コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 小説カイコ ( No.24 )
- 日時: 2012/12/27 23:03
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: geHdv8JL)
- 参照: スーパー書き直しタイム中。
「なんだ、高橋。随分とフラフラな感じだな。」
「……えーっと。」きっと、俺は熱でやられているのだろう。
「おいおい待てよ、警察を呼ぶぞ!とかベタなこと言い出すなよ。要領の悪い高橋のことだ。面倒なことになるぞ。」
「ちょ、いつの間に名前を、」
すると少女は右手を振って俺が喋るのを遮った。「別にどうだっていいだろそんなの。お前、高橋任史って言うんだってな。タカハシタカシって名字と名前が似たり寄ったりじゃないかよ(笑)」
「(笑)って…人の名前で笑うなよ……そうだ、そっちの名前は?」頭が重くてだるくてしょうがない。早く眠りたい。
すると少女はニヤリと笑った。「契約するんだな?」
「は?」
「おっけ、私の名前は時木杏。契約終了だな。おめでとう、これで高橋もめでたくカイコマスターだ。」
パチパチパチ、と時木と名乗ったそいつはふざけたように手を叩いた。それからヒョイと、まるで猫のようなしなやかさで後ろの窓枠に飛び乗った。
「んじゃあな。ああ、そうだこれは我々のサイトだ。毎日チェックするように。」いいながら、山吹色のパーカーのポケットから何かアドレスらしきものが書かれた紙切れを取り出して、そっと窓枠に置いた。「パスワードはkaiko-japanだ。じゃ、今度こそさらばだ。」
そう言うが早い、時木はパッと窓を開けると外に勢いよく飛び出してしまった。あまりの突拍子の無さに、一瞬こちらの思考が真っ白になる。
「おい、ここ、二階だぞ!」
一テンポ遅れて叫んでも多分もう遅い。急いで今立っている部屋の入り口から窓まで走る。
「何一人で喋ってんの?幽霊でも出た?」
後ろから声がした。ギョッとして振り返ると弟だった。呆れたような表情でこちらを見ている。
「な、大季?」
「飯できたって。早く降りて来いって呼んでるよ。」
それだけ、ぶっきらぼうに言うと、大季は階段を下りて行ってしまった。ふと、また窓の方を振り返ると、不思議なことに窓はもう閉まっていて、カーテンなんかもちゃんと引いてあった。どこにも、時木杏がここに居た跡はない。しかし時木杏が先程置いて行った、アドレスの書かれた紙切れはまだちゃんと窓枠に置いてあるのだった。
- Re: 小説カイコ ( No.25 )
- 日時: 2012/04/30 22:54
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ijs3cMZX)
次の日。
昨日、時木にカイコマスターのサイトのURLを貰ったので好奇心から熱も忘れて、早速サイトに繋げてみた。何だかこれから、ライトノベルにでもありそうなワクワクすることが自分の身に起こるのではないかと、やけに胸が高鳴った。しかしサイトに繋がったはいいものの、時木がドロンしたショックでパスワードを忘れてしまい、結局中身は見れなかった。
「よっ、高橋!」
高校へと続く坂を登っていると、同じ陸上部の鈴木が後ろから追い付いてきた。朝日で鈴木のメガネが光っていて、ちょっとウケた。
「おはよ。鈴木は今日朝練やってく?」
「いんや。ちょっと野暮用があるんでね。今日は出ない。」
この高校で知り合った鈴木という奴は、俺と同じく短距離専門で、主に400mハードルをやりたくて陸上部に入ったという。面白い奴で、しかも男の俺が言うのもなんだか気持ちが悪いがかなりのイケメンだと思う。女子ウケよりも男子ウケの方が良さそうな感じの。
「そういやさー、高橋お前、川口さんと同じ班なんだって?」
「あーまだ班員誰だか把握してなかったんだよね。てか川口さんって誰。」
「あの、ちょー可愛い子。茶髪でオシャレな感じの!」
「ああ、あの人。」柏木さんとよく一緒に居る、雰囲気のやけに明るい人か。「あんま興味ない」
そう答えると鈴木は マジでー!?ありえんー!! とか絶叫した。
「だって川口さんと一緒になったのって、お前と柚木とあと何だっけ、忘れたけど、あと男二人と一人女の子でしょ。いいなあ。ラッキーだよなあ。お前もうちょい嬉しそうにしろし!」
鈴木はそれからずっと いいなぁーいいなあぁー しか言わなくなった。きっと他のクラスまで知り渡っている川口さんとやらはよほど綺麗な人なんだろう。
「はあ……」
まあ、川口さんだか何だろうがそんな華々しい人とは俺はきっと今後一切関係が無いだろう。そしてその時どうしてか、この前話しかけてきた柏木杏ちゃんの顔が浮かんだ。そういえば、時木も名前が杏なんだったっけ。何たる偶然。
「おい、高橋聞いてんのか?」
そんなことを考えていると、鈴木がまた話しかけてきた。
「あ、ごめん。聞いてなかった。なんか言った?」
すると鈴木は アハハハハ と笑って俺の右肩らへんを指さして言った。
「なんかお前、肩に芋虫のっけてるぞ。」
「へ?」
恐る恐る首を右に向けて自分の右肩を見る。鈴木の言う通り、そこには学ランの黒色とは対照的な、何か白い、パッと見、いやどう見ても芋虫にしか見えない物体が乗っていた。
これは……蚕?
うぎゃあああぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!
「取って!とって!鈴木、頼むとってえええええぎゃああああああああ」
「……笑」
「笑 じゃねー!! うぎゃあああ鈴木とって!とってよ!うぎゃああああ」
鈴木は悠長に写メを取り始めた。いや、ムービーか!?
「いいよーいいよー高橋君。もっと騒いで〜〜」
もう鈴木なんて信じねー!!
なんとか走ったり跳ねたりしたら蚕は取れた。もうこの学ラン着たくない。……後日談になるが、俺はこの日から学ランを着ていない。気温13℃でもワイシャツ一丁だぜ。
鈴木はまだケータイを構えている。
「おい、高橋、顔が泣きそうだぜ。かわい〜〜。カシャっとな。」
「撮るなーっ!」
「さっき、とって!とって!言ってたじゃんか!」
鈴木はヒャハハハハハハと醜悪な笑い声を残して残りの坂を一気に駆け上がっていった。ちくしょう……尋常じゃなく速い。
ふと、昨日の朝に聞いた時木の言葉が頭のどこかでリピートされた。
“昨日のそのサイトでお前は勘違いしているみたいだが、カイコマスターっていうのは、昆虫の蚕とはあまり関係ない。”
————————— 関係おおアリじゃねえか!
それから。
部室に行って着替えて、朝練を済ませた後に校舎に入って上履きに履き替えたわけだが、上履きの中に何か入っている。B5サイズの紙切れ。何かとてつもなく嫌な予感がした。見たくないのだが、そうともいかず上履きの中から折り畳んである紙を取り出して、ゆっくりと広げる。
紙切れにはこう書いてあった。
“カイコには気づいたか?あれはお前の蚕だからな、名前とか付けてやるんだぞ。ちなみにどこ行ってもちゃんとついてくるから安心しろ。”
安心できない。