コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 小説カイコ  【カイコ挿絵】 ( No.116 )
日時: 2013/01/25 23:14
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ./RSWfCI)
参照: 合宿なう(・∀・)

あの人生ゲーム事件から約二か月。七月もほぼ終わりに近づいている。
終業式が午前中で終わり、それから少し掃除をしてから解散となった。
通知表というガッガリ度MAXな産物を貰い、全クラス中で騒々しい雰囲気が沸き立った後、みんなそれぞれの部活へと散らばっていった。

その頃、俺は体育科実習室へと向かっていた。なんでも、やっと部活のユニフォームとジャージが業者から届いたらしい。
実習室に着くと、他の一年生メンバーはみんな揃っていた。既にみんな、自分の分はもらった後らしく、片手に真新しい青のビニール袋を持っていた。
顧問の津田先生からユニフォームとジャージを一式受け取ると、どうゆう訳だか「鈴木と高橋ちょっと来い」と言わてしまった。……何か悪い事したっけ。

「お前ら、新人戦でリレー組めよ。」津田先生は どっこいしょ、と椅子に座りながら言った。たちまち椅子がキィキィと悲鳴をあげる。
「佐藤と張と四人でな。四継かマイルかはお前らに任せるからさ。新人戦ってことをよく考えて決めろよ? 決まったら教えろな。……以上!!」

四継とは一人100mずつ走って、四人で合わせて400m走るリレーで、マイルとは一人400mずつ走って、合計1600m走るリレーだ。正直言って、マイルはやりたくないなぁ……400mとか専門外だし。

「おい、高橋。」鈴木と二人で渡り廊下を歩いている途中、鈴木が話しかけてきた。「マイルに決まってるよな?男ならマイルだよな?」

「えー!? 俺四継がいいな。400mとかマジで無理。」そりゃ鈴木は普段400mハードルとかやってるからいいかもしれないけどさ。「ちゃんと走り切れる気がしないよ。」
「大丈夫だって!夏練で俺と一緒に400m走ろうぜ☆」 輝かんばかりの笑顔。出た!これがウワサの鈴木スマイルか!
「……む。そのスマイル俺にも通用すると思うなよ。」

鈴木はちぇっ、と舌打ちをして先に部室に行ってしまった。まったく、これだからイケメンは………くれぐれも、女子のみなさんはこういう奴に騙されないでいただきたい。
しかし、リレーかぁ。実を言うとちょっと楽しみでもある。それに中学の時、惜しくも県大会でベストエイトに入れなかった悔やみもあるし。





それから結局、マイルは張先輩の猛反対を受けて却下となり、四継をやることになった。

Re: 小説カイコ ( No.117 )
日時: 2012/07/26 18:49
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: .pUthb6u)
参照: http://mb1.net4u.org/bbs/kakiko01/image/6jpg.html

↑杏(柏木)の挿絵 びたみん様 作! ありがとうございました(^∀^)!





その後、鈴木がマイルを却下された件で終始、不機嫌なまま部活が終わってしまった。飯塚が「あ、鈴木、それサゲポヨってやつ?」と、面白がって鈴木をからかい、余計に不機嫌にさせてしまったのもあるが。

時刻は午後四時。こんなに早く部活が終わるとはありがたい。
ラグビー部と野球部はまだ部活をやっていたが、サッカー部は暑さでやられて解散していた。サッカー部なのに、お前らそんなんでいいのか。
蝉の煩い音と、野球部の掛け声の永遠と響くグランドを後にして、相変わらずふくれっ面の鈴木と一緒に駅を目指して歩いた。よっぽど四百メートルを走りたかったらしい。
……と、重大な忘れ物に気が付いた。

「やっべ、俺さ今日、日直だったんだけど、学級日誌クラスに出してくるの忘れちゃった。」
すると鈴木はさも愉快そうにフッと鼻で笑った。「うわー高橋ダサッ!ダサ夫くん!学校に戻って出して来いよ。俺もう先に帰っちゃうけど。きっとマイルを反対した天罰だな。ざまぁー。」

