コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 小説カイコ ( No.130 )
- 日時: 2012/07/20 20:11
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: N.hBywMC)
- 参照: 親知らずが生えてきた・・・
急いでチャリを飛ばして駅に着いた。あのメールから二十分以上が経ってしまっていた。もう土我さんが居るものかと思ったが、まだ居なかった。
それから十分くらいすると、改札の向こう側から土我さんが現れた。こんなに暑い中、初めて会った時と同じ、茶色いコートを着ている。それから俺を見つけると、少し早足になってこちらへ向かって来た。
「久しぶり。待たせちゃったかな?」土我さんの右手には黄色い紙袋が握られていた。
「あ、いえいえ。ぜんっぜん待ってないです。それよりこんな僻地まで申し訳ないです。でも、土我さん電車で現れるとは思わなかったです。カイコは壁部屋でワープしてくるだろう、って言ってたんですよ。」
すると土我さんは照れたように笑った。「カイコめ……確かに、千葉駅までは壁部屋を使ったけどね。あれはね、一回行った場所で、しかもその場所の鮮明なイメージを持っていないと使えないんだよ。まぁ、二人以上で使う場合はその中の一人がそうであったらいいんだけど、」そこで土我さんは一旦言葉を切った。「ああ、そんなことはどうでもいいんだった。それで任史君、一体何があったの?」
「えっと、その、輪廻転生説についてなんですけど……」
「おおお! 任史君そっち系に興味あったんだ!!いいよいいよ、いっぱい語ってあげるよ!えっとね、まずどこから話そうかな!古代ギリシア思想まで遡った方がいいかな、あ、それともカバラから始めた方がいいかなぁ。古代エジプト王朝は知ってるよね?」
「あの、土我さん!」土我さんがあんまりにも興奮して大声で怪しげな話を始めるものだから、周りにいる人たちが訝しげな表情で俺たち二人をジロジロと観察している。「ここじゃちょっとまずいんで、外行きませんか?」
向かった先は市立図書館。クーラーが効いている上に、自習室は夕方、無人化するからだ。土我さんと二人で話すなら、そこがいいと思った。
図書館の自習室に着くと、やはり人は一人もいなかった。パイプ椅子を二つ出して、机の向かい側に置いていると、土我さんは「飲食禁止」の注意書きを見事に無視して、片手に持っていた黄色い紙袋からコーラを二つと、菓子折りっぽい箱を出した
「あ、その黄色い紙袋、ひよ子だったんですね。」菓子折りは、東京銘菓、ひよ子だった。
「うん。今朝、職場で一つもらってさ、どうしてももっと食べたくなっちゃって。日本橋なら売ってるかなーと思って、日本橋まで来てたんだ。っていうか日本橋しか思い浮かばなかったんだよね。」土我さんは、ひよ子を紙から出して、ひよ子をしげしげと眺めた。「でも、これどこでも売ってたみたいだね。しっかし、かわいいよなー。」
かわいいよなー とか言いながら、土我さんはひよ子を頭からぱくっと食べた。「で、輪廻転生の何が聞きたいの?」
「……土我さんは、信じてるんですか?輪廻を。」
土我さんはひよ子から目を離して、俺の方を見た。「ぶっちゃけ僕は信じてるけどね。任史君は信じてるの?」
「あまり信じてないです。そりゃ、考え方自体は面白いものだと思いますけど。ほら、世界人口って今、七十億人近くって話じゃないですか。でも昔はもっと人口は少なかった。もし、仮に輪廻があったとしたら、魂の数は足りないことになるんじゃないかなーって、俺は思うんです。」
「ああ、それは僕も同感。でも、人間以外が人間になるかもしれないんじゃないかな。それに、魂は分裂するかもよ?杏ちゃんがいい例だったよね。」
「ああ……。」
「あ、ひよ子勝手に食べていいんだからね。輪廻転生説ってさ、非科学的だと思われがちなんだけど、そうとも限らないんだよ。簡単に科学的に証明できちゃうんだ。」
「え?」少し、信じられなかった。自分の中では、輪廻転生説はきっかり形而上の物事として捉えていたからだ。
「僕、学校行ってないからさ、ちょっと説明が下手かもしれないけど……」そう言いながら、土我さんはコーラのキャップを開けて、コーラを飲んだ。「さて、今飲んだコーラは僕でしょうか?僕じゃないでしょうか?」
「? コーラが?そんなの、決まってるじゃないですか(笑) コーラは土我さんじゃありません。」
「じゃあ、僕の血液は?僕って言える?」
少し、考えた。「言え、るんじゃないですかね。土我さんの身体の一部であることには変わりないんだし。」
「じゃあ、血液内のブドウ糖は?」
「??? それも一応土我さんなんじゃないかな……」
すると、土我さんはコーラの原材料名を読み上げた。「当たり前だけどコーラには砂糖が入ってるよね。つまりはグルコースとフルクトースに分解されて僕の身体に溶け込んでいくわけだ。それから、一部はブドウ糖に作り替えられて、僕の血液の成分になったりする。じゃあ、もう一回聞くけど今飲んだコーラは僕?」
「えっと……吸収されればコーラも土我さんになるのかな?あーもう意味わかんないや。」
土我さんはクスクスと笑った。「そーゆーこと。人間もコーラも、全ての物質は原子からできてる。全部つながっているんだ。
じゃあさ、僕らがいつか死んで、燃やされて土に埋められたりする。そしたら、僕らを作っていた何億、何兆といった数えきれないくらいの原子はバラバラになるわけでしょ?そしてその原子はまた違うところで違うものとして形作られていくわけだ。ほら、原子単位でも、僕らは輪廻転生できるんだ。」
そう言うと、土我さんはまた新しいひよ子をほおばった。