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Re: 小説カイコ 【一気に14記事15000字ほど更新w】 ( No.390 )
日時: 2013/06/04 20:17
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: P4ybYhOB)
参照: 早くも受験疲れwww


 そしてその日もいつもと変わらず、じきに一日は終わろうとして、太陽は西の地平線に燃えるような斜光を残して沈んでいった。


 じきに、刻々とした宵の闇が訪れる。
 


 土我は、館の東表に面した渡り廊下に、一人することも無くぽつねんと、月を見上げて座っていた。
 今夜は満月。不気味なほど煌々とした光を宿した大きなが、こちらを見ている。ひゅう、と冷たい風が頬を撫でる。


 「今日は、六日目になるのか」
 ちなみに昨日は五日目である。なんの話かと言うと、連続殺人事件が起こってからの日数だ。昨日の羅生門と東寺の間で起こった殺人の犠牲者の五つの屍は、確かにこの目で見た。

 一日目は外市で、絹商人がひとり、殺された。
 二日目の晩は 若い夫婦が、つがいで、ふたり。船岡山の麓で。
 その次の晩、すなわち三日目は、南のはずれの門人の男たちが、さんにん。
 一昨日、四日目に当たる夜は、河原で孤児たちが、よにん。


 ……毎晩、被害者の数は、ひとりずつ、増えていく。
 だから今日は、六人がやられるはずだ。街では、一部の若衆の間では何かと話の種になっているようだが、大多数の人々は殺人事件など気にせずにいつも通りに過ごしていた。そんなこと、気にならないくらいに、何もせずとも毎日飢餓で死ぬものがごまんといるのだ。死体など見慣れたもので、少し通りを歩けばいくらでも築地の下で干からびた餓死体が見れた。


 世も末、末法の世がついに訪れたのか。
 皆が皆、それぞれに絶望を口にした。



 「何してるの、土我」
 ふいに、背後から声を掛けられて振り向くと、矢々丸がさっきまでの自分と同じように月を見上げた格好で立っている。

 「やぁ、いつからそこに居たんだ」
 「ん、今さっきから。ちょっと気分転換に。……リトの熱がね、まだ収まらないんだよ。嫌だな、ああいう小さな女の子が苦しむのってさ」

 あぁ、と溜息めいた返事を返した。
 リトは、ここの家人の中でも一番幼い。正確な年齢は分からないが、多分、十にもなっていないだろう。主様が人市でリトを買って家人としたのがちょうど半年前。俺と同じ鬼子で、やはり俺と同じように酷い目に遭って来たのか、はじめは何の感情も示さない、体中に青い痣のある痛々しい子だった。

 それでも、根は明るい、ただの普通の女の子だったのだろう。半年の間に、リトは心を戻した。純粋な幼さから来る愛らしさが、本当に屈託のないくらい華やかで、家人たちの間でも可愛がられていた。

 そのリトが、今は主様と同じ病で寝込んでいる。街でも流行っている、恐ろしい疫病だ。患ったら最後、治る見込みはない。あるのは死の一文字だけ。
 実を言うと、俺とこの矢々丸以外の家人たちも、随分と前から調子を崩して、暇をもらっては館から去っていた。主様が患ってからは、家人で元気な者は俺たちだけだった。辞めた家人を補うように、新しい下人を雇っても、またすぐに彼らも病に侵されてしまうのだ。

 人の居なくなった、がらりとした館は広い。
 死んだような静けさの作りだす広さは、どこか病的なものがある。


 「これでリトも死んじゃったら……本当に、俺と土我だけだな」
 「だな。さてどっちが先に逝くかね」 言いながら、笑ってしまった。

 「お前、どうする? 今からこんな事を言うのもなんだけどさ……」
 矢々丸が、言いにくそうに言葉を淀ませた。

 「主様もお亡くなりになったら、ということか」
 「うん」


 「考えてもみなかったな……。俺には宛ても無い。たぶん強盗になるか、大人しく飢え死にするかだな。お前は大丈夫だよ、鬼子じゃないもの。きっとうまくいけばまた家人としてどこかのお屋敷で働けるさ。」