コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 小説カイコ ( No.165 )
日時: 2012/05/13 14:22
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: uY/SLz6f)
参照: 明日テストなのに大丈夫なのか?  ———大丈夫だ、問題ない。

               □

無事に高橋を見つけ出し、そのあと近くの売店に寄り道した。俺と高橋はラーメン、鈴木はなぜか板チョコを六枚も買っていた。意外と甘いもの好きなのね。
部屋に着いて早速、買ったカップラーメンにお湯を注いで待つこと三分。ぼけーっとテレビを眺める。24時間テレビがやっていて、なかなかにアホなことをやっていた。芸人さんも大変だなぁと思った。
それからひとしきり笑ってだんだんテレビに飽きてきた頃、急に高橋がぽつり、ぽつりと話しだしたのだった。

なかなか重たい話だった。なんでも、幼馴染が最近亡くなってしまったらしい。正直、驚いた。
俺は近しい人が亡くなったことなんてなかったから、なにをどう言ったらいいのか全然わからなかった。下手に慰めたところで、余計に気が重くなってしまうだけだろうし。

高橋が話し終わると、鈴木がどっこらしょ、と座り直した。
「そっか、それで、高橋最近暗かったんだ。」
「やっぱ暗く見えた?俺、隠すの下手みたい。土我さんにも見抜かれちゃったんだよね(笑)」
「うん、下手。」鈴木が笑いながら言った。「それでさ、なに、お前はその拓哉って奴のことしょっちゅう思い出しちゃうんだろ?でもそれに対して何も感情が湧かないのが申し訳ないって思ってるわけか。なかなかに高橋チックだな。」
「高橋チックって何だよ……。」

すると鈴木は質問を無視して、板チョコの銀紙を剥きだした。「いちいち思い出してぐずぐず泣くよりはいいんじゃない?俺なんて中学入るまで姉ちゃんの件で三日に一回は泣いてたもん。もぉ自分が自分で恥ずかしいわー。
でもさ、そうやって思い出すってことは、それだけそいつのこと好きだったっていう証拠だと思うよ。それだけでも十分な手向けになるんじゃないかな、俺が思うに。そだ、チョコ食う?」言いながら、板チョコをパキッパキッと三つに折って投げてよこした。
「ん、ありがと。」
「いえいえどういたしまして。結局さ、悲しまなきゃいけない、なんていう決まりは無いんだし。それに故人がそうされて嬉しいかどうかも微妙だし。それは高橋が冷めた奴ってことじゃなくてさ、えと、うーんとだな……きっとただ単に高橋チックなだけなんだよ(笑)」
最後の方は鈴木も喋っていて恥ずかしくなったのか、笑いながら話を終わらせてしまった。ていうか高橋チックってなんなんだ。

「なんだか最後の方はよく分からなかったけど。なんか随分楽になった。ありがとう。それに二人ともこんな微妙な話聞かせちゃってごめん。」
「え、いやいや。俺の方こそ何もできなくてごめん……」そう言うと、高橋はとんでもないよ、と付け足した。

「なんでもいいけどさ、」鈴木がニタニタ笑いながら言った。「二人ともチョコ握りしめすぎ。デロンデロンに溶けてますけど?」

Re: 小説カイコ  【左廻り走路編、完結!】 ( No.166 )
日時: 2012/05/12 23:49
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ijs3cMZX)
参照: やっと左廻り走路編、完結です。

時間が経つのは早いもので、もう合宿の最終日になってしまった。
鈴木と喧嘩して、結局鈴木やほっしーにお世話になっちゃったあの晩。あの後、小久保と飯塚が隣の部屋からUNOやろうぜと押しかけてきた。中距離は明日四時半から練習だというのに、なんだかんだでキッカリ十二時まで遊び通してしまった。途中から佐藤先輩と張先輩まで遊びに来て、本当に騒ぎまくった夜だった。

そして今日。ついに最終日である。

日差しは相変わらずにギラギラと照っているが、湿気はそんなに無い。おまけに涼しい風も微かに吹いていて、カラッとした気持ちのいい陽気だ。
毎年の恒例として、最終日は合宿に参加した四校で合同レースをすることになっていた。集合時間になって、それぞれの宿舎から四校の生徒たちがぞくぞくと集まる。他の学校は体格のいい人ばかりで正直ビビる。

ちなみに俺の属する短距離は、リレーで競う。
一通りアップも終わり、あと十分で試合が始まる時間となった。リーダーの佐藤先輩が、銀色のバトンをひゅんひゅんと振り回しながらそわそわしている。
「みんな準備はオーケー? N工業には絶対負けないように頑張ろうね! あ、それと。合図送りは全員下の名前で呼ぶこと!いいね!!」


