コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 小説カイコ ( No.149 )
日時: 2012/08/13 22:13
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: rOrGMTNP)
参照: 旧友がみんなバイトしてる件。

眠い。

時刻は朝の五時。朝日が少しずつ部屋に射してきた。
さっきからずっと、ザーザーと隣の浴室からシャワーの音が聞こえる。

「……。」
まだ暗い三時半頃にシャワーの音で目覚めた。最初は何事かと思ったが、すぐに鈴木が使っているんだと分かった。
朝練は六時からなので、もう一眠りしようかと思った。しかし意外とシャワーの音がデカくて寝れない。まあ、三十分もすれば静かになると思って我慢していたのだが……




    い つ ま で 風 呂 入 っ て ん だ よ !



いいかげん頭にきた。おかげでもう五時になっちゃったじゃないか!
さすがにそろそろ仕度を始めないとまずい時間なので、嫌々布団から出て、バッグの中身を整理したりした。……眠いな……眠い眠い眠い……ほんとあいつムカつくな……時間返せよ………

しばらくすると、ガチャン、と浴室のドアが開いて、鈴木がめっちゃ爽やかな笑顔で挨拶してきた。

「ちゃーっす! お、なんだ高橋意外と早起きなんだな!!」
右手を、敬礼の形で額に当てながら、鈴木が爽快感MAXな感じで俺の前にでーんと立ちはだかった。なんだか、ムカつくを通り越して、どうでもよくなってきてしまった。
「ああ、もうなんでもいいけどさ、早くしろよ。」
「りょーかいんちょ。そういえば今日の昼からほっしーが来るって。部屋はここだってさ。」
「あ、そうなんだ。」ほっしーか。なんかUNOとか日が昇るまでやりそうだな。

それから、いざ練習場に出発しようかと思ったら、鈴木がメガネが無いとか言い出した。時間ギリギリまで探した末に、ベッドの横にぽつねんと置いてあったという。さすがにキレる寸前だった(笑)

その後、朝練を終えて、朝から運動部の合宿特有のハードな油弁当(内訳:天ぷら、唐揚げ、コロッケetc)を食べたというよりは頑張って飲み込んだ後は、しばらくの間自室待機となった。鈴木と一緒に部屋まで戻り、ほっしーの到着を待ちつつ参考書を眺めていた。

「そういえばさ、高橋、お前あの蚕はどうしたの。」ぽつり、と隣のベッドから呟く声。
「カイコ? ああ、今は繭ん中に入ってるけどこっちに連れてきたよ。」
「ふーん。」鈴木がいつもの調子で、なにかの漫画を読みながら相槌を打った。「あのさ、カイコって一体何なの?」

「うーん、とね。もともとは人間だったらしいよ。それで契約とかなんとかで、蚕の姿になってかれこれ百何十年とか言ってたけど……あ、別に無理して信じなくていいんだからね。」
すると鈴木はへへへっと笑った。「信じるよ。ねーもっと話してよ、あの土我さんって人は?」
「本当に信じてんの? まぁいいけど。あの人はね、すごいよ。なんでも平安朝以前の人なんだってさ。それで、好きだった人が生き返るのを今日までずっと待ってるんだってさ。一途な話だよね。」

すると漫画から目を離して、俺の方を見てきた。「……そりゃ、すっげぇロマンだな。」
「だよね。その割には、土我さんけっこうお茶目なんだよー。」
だって、ひよこを買いたいがために鎌倉からはるばる東京まで来ちゃうくらいなのだから。
「なんかさ、」鈴木がベッドの上をゴロゴロと転がりだした。「お前から、お前の話聞くの初めてかも。」
「はぁ? なんだよそれ、どういう意味よ。」
「だって、お前いつも人の話聞いてばっかじゃん。なんとなく。」
「……そうかな。」
「うーん、俺の気のせいかなぁ。でもなんか今、違和感っつーか、変な感じしたもん。」



それから、鈴木はまた漫画の世界へと帰って行った。あの漫画そんなに面白いのかな。

Re: 小説カイコ ( No.150 )
日時: 2011/09/18 07:02
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ToOa8xAk)
参照: サワガニオ

「…おぇ……気持ち悪い………」


昼。
ついに食い物にあたってしまった。多分昼飯のメロンだ。
気温は30℃超えなのに、ぞくぞくと寒気がする。


「高橋、だいじょうぶ?」近くにいるはずのほっしーの声が、なぜか遠くから聞こえる。

「………メロン。」
「メロン? メロンがどうしたのさ?」
「俺、メロン食うと腰が痛くなって寒気がするんだ……昔から。」
「じゃあなんで食べたんだよ! もー、高橋は午後練出ちゃダメだかんね。俺が帰ってくるまでここで寝てること!!いいね!」

