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Re: 小説カイコ ( No.283 )
日時: 2012/07/26 20:22
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: .pUthb6u)
参照: 夏だー暑いー。しかし小説は真冬なう設定。

飛行機の、あまり居心地の良くないエコノミー席に座り続けて数時間。機内放送がもうすぐ日本に着くことを綺麗な英語と日本語で告げた。閉じていた目を開けると、窓の向こうで、ただただ真っ白な雲海が見えた。

もうすぐ日本、か。

空港に着いた後はどうしよう。ニセモノ退治以外には特に何もすることが無いな。
飛行機は降下し始めたようだ。少し重力感覚が変になる。気持ちが悪い。


“土我、聞こえる?”

ふいに、脳裏を霞むようにして、カイコの声が聞こえた。
カイコ。弘化の永遠の夏の世界に戻れたのではなかったのだっけ。

「聞こえてるよ、どうしたの。」
すると安堵のため息を着く声が聞こえた。『良かった。土我ったら、ずっと呼んでたのに答えないんだもの。』
「あはは、それはごめんね。ちょっと海外行ってたから。やっぱ海神を跨いでは会話は無理なんだね。で、要件は?」
『うん、僕とハツね、気が付いたらなぜかこの世界、平成の世界にまた来ちゃったの。それで、そんなわけだから今僕らがここに居る理由がなにかしらあるはずでしょ?でもそれが分からないんだ。分からないから、やるべきことも分からない。もーずっと暇してるだけなんだよ……。』
「ふーん、何だろうねぇ。」正直、思いつかない。カイコたちは何に呼ばれてこの世界に来てしまったのだろう。誰が、何のためにそんなことをしたのだろう。あの二人には、十分に元の世界で幸せな生活を送る権利があったのに。「ごめん、ちょっと思いつかないや。」
『そっかー、でもね、少しだけ手掛かりは掴めたの。』カイコが急に声を落とした。『今ね、僕ら高橋のおうちに居るの。つまり我島岡。それでさ、なんかここの土地の様子がおかしいんだ。何がって、例えばね、こんなに寒いのに動物たちが眠らない。冬眠してるはずの蛇やカエルがそこらじゅうに沢山いるんだ。しかも毎晩カラスたちが真っ黒な羽根を広げて住宅地で大合唱する。おかしいでしょ、夜にカラスが鳴くなんて。』
「……なんだろ、悪鬼か何かが荒らしているとかかな。」
『そう。僕もそうじゃないかと思ってる。ハツがね、夕方ごろ散歩してたら、我島岡公園の森の中で真っ赤な肌をした鬼みたいなモノを見たって言うんだ。一瞬ふっと見えた感じだったから、よくは見えなかったみたいだけど。』

蛇、カエル、カラス、赤鬼。……なかなか楽しそうじゃないか。

「わかった。今、僕は飛行機に乗ってるんだけど、もうすぐ成田空港に着く。そしたらすぐそっちに向かうよ。成田から電車使って、二時間くらいで着くと思う。」
『やった、土我サンキュ!ごめんね、いっつも迷惑かけてばっかりで。でもなぁ、鬼だったら怖いなぁ。頼んどいて何だけどさ、無理はしないでね。土我ったら、たまにタガが外れて大暴れしちゃうからさ。』

口内に溜まり出した唾液をゴクリと飲み込む。「ううん、平気だから。いいんだよ。気にしないで。」
大丈夫、僕は鬼喰い鬼だから。

会話が途切れた。相変わらずカイコたちがこの世界に来てしまった理由が分からないが……。あと今できることと言えば飛行機が地面に着くのを待つだけだろう。
たぶん、我島岡、任史君の家の近くの異変はその赤鬼の仕業だと思う。こんな文明が進化した時代になっても、ちらほら現れるものなのだな。


腹が減っては戦ができぬ、

そんなことわざがあった気がする。
だったら、自分のニセモノと刃を交える前にはちょうどいい。

少しだけ、胸がわくわくして、全身の血が泡立つような高揚感が喉元を熱く閉めた。体中を渦巻く八匹の蛇共も、どうやらかなり嬉しいみたいで、いつもより激しく皮膚の下を這いずり回っている。少し痛かったけれど、まぁしょうがない。だって久々のディナータイムなのだから。