コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 小説カイコ ( No.161 )
日時: 2011/10/05 21:50
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: gb3QXpQ1)
参照: 時数めっちゃ少ない(笑)

「ちょ、高橋!?」

やっと見つけた、と安堵したのも束の間。いきなり膝をガックリ地面につけたかと思うと、高橋はそのまま前のめりに倒れてきた。

「おいおい、しっかりしてよ。」
話しかけてもウンともスンとも言わない。まさかと思うけど本気で気絶したのかな。……もう、本当に世話の焼ける。
しょうがないので、きっと食堂にいるであろう鈴木の携帯に電話をかけて、助太刀を呼ぶことにした。
目が覚めたら、うんと怒ってやろうかな(笑)









                      ◆

夏も近づく八十八夜。千歳茶に染めた、新しい着物が点々と目につく。
谷津に詰め込んだように作られた棚田、棚田の数々からハリの良い、元気な田植え歌が永遠と、こだまして聞こえている。
水の流れに沿って、しっかりと左回りに巡らされた棚田のあぜ道を下りながら、僕は人々の話す噂話を何となく聞いていた。







蟲神村にはな、そりゃ美しゅう娘が居てな、


なんでも、肌は雪のように真っ白で、
長い髪と、大きな瞳は墨を流したように黒檀でな、


そりゃあそりゃあ美しゅう娘子がおるようだ。
そりゃあそりゃあ美しゅう娘子がおるだとて。

残念なことんになぁ、その娘、外には滅多に出ぬそうよ。すぐに風邪をひいてしまうんだと。
いつも家ん中んて、しずーかに、しずーかに、細い指先で機を織っているそうよ。

その娘の織る衣はな、出来の良いものばかりでんな。
ほんに、天女の衣のようだと。晴れ着に使いたい言うもんも大勢おるんだと。

だからな、人はみな娘のことを化衣胡と呼んじゃて。
蟲神村の化衣胡と呼ぶんじゃて。

Re: 小説カイコ ( No.162 )
日時: 2012/05/12 23:26
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ijs3cMZX)
参照: 生物研究部を兼部してみたw

「あ、気が付いた?」
見上げると、群青色の星空を背景にほっしーが俺を覗き込んでいた。
断裂して、どこか別の世界へと飛んで行っていたような意識が、急に元の世界に戻った。どうしてか、そんな風な気がした。

「えっと、俺……?」
「高橋ったら気絶してたんだよ。たった二分ぐらいだったけどね。もう、人の顔見るなりぶっ倒れてさ、ほんと失礼な奴だな(笑)」
「……ごめん。」

すると、ほっしーはおかしそうに笑った。「なんで謝るんだよ。っていうか、なんでさっきはあんなに驚いてたの?俺ってそんな変な顔してた?」
「いや、別にほっしーの顔は変じゃないよ。」
「じゃあ、なんで?」

返答に困った。なんと言おう。
そんな俺の様子を見てか、ほっしーは呆れたように溜め息をついた。
「あーあ、そうやってまた高橋君は秘密主義ですかー。」
「違うよ。別に秘密にしたいわけじゃないけど。何て言うか……説明に困ってる。」
「大丈夫。高橋のどんなヘタクソな説明でも、俺の天才的な国語力でどうにかしてあげるから。国語だけは昔から得意なんだからね。」

「えー、だってすんげぇどうしようもない話だよ。えっと、ほっしーがここに来る前に俺めっちゃ変なおっさんに絡まれてさ、逃げようと思ってた矢先にほっしーがいきなり来たからビビってただけ。それだけ。」おっさんが突然消えたことは、さすがのほっしーでも信じてくれまい。

「ふーん。そんなことがあったの。じゃあなんで高橋はここに居たの?」
「それは……迷子になったっていうか……」
「なんだよそれ。夕方ごろ宿場から飛び出して、今の今まで迷子だったの!?本当にどうしようもないね。」
「ごめん。」

ほっしーは謝る俺を無視して腕を組み直すと、少し口調を速めて喋りだした。まるで生徒を叱る小学校の先生みたいに。
「で、どうするの?部屋に帰るの帰らないの? まぁ、帰らないなんて駄々こねたらブッ飛ばすけどね。みんなお前のこと心配してるんだからね。自分で言っちゃあなんだけどさ、俺だって夕飯抜きで高橋のことずっと探してたんだから。少しはみんなのこと考えてよ。」
「……ごめん。マジでごめん。」

「わかったんならそれで良し。さっさと帰るよ。鈴木がもうそこまで迎えに来てくれてるかもしれない。」そう言うと、ほっしーは俺の腕を引いて颯爽と立ち上がった。

ほっしーの誘導で暗い森を抜けて、宿場へと続くであろう車道に出ると、数十メートル先に懐中電灯の光が見えた。鈴木だった。
ほっしーが両手をいっぱいに広げて、鈴木に合図を送った。「おーい、鈴木!こっちこっち!」
あぁ、と答える声がして、だんだんと足音とライトの揺らめく光が近づいてくる。まだ心の準備もできないままに、すぐに鈴木は目の前までやって来た。
「鈴木、やっと高橋確保したよ(笑)」ほっしーが豪快なドヤ顔を見せた。

錯覚だろうか、鈴木の姿をすっごく久しぶりに見たような気がした。
一瞬、目が合った気がしたが、申し訳なさで一杯で何と言ったらいいか分からない。「……ごめん。」
「何が?別にお前何もしてないじゃん。」ふい、とまるで猫のようにそっぽを向いた。
「その、いろいろと。さっきはひどい事言って、ごめん。」

するとそっぽを向いたまま、鈴木はアハハハハハ!と大笑いしだした。「さっきって、もう四時間以上前のことだろ!相変わらず変な奴。それに俺の方が意味不な行動して悪かった。あれで気分悪くならない方がおかしいよ。謝る。だからさ、だから、この話はもう流そうぜ。」再び、こちらを向いた鈴木の顔は、なんだか照れ臭そうだった。何故だかこっちも恥ずかしくなってしまう。
「……そうだね。ありがとう。」
「やめろよ、照れる(笑)」

「じゃあ帰ろっか。お腹すいたな、途中でなんか買おうよ。」ほっしーが財布の中身をチャラチャラと鳴らしながら言った。
「いいねー。俺さぬきうどん食いたい。」
「鈴木は今食って来たんでしょ。太るよ。」

いつも通りの二人の会話を聞いているだけなのに、なんだかとても幸せな気分だった。迷惑をかけてしまった申し訳なさと、どこからかくる妙な温かい気持ちとがごちゃ混ぜになって、よく分からなかった。
きっと俺は、この二人に聞いてもらいたかったんだと思う。もっと自分を分かってもらいたかったんだと思う。変なプライドと、不器用ささえなければ、きっともっと早くに楽になれていたんだろうに。