合図送りとは、リレーが始まる前に一走は二走の、二走は三走の、そして最終的にアンカーは一走の名前を大声で呼んで合図を送ることで、試合の直前には絶対にやることになっている。
陸上の競技場のトラックは左回りにぐるっと一周四百メートルのコースを走ることになっているので、一走の張先輩からスタートした合図が、左回りに、二走の佐藤先輩、三走の鈴木、そして四走の俺へと回ってくる。ちなみにこれをやらないといいタイムが出ないという伝説まであるくらいだ(笑)

「えー何だよそれ。女子みたいじゃんか。佐藤一人でやれよ。」張先輩がつかさず文句を言った。
「いいじゃん!もう、照れ屋さんなんだから〜。この際みんなで女子力上げちゃおう☆的な?」
何かいいことでもあったのか、佐藤先輩はやけにテンションが高かった。それに押されてみんな反論する気が失せたのか、もう誰も何も言わなかった。
いや、待てよ。張先輩の下の名前が分からない……!

先輩に気づかれないように、こっそりと小さい声で鈴木に聞く。
「あのさ、張先輩の下の名前って……何だか知ってる?」
「確か“立つ”って言う字に“人”っていう字だったと思う。」
「それ、何て読むの。」
「俺も知らん。たっと とかじゃん?つーかさ、高橋って名前タケシだっけ?タニシだっけ?ごめん忘れたっぽいわ。」
「……タカシです。」自分の名前忘れられるのってけっこうショックだね。

その時、ホイッスルの甲高い音が鳴った。試合開始の合図だ。
「よっしゃ、打倒N工業! がんばるぞー!!」佐藤先輩がN工業に聞こえんばかりに叫んだ。あーもう、もしも負けたらどうすんですか!




——————————————————————————————————————————————————————————


そしていよいよレースが始まる。
午前の日差しに照らされた、夏の、緋色のタータンはキラキラと眩しい。
茹った地面からは、ゆらゆらと波打つ陽炎がたっている。

「おーーーい、たーかーしー!」
俺は三走の鈴木からの合図を、腕を振って答えた。すぐに一走の張先輩へと大声を張り上げる。

「たっと、 先ぱーい!」
すると、100m向こうの方から張先輩の豪快な笑い声が聞こえた。「バカヤロー! 俺の名前はリーレンだ!」……なんてこった、ミスったぽい。

俺が立つ第三コーナー、すなわち四走からは、一瞬どこまでも伸びているように錯覚してしまうくらい、まっすぐと伸びた100mの線が見える。

それと、ゴールラインでストップウォッチを握りしめたほっしーの姿も。



ピィ ———————————  
開始の笛が鳴る。競技場はこの瞬間、まるで時を止めたかのような静寂に包まれる。気持ちのいい緊張感が、腕に、足に、全身にさっと通り抜ける。


どうしてかこの時、
ふと、小学生の頃、拓哉と走ったリレー大会を思い出した。


位置について。
よーい。


パカン


渇いた雷管の音が、響く。


一走の張先輩がスタートし、バトンはあっという間に二走、三走、そして俺へと左回りに廻ってくる。鈴木からのバトンを左手で受け止めて、100mを一気に駆け抜ける。すぐに並んだN工業には、絶対に負けない。

数十メートル、と言っても刹那の数秒間を競う。
たった数秒で終わってしまう時間なのに、なんだかとても長くて辛くて、楽しい。

ゴールラインはもうすぐそこ。
あと十メートル。N工業には勝てるだろうか?

最後の最後の一メートル。できるだけ大股にラインを越える。
僅かな差で、どうやら勝つことができたようだ。後ろからは、ほっしーの喜ぶ声。


ゴールした瞬間、一テンポ遅れて、ふっと、風が抜けていく。
左手に持ったバトンが、熱い。






“よっしゃ、任史! ラストのラストで抜かしたじゃんか!”
いつの日にか聞いた、嬉しそうな拓哉の声が、風に、空に、溶けていく。




走り終わった後の荒い呼吸を、ゆっくりと整える。蝉の鳴く声と、自分の呼吸が重なっていく。
なんとなく、青い空を見上げる。どこまでも、どこまでも青かった。空の青に、なにもかも吸い込まれていくようだった。







————————————— ああ、やっとわかった。
                           拓哉はきっと、こんなふうに、走りたかったんだ。







〜左廻り走路編、完結〜