コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 小説カイコ ( No.265 )
- 日時: 2012/06/03 23:14
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: OHW7LcLj)
- 参照: 六月になったら五月病が治った(笑)
結局その後、学校から家が一番近いほっしーの家にみんなで泊まる事に決まり、明日の駅伝に向けて部活は早めに解散となった。
それからはいつも通りに部室を出て、自転車通学のほっしーと小久保の二人組とは校門のところで別れ、下宿の鈴木とは駅に向かう途中の道で分かれ、飯塚とは駅まで一緒で、電車の方面が違うのでそこで別れた。その後は地元を目指して一人、延々と電車に揺られていた。比較的に空いていたコンパーメント席を選んだのはいいのだが、目の前に座っているのがカップルなのはまずかった。とりあえず目の置き場に困る。さらに隣に座っているサラリーマンのおっさんが、余程疲れているのかぐったりと寄りかかってきてかなり重い。あの、肩外れそうなんですけど……
おっさんの重みに耐える事しばらく。だんだんとおっさんから伝わる温もり(こう言うと何だか気持ち悪いけど)に、いつの間にやら俺自身もぐっすりと夢の世界へと旅立ってしまっていた。
「お兄さん、起きて。終点だよ。これ回送だから車庫入っちゃうよ。」
「へ。」
駅員に声を掛けられて目が覚めた。終点、地元の我島岡である。急いでお礼を言って電車から出る。乗った電車の終点が地元で本当に良かった……下手したらこの前みたいにとんでもない所まで流されてしまうところだった。
駅舎を出るともう辺りは真っ暗になっていて、かなり寒かった。北風が顔とか手とか、制服からはみ出ている部分を容赦なく凍らせてくる。急いで駐輪場に向かって自転車で漕ぎ出したはいいものの、やっぱり顔面と手が寒い。千切れてしまいそうだ。
それからは家へ向かって一直線。駅から離れるにしたがって目に見える風景は閑散としていき、田んぼゾーンに入った頃には本当に人一人見当たらなかった。電灯もかなり遠い間隔ごとにしか設置されていないので、ガチで真っ暗である。これでいきなり猫とかタヌキとか出てきたら冗談抜きで轢いてしまうだろう。
……と、そんなことを考えていたらすぐ先に暗闇の中で何かキラリと光るものが目に付いた。腕が反射的にブレーキを掛ける。キキキーッ、と大きな音がすると、その謎の物体はうねうねと動き出した。思わずギョッとする。
「なんだアレ。」
ハンドルを傾けて自転車のライトをそれに当てる。光が当たるとそいつはうねうねとした動きを止めて、まるで死んだかのようにピタリと動きを止めてしまった。これは……蛇か。農道の脇とかでよく見る、普通の青緑色のでっかいヤツである。
なんだ、蛇か、と思ってそのまま無視して蛇の横を通り抜けた。たぶんさっきのキラッと光ったのは蛇の腹にライトの光が反射してだろう。でも、この季節に蛇が出てくるとは珍しい。こんなに寒いのに例年と比べればまだ温かい方なのだろうか。
数分して住宅街が見えてくると、今度はカラスが大合唱していた。もう夜になっているというのに、昼間の勢いでガァガァ鳴いている。何だか蛇といいカラスといい、今日は少し様子が変である。ここらへんの言い伝えで動物が騒ぎ出すと何か良くない事が起こる、というものがあるが、それを思うと少し不気味だった。早く家に帰ろう。
「ただいまー。」
やっと家に着いて、玄関をくぐるといつもより置いてある靴の数が多かった。母親の靴、妹、優羽子のスニーカー、大季のローファー、その横にさらに大きめのサイズのローファーが一揃えあった。どうやら父親が赴任先から帰って来ていたらしい。
「おかえりー。久しぶりだな。」数か月ぶりに聞く親父の声だった。膝の上でにゃん太(猫)を抱いている。
「あれ、親父帰って来てたの。」食卓の上には出前の寿司が置いてあって、優羽子がキャアキャア嬉しそうに騒いでいた。「今回はいつまで居んの?」
「月曜の夕方にまたあっちに帰る。だからゆっくりできるのは日曜までかな。あーあ、忙しくてやんなっちゃうな。」なぁ、にゃん太? とにゃん太に話しかける。にゃん太は軽く迷惑そうな顔である。
「あーせっかくなのにごめん。俺、明日と明後日さ、友達ん家に泊まるんだよね。ほんとごめん。」
