りの席はいったい誰になったんだろうか。黒板を見ながら確認すると、前の席は今井、後ろは柚木君、左隣はほっしーで、右隣は……まさかの杏ちゃん?
「まさか……」
とっさに、教卓で立っている席替え委員長、ほっしーの方を見ると、ちょうど目が合った。さらに口パクで俺に何か言ってきた。
" か し わ ぎ さ ん の と な り だ ね ! "
人生ゲーム・ショック二回目。
ニコッと笑って親指と人差し指で丸印を作ったほっしー。得意げである。
ありがたいけど、もしバレてたら、相当気まずいんだよなあ……