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- Re: 小説カイコ 【参照8000突破】 ( No.367 )
- 日時: 2013/04/01 23:26
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ECnKrVhy)
彼と彼女が出会ったのは、いつかの夏の日。
虫の音の鳴り響く、それは静かな夕暮れとき。
日中の暑さも偲ばれる、夏夜の森の中は、急に肌寒くなる。
真っ暗な森の中、点々と光るものが、一つ、二つ。
怪しげな灯を放ちながら、ふわりふわりと飛ぶ夏の精。人は彼らを蛍と呼ぶ ——
◇
時は平安、ここは、京の都から少しはずれたところにある、とある農村。
煌びやかさからは程遠い。あるのは、川と、田畑と、森と。人は、村人と、それと得体の知れぬ山人が時折、村はずれの森のあたりまで現れるくらい。
そんな今日も、一人の山人が鹿の子の毛皮はいらぬかと村人のところへ取引にやってきたようだ。その様子を見つけた村の大人たちは、いつも通りに、怪訝な顔をしてざわめき立つ。
「あれ、見てみぃや、山人が来よったぞ」一人の農夫が、山人を指差して言った。
「またかいの、……近頃は多すぎやしないかね」その妻が、やはり眉根を寄せて不快そうに呟いた。
「なぁに、狩りが上手くいってるだけじゃろ、変な考えはせんでええがじゃ」その長男が、両親の山人に対する差別を朗らかに受け流した。
「けどなぁ」
そんな両親を見かね、長男は作業していた手を休めて、ゆっくりと言った。
「そんじゃ俺に任せときぃ、ちょうどサユキにいっちょ前の靴でも作ってやろうかと思っとたんや。あいつももう必要な年だ。どうせなら鹿革がええやろ」
そう、両親を無理やりに黙らせて、長男は悠々と山人のところまで歩み寄った。本当は、鹿の子にはさほど興味は無かった。ただ彼は、ずっと昔から山人に興味があったのだ。山人は村人たちから賤視され、常に差別の対象であったが、彼だけは、山人たちの独自の風習に蔑視とは違う好奇心を抱いていた。それに、話してみると、案外気心の知れた、良い奴ばかりなのだった。
それゆえに、なぜ村人たちの間で山人への差別が起こるのか、彼には理解できなかった。大人たちに聞いてみても、昔からそうなっていたから、としか答えない。そんな不明瞭な答えでは、ますます彼の山人への好奇心は絶つことができない。
山人は、長男が歩み寄って来るのを見つけると、嬉しそうにニコリと笑った。きっと年頃は同じくらいであろう。彼らは、互いに大人たちの無言の禁忌を破っては、長らく話し合うことがあった。
「やぁ、久しぶり—— ああ、鹿の子か?今度は何が欲しい?そうだなぁ、今なら少し、綿織りが余っているぞ」