すると、母親の眉間に見る見るうちに皺が寄った。小言タイム開始の合図である。「もう!どうにかなんないの!? せっかく久しぶりに家族が揃うのに……あんたも大季もまったく……」
「え、大季もなんかあんの?」
「サッカーの練習試合。」大季が面倒くさそうに言い放った。「ちょっと遠征になるから一泊すんだってさ。俺だって家でゆっくりしてたいよ。」
「あーじゃあ、こうしようか、お母さん。」親父がニコニコしながら言った。「優羽子、明日は確か小学校の授業参観だったよな。それで月曜は振替休日だよね。じゃあ優羽子と三人でさ、授業参観終わったらすぐにディズニーランド行かない?しばらく行ってなかったしさ、せっかくだし二泊しようよ。」
その言葉を聞いた途端、優羽子が嬉しそうに跳ね出した。「ほんと!?ディズニー行くの!? 本当の本当に?やったあ!!」
「でも、月曜の午後に出発なのに……疲れない?」母親が心配そうに聞くが、タフさを自負している親父は「大丈夫。」の一点張りである。どうやらビジネスバッグを持ったまま浦安市のディズニーランドで遊び、そのまま成田空港まで跳ね返って出張先に帰るつもりらしい。我が父ながらタフな人だな、とつくづく思った。
「そうね、そうすると土曜の午後から月曜の午後までこの家、誰も居なくなっちゃうわね。にゃん太には悪いけど……水とキャットフードどっさり置いていけばにゃん太平気かしら?あ、あと任史と大季もちゃんとご飯食べるのよ。」
「ちょ、俺らのところかなり付け足した感満載だったけど(笑) 大丈夫、何か適当に食べて生きてるから。」
……どうやら母親の中では俺と大季はにゃん太と同じレベルらしい。
それから、明日の朝は早いので、みんなより先に寝た。すると、妙な夢を見た。
聞いたところ、人によって夢の見かたはかなり違うらしい。身近な人で言うと、飯塚はそもそも夢を見たことが無い、と言っていたし、鈴木は夢に色が付いていないと言っていた。ほっしーは同じ夢を何パターンか繰り返して見ると言っていたし、小久保に至っては毎回、女子になってしまう夢を見るという。
俺の場合、大体の確率で小さいころにあった事を夢として見る。だから当然、色も匂いも味も付いている。大抵は小学校入学前の出来事を夢で見るのだが、今回は珍しく、最近の出来事だった。
蟲神神社での夜の夢だった。江戸時代にワープしてしまったところから始まって、太一やハツも登場した。しばらくすると土我さんが現れて……なぜか、そこらへんから夢が曖昧になってくる。すると突然、夢の場面がバッと変わった。気が付くと俺は、俺の部屋で立っていた。目の前のベッドには、眠っている俺が布団にくるまっていて、そして俺はそれを見下ろすような感じで枕元で突っ立っているのである。ああ、これは夢だぞ、現実じゃないぞ、ということは分かっているのに、それに不釣り合いな、何ともリアルな光景に思わず鳥肌が立った。
ふと、何かの気配がしたので右を見ると、俺の勉強机の椅子に、あろうことかあの蟲神様がちょこんと座っていた。こちらに気が付くと、にっこりと微笑む。
「任史、」深い若草色の瞳が俺を見ていた。その瞬間、またもや夢の場面が切り替わり、俺はあの、蟲神神社へと戻っていた。真っ暗な夜で、神社に敷き詰められた白い砂利と、黒天に浮かぶ燦々とした満月が有り得ないくらい綺麗に映えていた。懐かしい秋の虫の音が、静かに響いている。
「……最後に、一つ注意しておきましょう。」蟲神の優しい声がして、目の前で長い黒髪がさらりと揺れた。ああ、これは確か、前に一度、蟲神様と別れる寸前に聞いた言葉だ。
それから蟲神はゆっくりと顔を上げ、囁くように呟いた。
「灰色の髪の鬼とはあまり関わらない方がいい。あの年老いた若者は、任史には少し毒が強すぎる。それくらい、彼はあまりにも特殊すぎるから。」
その言葉を聞き終わるか終らないかのうちに、夢の世界は視界からどんどんぼやけていって、気が付けば、耳元で小うるさいアラームの音が鳴っていた。
夢、夢だったのか。
あんまりにもリアルな、それでいて意味深な夢だった。さらにどうやら寝ている間に大汗をかいたらしく、全身がベタベタしていて気持ち悪かった。ああ、やだな、シャワー浴びよう。そう思って布団から起き上がると、薄暗い部屋の中でもはっきりと分かるくらいに、ベッドの横の床に、人影がくっきりと二つ分あった。
「うわっ