コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 小説カイコ ( No.138 )
- 日時: 2012/08/11 23:30
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: .pUthb6u)
- 参照: 文化祭と新人戦がかぶっている(泣
「でも、それって……肉体の方の話ですよね。魂とか心の方は、やっぱり死んだら二度と戻らないのかな。」
「うーん、」土我さんは顔の前で手を組んだ。「それはけっこう難しいね。まず、心がどこに宿るものなのか考えなくちゃいけない。」
「教科書的にいくと脳ですよね。脳が心を作る。でも、時木は肉体が無くても心はあったし……」
どうなのだろう。脳に何か事故や欠陥があれば人格は変わる。でも、時木みたいに、体は無いけど、心はちゃんとあるような幽霊もいる。じゃあ心は体に宿るものじゃないのだろうか。いや、そんなわけは……
土我さんはそんな思考に耽る俺を横目に、ひよ子の包み紙で器用に鶴を折りはじめた。
「昔から、人間は今、任史君が突き当たったような疑問を持ち続けてきたんだ。死んだらどうなる?心って何だろう?っていうね。結果、宗教っていうものが生まれたわけだ。まぁ、そこは語ると長いから置いとくとして。僕は心と体は別物だと思うんだ。脳が作る“心”とは別に、また違う、生命の根本のような“心”があると思うんだ。確かに体に心は宿る。でも僕は順序が逆だと思ってる。」
「順序が逆?」だんだん、土我さんの言っていることが難しくなってきた。うーん、ついていけるかな……「えっと、つまり土我さんは心は二種類あると考えているんですよね。先天的なものと、脳が作り出す後天的なものとで。」
「うん。そうだな、後天的な方は心って言うよりも人格って言った方がよかったかもしれない。順序が逆っていうのはさ、先に体ができてから心が宿るんじゃなくて、もともと心があって、それから体っていうものが心をベースとしてできるんじゃないかなーって思ったんだ。そして、その心は体が死滅すると、また新しい体を作るってわけ。この考え方が輪廻っていうかどうかは微妙だけどね。」
「不思議な考え方ですね。」
いまいち、俺は土我さんの意見に納得できなかった。それだったら、人は生まれ変わり続けて、いつまででも生きることができる。そんなに都合のいいように世界ができているとは到底思えなかった。
「年取るとね、ついつい変な考え方をしちゃうんだよ。」
土我さんは照れたように笑った。その時ふと、カイコが昔言っていたことを思い出した。
「あの……。そう言えば土我さんって、すごい長生きだって、聞いたんですけど。パッと見二十歳くらいだと思ってました。」
すると、土我さんは鶴を折っていた手を止めた。
「さては、言ったのはカイコだな!? そうだね、うん、僕は長生きだよ。」
「それ、やっぱり本当なんですか。一体どうやって……」
「壁部屋、って紹介したよね。あれは部屋の中と外とを完全に区切る魔方陣の一種だったでしょ?あれと同じことを僕自身にやっただけ。僕は他の人から見れば、普通に呼吸してたり食べ物を食べてたりするように見えるけど、本当は呼吸も食事もしてないんだ。つまり一切外界と関わっていないわけ。まぁ、あくまで、概念としてだけどね。」
「辛くは……ないんですか。」
そう言うと、土我さんは可笑しそうに笑った。
「いや、全然辛くなんかないよ。昔、僕と、僕の恋人さんとで約束してさ、」土我さんは再び鶴を折り始めた。「その恋人さんって人なんだけどさ、すっごく自分勝手でわがままな人でね。あんなに自分勝手な人は彼女以外に見たことがないよ。本当に僕、ずっと振り回されっぱなしだった。
それで、僕が輪廻転生を信じてる理由は、彼女が生き返ると信じていたいから。自分勝手な彼女はね、彼女が生き返るまで僕が死なないように彼女が死ぬとき、僕に壁部屋の呪いをかけたんだ。結果、僕は千年以上、彼女に振り回されているってわけです。ハハハ。」
「ハハハ、って。」思わず、土我さんの半端ない話と、ハハハと笑った軽い声が噛み合って無くて、こちらまで笑ってしまった。「笑って許せるってことは、土我さんよっぽどその人のこと好きだったんですね。」
「何ともスケールの大きい話でしょ?笑えるよね。」
土我さんはまた陽気に笑った。
「で、だ、任史君。」土我さんがほぼ完成した鶴の首を折り曲げながら言った。「そういうことで、僕はこんなに長生きしたわけだからだいたいの人の心は読める。任史君、最近何かあったでしょ。違う?」
「え。」
「大当たりだね。 本当にやばくなったら、誰かに相談するといいよ。でも相談したくもないのに、相談しようなんては考えなくていいんだからね。相談したくなったらその時に相談すればいい。逆に落ち込みたいときは、どん底まで落ち込むといいよ。変に自分の気持ちに嘘をつく方がよっぽどいけない行為だから。」
「……はい。」
「ちょっとでも、僕の無駄話が任史君の役に立てば、嬉しいかな。」そう言いながら、土我さんは完成した鶴を、俺の右手にちょこんと乗せた。「じゃ、またね。そうだ、そのひよ子全部あげるよ。」
そう言うと、土我さんはコートのポケットに手を突っ込んで、自習室から出て行ってしまった。