ほっしーは、そう言い放つと部屋からバタンと出て行ってしまった。
おぇ……食うんじゃなかった……… 頭痛もしてきた。これは相当マズい。メロンアレルギーってあるのかな………


それから、あまりのだるさに俺の意識はぷっつりと途絶えた。






                ◇

さく、さく、さく。
  さく、さく、さく。

緑の香りが、足元から立ち込める。
夏の日差しをじりじりと首筋に感じながら、手元には額からの汗が無尽蔵に滴る。鎌の先も、だんだんと緑色に染まっていく。

さく、さく、さく。
  さく、さく、さく。

もうどれだけこうしていたのだろう。
気が付けば、陽はだいぶ傾いて、ひぐらしの悲しげな鳴き声が、永遠とこだましている。



さく、さく、さく。
  さく、さく、さく。


もう、どれだけ繰り返せばいいのだろう?


                ◇



「……ん、」
目が覚めると、もう3時を回っていた。そろそろほっしーや鈴木も帰ってくる頃だろうか。
だいぶ体のだるさは取れたが、まだ少し頭が痛い。うーん、どうしたもんかね。

体を起こして、気分転換に部屋の換気でもしようかと思ったら、窓際のカーテンにカイコがいた。

「あ、高橋。起きたんだね。」カイコがのっそりと動いた。
「うん、だいぶ楽になった。っていうかカイコ、なんだか久しぶりじゃない?ずっと繭に籠ってたみたいだけど。」
「久しぶり、たって昨日の朝は普通に顔合わせたでしょwww」

「……あ、そうだっけ。ところでさ、カイコって繭の中でいっつも何してんの?」

するとカイコは一呼吸置いた。「えっとね………糸をつくってる。」

「糸? 絹糸ってやつ?じゃあ、いっつもカイコ、夜は繭の中に入ってるけどさ、夜中ずっと糸つくってるわけ?」
「うん。最近ちょっと頑張ってるからね。いっつも眠いんだよねぇー」
「ほう。でも糸なんか作ってどうすんの。」

「さぁね。僕も知らないや。」カイコが、照れたように笑った。「前に言ったよね?僕が昔、契約して虫の姿になったって。僕はね、作らなきゃいけないんだ、糸を。許してもらえるまで。」

「………許してもらえるまで?」


カイコは、俺の質問を無視して話を続けた。「あのさ、高橋。小説ってあるでしょ?僕も昔、よく頭の中で物語を作って妹とかに聞かせてたんだけど……糸を作るのって、アレとどうも似てるんだよね。
 糸にもそれぞれ性格があるんだ。楽しい気持ちで紡いだ糸、悲しい気持ちで紡いだ糸……、いろいろあるけど、気持ちだけで随分と糸の性質が左右されるの。今まで自分が作ってきた糸をさ、たまに眺めるとけっこう面白いんだよね。ああ、あの時は辛かったな、苦しかったな、嬉しかったな、っていうのが今までの糸の感じから分かるんだ。そうだな、まるで日記帳!って感じかな。」

「……よく分からないけど……大変そうだね。お疲れ様。」カイコが、最近眠そうにしていたのにはそういう理由があったのか。
「ん、ありがとう。なんかやる気が出てきた! じゃ、またね。」そう言うと、カイコは再び繭の中に入っていった。


「許してもらえるまで……か。」
何を許してもらえるまでなんだろう。カイコは、昔、一体何をしてしまったのだろう。

自分でもよく分からないのだが、あのセリフを言った時のカイコが、この前、公民館の屋上で会った拓哉のお母さんと重なった。
今、思い出すと、拓哉のお母さんは拓哉に許してもらいたかったんだろうか。ごはんを作ってあげなかった、勉強も教えてあげなかった、母親らしいことを何一つとしてしてあげられなかった………そう、俺にこぼしていた姿が、何故かさっきのカイコとどこか似ていた気がしてしょうがないのだ。

拓哉、か。
ここ数日、頻繁に拓哉のことを思い出す。ふとした瞬間に、何年も前のことが脳裏によぎったりする。でもそれに対して、何の感情も湧いてこないのだ。懐かしい、という感じもしないし、悲しい、という感じもしない。特に何も感じられないのだ。


「はぁ……」 静かな部屋に、自分のため息が聞こえる。
最近、意識していないと人前でため息をしてしまいそうになる。誰も居ない間、今の内にしておくかな(笑)