俺の不幸で少し機嫌を取り戻したのか、鈴木はニコニコしてさっさと俺を置いて行ってしまった。しかし天罰じゃないとは思うが、一旦出た学校に帰るのはスーパー面倒くさい。
一人トボトボと今来た道を戻っていると途中、自転車に乗った小久保とすれ違った。それからアイスを買い食いしていた張先輩と飯塚とすれ違った。またしばらくすると金子先輩とラブラブ下校中の佐藤先輩とすれ違い……だんだん、自分が惨めになってくる。

やっと学校に着いた。いつもより余分な分の道のりを歩いたせいで、ワイシャツがじっとりと汗ばむ。エナメルバックを掛けている方の肩が火照って痛い。

「はぁ。」
これから階段を四階分のぼって教室に行かなきゃいけないことを思うと、自然とため息が出てしまった。


                    ………


やっとの思いでD組の教室の前の廊下に辿り着いた。既に滝汗状態である。額から半端なく汗が下っている。

パァァー  パァァー

蒸し暑い教室の中から、何の楽器か分からないが金管楽器っぽい音がした。きっと、オーケストラ部の誰かが練習しているのだろう。

「失礼しまーす。」
できるだけ静かにドアを開けた。……つもりだったが、ガラガラとけっこう大きい音が出てしまった。楽器の音色はふいに止んだ。誠に申し訳ない。

「あれれ、高橋君?忘れ物?」
教室の中のその人は杏ちゃんだった。ラッパをぐるぐる巻きにしたような楽器を持っていて、確か、ホルンとかいう楽器だった気がする。

「あ、すまない。練習中だよね、学級日誌置いたらすぐ消えるから。」
そう言って急いでエナメルから学級日誌を取り出す。くそう、手元が狂うぜ。

「学級日誌? ああ、出すの忘れちゃったんだ。」
杏ちゃんが歩いてきて、教卓を挟んで俺の向かい側に立った。「見ていい?高橋君の今日の日記。」

「え、あ、別にいいけど……たいして面白いこと書いてないよ。」
杏ちゃんはペラペラと学級日誌のページをめくった。紙と紙とが擦れ合う音が放課後の教室に静かに響く。そして今日、俺の書いた分を見つけるとそこでページを止めた。
しばらく文面を眺めて、杏ちゃんは突然クスクスと笑い出した。
「高橋君、」杏ちゃんが俺をふいと見上げた。「ここ、今日の二時間目の数学、算学って書いてるよー。これって算数と数学混ざっちゃった感じかな。」
「え、どれどれ。」
本当だ。算学って書いてある。これじゃ阿呆丸出しじゃないか。「うわあ、マジだ。ありがとう、今書き直すよ。」

筆箱をバッグから取り出そうとしたら、杏ちゃんは教卓から学級日誌をパッと奪ってしまった。「直したら駄目だよ〜 算学はちゃんと先生に見せて添削してもらわなきゃね。きっと津田先生のことだよ、生真面目に赤ペンで訂正してくるからさ!」
「ちょ、ちょっと……返してよー。」
腕を伸ばして、返してもらおうとしたが、それより速く杏ちゃんは教室の端まで駆け出していた。

「返してほしい?」
可笑しそうに笑いながら、杏ちゃんが聞き返してきた。夕焼けに照らされた教室が、だんだんと、オレンジ色に染まっていく。

「返してほしいけど。どーせ返してくれないんでしょ?」
そう言うと、杏ちゃんはまた笑った。つられて、なんだか分からないけど俺も笑ってしまった。



ガラガラガラガラ

突然、教室のドアがまた開いた。入ってきたのはほっしーだった。

「あっ、ごめん!お取込み中でしたか!」
ほっしーはそう言うとピシャッと素早く教室のドアを閉めた。


「あ……。」
やばいほっしーに見られてしまった。もうアイツのことだから部活のみんなに一斉送信しているに違いない。
杏ちゃんの方を振り向くと、杏ちゃんも唖然としていた。ほっしーめ、気まずい感じになっちゃったじゃないか。

「なんかさ、ほっしーったら勘違いしてない?なんかごめんね。」
「アハハハハ、まぁ別にいいんじゃない?」杏ちゃんがほっしーの去った教室の引き戸を眺めながら恥ずかしそうに笑った。「もう夏休みだしさ、しばらく会えないんだし!」




それから、ちょっとだけ喋った後に杏ちゃんは練習に、俺は帰路へと戻った。