コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 小説カイコ ( No.201 )
- 日時: 2012/01/02 16:37
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: u6EedID4)
- 参照: 初夢は学校に遅刻する夢と血を見て失神する夢でした。何なんだもう。
息を切らしながら神社の本殿に着いた。途中何だかよく分からない木の枝とかにぶつかって肌がヒリヒリと痛かった。たぶん血が出ちゃったかな。
本殿の裏側には小さな木製の扉があって、そこから中に入った。柚木さんの後に続いて靴を脱いで中に上がると、キィキィ、とよく床が軋む音がした。少し外からの月明かりが差し込む以外は真っ暗で、ほぼ何にも見えなかった。
「ふぅ。」柚木さんが一息吐いた。それから、ポケットからライターを出して光をつけた。暗い本殿に、小さな明かりがぼうっ、と灯った。「……普段タバコは吸わないんだけどね。たまたま持ってて良かった。これで、あと土我があいつをやっつけてくれたら最高なんだけど。ん、どうしたのさ、そんなビビった顔しないでよ。」俺の顔をチラと見ながらそう付け加える。
「…ビビった顔も、したく、なります、よ!」乱れる呼吸を整えながら抗議すると、柚木さんが笑った。
「ははは、そりゃあそうかもしれないね。さて、どこからどの話をしようかな。」
「とりあえず、最初は時木の話をしていたんですよね。」
「ああ、そうだそうだ。それで裏口に出たばっかりにあの変なおっさんに会っちゃったんだよね。……とんだ災難だなもう。それで、」言いながら、柚木さんは携帯を出して光を付けた。なんだこっちの方が明るいな、とライターをしまってしまった。「もう隠すこともないでしょ?高橋君はきっと幽霊の杏ちゃんに会ったんだろ。その時にカイコマスターにもなった。違う?」
「そうです。すいません、嘘付いちゃって……」
「いいよ別に。そんな初対面の人にいきなり蚕の話する方が頭おかしいから。んでさ、君の蚕には妹が一人居る。名前はハツって言うんだけどね、その子も蚕の姿をしている。今はどうしてるか知らないけど、ハツの昔のパートナーは俺だった。」
そこまで話を聞いて、昔時木が言っていたことを思い出した。
“……あのさ、高橋。私、お前にこの前透明人間の話したよな。”
“———— 私の本体は精神だ。体は無い。すなわち脳もないからね、考えることもできないし、記憶も、言語能力も皆無なんだ。多くの幽霊がそうであるように、ただ心だけでこの世に漂っていたんだ………けどね、カイコマスターのサイト見たよね?あるカイコマスターが心だけこの世に漂っていた私に脳の代わり——— つまり、私の蚕を与えてくれたんだ。人助けの一環としてね。”
じゃあ、あのとき、時木が言っていたカイコマスターは柚木さんのことだったのか…?
「じゃあ、心だけだった時木に蚕を与えたのは……柚木さんだったんですか?」
「そう。あ、じゃあそこらへんの話は杏ちゃんから聞いていたんだね。まぁそういうこと。けれどそれ以来俺と杏ちゃんは一回も会ってない。…君と違って俺は霊感もないから、実際会っていたとしても俺の目には見えなかったんだろうけど。それで、さっき高橋君が由紀子に向かって 時木?って言った時にもしかして、と思った訳さ。……あいつ元気にしてる?」
懐かしむような柚木さんの声に戸惑った。だって、時木は、もう……
「えっと、その……なんというか、もう居ません。」
「居ない?」柚木さんが囁くように聞き返した。声が擦れている。
「ええ、俺が出会ったとき、詳しくはよく分からないんですけど時木は分裂してたらしくて。いい奴と悪い奴に。それで、土我さんと例の時木の弟って奴と一緒に分裂してた時木を一人に戻したんです。まぁ、そうは言ってもほとんど土我さんの魔法みたいな力のおかげでした。」
「……そっか。」柚木さんが微妙は表情をした。哀しいような、残念なような、けれどほっとしているような。それから、少しだけ儚げに笑った。「そっか、よかったよ。じゃあきっと成仏できたんだね。よかった。」
- Re: 小説カイコ ( No.202 )
- 日時: 2012/01/08 00:21
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ncIzV/MA)
- 参照: 部活終了後、両足一気に吊って倒れこみ、心無い友人に笑われたorz
その時、遠くの方から低い、遠吠えのようなうなり声が聞こえた。
「あのおっさんだ。」柚木さんがさっと表情を変えた。「あいつ一体何なんだろ。怪物なのには間違い無いみたいだけど。まぁ土我がどうにかしてくれるかな。」
「さっきは本当にびっくりしたんですよ、俺。覚悟決めてたら突然誰かの後姿が目の前にあって。あの茶色いコートに灰色の髪の毛だったからすぐに土我さんだって分かったんですけど……」その時、ひやりと嫌な感覚が背中に伝った。「…土我さん、大丈夫なんでしょうか。あんなの相手に、」
俺の言葉を遮るように、柚木さんが笑った。「大丈夫だよ、きっと。俺らはどうすることもできない。それにね、助けに行ったところで邪魔なだけだよ。」俺の考えを見抜いたような言葉に、少しギクリとした。
