コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 小説カイコ ( No.21 )
- 日時: 2012/04/30 22:51
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ijs3cMZX)
- 参照: ぬれせんべいって知ってる?
結局それから自力で地上まで這い上がり、何とも奇天烈なこの出来事とは一旦オサラバした。
結局乗るはずだった電車には置いて行かれ、次の電車が来るまで二十分ほど待った。結果、乗り換えの電車も順々に遅れて行って、結局は部活の朝練に出れなかった。
学校に着き、落ち着かない思考のまま一時間目から四時間目まで終えると昼休みとなった。
高校生になってからしばらくが経ったが、生来人見知りで喋りも上手でない俺はあまりクラスの人とも馴染めないでいた。しかも俺の頭は人の顔と名前を覚える能力が極端に欠如しているらしく、誰がこのクラスに居るのかもよく分からない。
故に弁当を共にする友人など居ないわけで、一人席に座ったまま、机の横に置いたエナメルから弁当を取り出した。周りを見渡すと、クラスに数人だけ居る女子や、男子でも内進生は丸くグループをいくつか作って弁当をつついていたが、大半の俺と同じような外進生は一人で自席に座っている感じだった。
寂しいな、とは思わないけれど、少しだけ居ずらかった。
「高橋君?」
その時、後ろから声が掛けられた。びっくりして振り返ると同じ外進生らしき女の子が黄緑色のファイルを抱いて立っていた。
「……あの、」その子はブレザーのポケットから携帯を取り出した。「見た?鎌倉遠足の班。会長があみだくじで決めてくれたみたいなんだけど。」言いながら、背面黒板の方を指差す。なるほどそこにはクラス全員の名字がずらりと並んでおり、 班員だぜ!見ろ! と大きく書かれていた。
「あ、今気が付いた。まだ見てないよ。」別に緊張なんかしてないはずなのに、勝手に声の調子が変になってしまう。
「そっか。えっとね、見ればわかると思うけど、私高橋君と同じ班なんだ。それで色々と自分たちで計画立てなきゃいけないらしくて……その、高橋君のアドレスだけもってないんだよね。だから交換してくれない?」そう言うと、その子は照れたように笑った。焦げ茶色の、長い髪が綺麗だった。
「あ、うん。わかった。」我ながらどうしてこんなつまらない返事しかできないのか嫌になる。こちらも携帯を取り出し、赤外線通信でアドレスを交換し合った。終わると、ありがとう!と言ってその子は去って行った。
携帯の画面を見ると、柏木杏、という名前だった。どうでもいいけど木っていう漢字が三つも入っている。
その後も、すっかりぼーっとしてしまった頭で授業を受け、やっとの思いで七限目まで終えた。その頃にはなんだか目まいがしていた。頭も重くて変にだるい。……馬鹿みたいな話だが、俺はマジで熱を出してしまったらしい。
部活は無理そうなので休み、フラフラの身体を引きずって家に帰った。地元に着くころには日もすっかり傾いてしまい、けっこう寒かった。自転車を漕ぐのもかなり苦痛だった。
今にもブッ倒れそうな具合で家に着くと、どうした訳か自分の部屋の電気が点けっぱなしになっていた。……節電のご時世なのに勿体ない。
部屋に入ると、不思議なことにベットの端に誰か座っていた。弟でも妹でも母親でもない。今朝のマンホールに落としてきた中学生だった。
唖然として立ちすくむ俺を、さも愉快そうな目付きで見上げると、少女は口を開いた。
「おう、遅かったな。待ったぞこのやろう。」
……本当に、頭がクラクラした。