コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 小説カイコ ◇最終章◇ ( No.339 )
- 日時: 2013/01/12 20:49
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ./RSWfCI)
- 参照: ファジー板で書いてる小説の挿絵がトップに載ったお!
「……。」
さっきからずっと、まるで走馬灯のように、土我さんの過去が俺とにゃん太の目の前で次々と映しだされていた。今だってほんの数メートル先で、幼い土我さんと陰陽師の旦那と呼ばれた男の人が何やらコソコソと会話を交わしている。何と言ってるのかあまり聞き取れないが、心なしか土我さんが微かに嬉しそうな表情を作ったのが見えた。
「ねぇ、にゃん太。さっきここは、“時の狭間” だって言ったよね。それって土我さんの過去ってこと?」
「いんや、」にゃん太があくびをしながら言った。「土我だけではない、この世が歩んできた過去すべてが生きている場所だ。」
「生きている?」
「左様、時間というのは不思議なもんでな、信じられんかもしれんが時間も生き物だ。それで、時の狭間は過去が生きる場所だ。普通、常人は入れない。無論、ワシらは常に今を生きているからの。一瞬一瞬の“今”が生きる場所で生きるワシらが、過去が生きるこの場所に入れる訳が無い。」
「?? ちょっと意味が……」
にゃん太が愉快そうに笑った。「そうかそうか。だがな、お前は左廻りだ。その気になればいつでも出入りできるのじゃぞ。」
「ひだりまわり……」また出たか。左廻り。拓哉も、あの青服の変なおっさんも、カイコたちの時代で出会った薬屋のおじいさんも、言っていた言葉。「ねぇにゃん太、そのさ、左廻りって何なの?俺ちょくちょく言われて来たけど、何が何だかさっぱりなんだ。」
「まぁ、簡単に言えば過去との繋がりが強いということだ。ほれ、後ろを振り返ってみろ。」
「……こう?」言われた通りに、踵を回す。
すると驚きかな、くるりと振り返るとそこには、今まで見ていた平安時代の町並みは綺麗さっぱり消え去っていて、一面の星空が広がっていた。思わず驚いて、もう一度踵を回して見るけれど、やはりそこにはずっと星空が広がっていた。頭上はもちろん、360度すべて、足元にも星空は広がっていて、果ては見えない。ずっとずっと真っ暗な闇の中に、燦然と輝く、白や青や、緑、赤、いろいろな光が目の回るばかりに散らばっているのだ。
「うわ……すごい。」
無限に広がるその空間は、恐ろしいほど綺麗だった。
思わず思考が真っ白になって、ただただ見惚れていると、いわゆる彗星、ってヤツだろうか。物凄い速度で、一筋の白い光が、こちらへ向かって来るのが見えた。
と、思ったのも束の間。一瞬のうちに俺とにゃん太はその白い光に全身を包まれていた。
それから恐る恐る目を見開くと、今度は星空は消えていて、なぜか一面真っ白な雪景色の中に立っていた。
「おお、ここは任史も見覚えがあるじゃろ。」
「えっとここは……。」
どこだろう。耳を澄ませば、少し近くで子供の遊ぶ声が聞こえた。気になったので少し歩いて見に行くと、やはり子供が五、六人、雪の上でじゃれあって遊んでいた。普通に現代風の洋服を着ている。さすがに寒いのか、何枚も着重ねていた。あの子供は誰だろう。やけに見覚えがあるような……
「あ!」
分かった。あれは、俺自身じゃないか。
まだ小学校入学前の俺と、まだ三歳の弟の大季と、この前お世話になった由紀子さんと、それから会わなくなって久しい遠縁の兄弟とが、雪合戦して遊んでいた。みんな今よりずっと幼くって、すごく懐かしい。
ああやっと思い出した。確か、この時期に母親が何かの病気で入院して、山形の親戚 —— 衣田さんのところに半年くらい大季と一緒に預けられていたのだ。父親は仕事で中国とシンガポールを行き来していたので、俺たちの面倒まで見れなかった。
そんなことを考えながら過去の自分たちを眺めていると、急に小さい大季がひっくり返って、どこかへ転げて行った。
「わー!!大ちゃんさ、がんむくっちゃごろごろて落ちてったぞ!!」
「えええ!はやく助けんべ。」「どこさ行ったがや!」
うわぁ、懐かしい。この頃は、そういえば思いっきり方言だったなぁ。それから、俺含め由紀子さんとあとの従兄弟たちは大季救出にあくせくしだした。微笑ましい限りの光景である。
するとまた急に、場面が移り変わった。
寒々しい雪景色は跡形も無く消え去って、かわりに見慣れた、千葉の、今住んでいる街並みが現れた。小学校の下校時刻なのか、黄色い帽子とランドセルを背負った小学生が向こうからぞろぞろと歩いてくる。
そして予想していた通り、しばらくして俺が現れた。隣にはなんと、あの拓哉までいた。
二人で並んで歩いていて、褐色よく日焼けした元気そうな方が拓哉で、もやしみたいに白くてひょろい方が俺だ。
「拓哉はすごいなぁ、きっと将来はスポーツ選手だね。」
さっきよりはだいぶ成長した、小学生の自分が呟いた。俺はナルシストじゃないけど、我ながらけっこう可愛く見える。
「へへへ、じゃあ任史はきっとカガクシャだな!!」
拓哉が得意そうにそう言うと、俺も嬉しそうな顔をした。
そういえば俺と拓哉は小学校時代、ものすごく仲が良かった。中学でも仲は良かったが、拓哉が不良化して学校に来なくなったので、それほど交流が無かった。でも今思うと、どうして俺と拓哉はあんなに仲が良かったのか、不思議である。拓哉はスポーツ万能で、いつも元気そうだった。それにあの頃からワルだった。対して俺は、高学年になるまで喘息がひどくって、運動できないし病弱だしで、いつも、昼休みでも読書ばっかりしていた。そして絵に描いたようなイイ子ちゃんだった。
ここまでかと言うほど対照的だったのに、どうしてあんなに馬が合ったのだろう。本当に不思議である。
「拓哉はさ、スポーツ選手ならなにがいい?」
「うーん、」拓哉が名札をいじりながら言った。「やっぱサッカーかなぁ。そうだ、任史は?そういえばカガクシャって何すんの?とりあえずすっげぇ偉いんだろ?」
「偉い、のかなぁ。よくわかんないや。でもそんな偉いなら、僕は無理かもなぁ。」
「余裕余裕!任史めっちゃ頭いいじゃん!大丈夫だよ!」拓哉が、言いながら俺の肩を叩いた。
「……うん。」
懐かしいな。こんな純粋に将来を語り合った時期が、俺にも拓哉にもちゃんとあったのか。
それに、拓哉がまだ、生きている。まさかこの時、拓哉があと数年で死んじゃうなんて、俺もアイツも思いもしなかっただろう。こんなにも、未来を生き生きと夢見ていたのだから。