「ええ、……そうですね。」
◇
「ああ、いつぞやに会った奴婢殿じゃあないか。」青服が、忌々しそうに土我を睨みながら言った。腕からは、黒い液体が出ている。「痛い痛い。あの子供まで逃がしてくれたな。……奴婢殿の考えることは未だに理解できないね。」
奴婢、という言葉に土我が片眉を上げる。「鬼よ、そのような物言いで俺を辱めようとも無駄だぞ。」
青服の鬼は、土我の言葉をニタッと笑った。その瞬間、鬼の顔が人の顔に戻り始めた。しかし元の顔ではない。若い、美しい女性の顔だ。
腰まであった白髪交じりの髪はゆっくりと色を変えて、艶やかな黒髪になっている。青色だった服は、いつの間にか濃い藍色の、上品な着物になっていた。
その様子を、土我は冷めた目付きで眺めていた。
「何のつもりかな。」土我が冷たく言い放った。「そんな安い顔ではないぞ、あいつは。」
「別にいいじゃあないか。」女の顔で、さっきまでの中年の男の声音で言う。「これだけでもあんたが僕に刃を向けにくくなったと思ったんだけど。それで、聞かせてくれないかな。」まるで本物の女性のような、優しい笑顔をつくる。鬼の長い黒髪を揺らすように、冷たい風がそっと吹いた。
「どうして、人の子なんて助けたんだい?人喰い鬼のくせに。」
ふと、土我は考え込んだ。風が、音も立てずにそよいでいる。
「お前と一緒にされては気分が悪いな。俺は人喰い鬼ではないわ。」
笑いながら、土我は左手に持った白銀の刀を見つめた。微かな月の光に照らされて、刀が放つ怪しげな白い光とは対照的に、真っ黒な液体が先端にべっとりと付いていた。
「人など好んで喰わぬ。俺は外道の外道を行く者故な。」細い指先で、刀に付いた鬼の黒い血を拭った。黒くなった人差し指を、土我はそのまま口元へと運ぶ。その行為に、鬼は思わず鳥肌を感じた。
「何をしているんだ…やはり、やはり奴婢殿の考えることは、解せぬものよ!」鬼の声が負けじと荒がる。
「俺が好んで喰すはな、」その様子などお構いなしに、土我は鬼をちらと見やって笑う。そして毒を含んだような真っ赤な舌を少しだけ出すと、指先に付いた黒い水を舐めた。
瞬間、瞳が青白く輝く。
見開かれた瞳孔は猫のように縦に細く、ヒトのものでは無かった。
「……お前のような、外道の肉よ。」
細い瞳孔が女の姿をした人喰い鬼を捕らえる。夜の深い闇の中で、月のように輝く青白い瞳は、それだけで十分だった。十分に、人喰い鬼を動けなくさせた。
- Re: 小説カイコ ( No.203 )
- 日時: 2012/01/08 11:12
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: 6KYKV6YZ)
- 参照: 寒すぎる……(−Д−川
相対峙した彼らは、そのまま微動だにしなかった。微かな冷風だけが、両者の間に吹いている。
やがて、人喰い鬼に異変が現れた。女の姿をした鬼の指先が少しずつ、少しずつ透明に透け始めたのだ。指先だけではない。ゆっくりと、爪から掌へ、腕へと透ける部分は広がっていった。
「な……なんだこれは!」
身体の異変に気が付いた鬼は、半ば悲鳴のような狼狽の声を挙げる。先程まで勝気だった鬼の顔には、今では恐怖の表情がくっきりと浮かんでいた。
しかし土我は答えない。爛々とした月のような両眼をぱっくりと見開いたまま、鬼を見据えているだけだった。
その様子が、更に鬼を混乱させる。「そ、そうか……これが、く、喰われるという事なんだな、…そうなんだな、そうなんだろォ!い、嫌だぁ、嫌だ嫌だイヤだぁ……こんな意味の解らん奴に、いやだ、嫌だぁあああ!」
獣のような唸り声を挙げると、鬼の姿が突然、女から真っ黒な塊りへと変わった。周りの闇よりも黒い塊りは不気味な音を出しながら、更に大きくなっていく。それは蜂のような低い音を立ていて、よく見ると塊だと思っていたものは、何千何億もの小さな羽虫の大群だった。
その変化に土我は瞬時に身構える。すると、何億もの黒い羽虫が土我目がけてまるで弾丸のように降ってきたのだった。
「八岐!」
土我が叫んだ。すると、どこからともなく金属のような大きな蛇の頭が現れ、虫の大群をぱっくりと飲み込んだ。大蛇の目は、青白く輝き、土我の瞳と同じ色をしていた。
しかし羽虫の数は減ったが、消えたわけでは無かった。まだまだ多くの羽虫が小さな羽根の音を低く轟かせながら、頭上で大きな渦を巻いて旋回している。あまりにも大量の羽虫は、地上から月の光を遮断した。
「何回でも来るがいい!ちょうどこいつも腹が減っているのでな!」
土我が天を覆う虫たちに向かって叫ぶと、虫たちが一斉に方向を変えて、そのまま逃げるように飛び去って行ってしまった。
「……?」
土我は考えた。虫共は負けを見越して逃げて行ってしまったのだろうか。いや、負けず嫌いのあの鬼がそんなことをするとは思えない。だったら、一体……?
ふと、顔を上げて虫たちが飛んで行った方向を見た。その瞬間、負けたのはこちらかも知れないと思った。
あちらは任史君と達矢が逃げて行った方向だ。だとすると、虫共は神社の本殿へ向かっているに違いない。小さな羽虫どもは、古い木造の本殿の隙間という隙間から中へ侵入するつもりなのだろう。
「まずいな、八岐行くぞ!」