コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 小説カイコ ( No.46 )
- 日時: 2012/04/25 00:07
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: kVKlosoT)
- 参照: 近くの川が放射線?やばいらしいです。もう魚食っちゃったヨ(・∀・ )
「うーん……」
パソコンの前で苦悶する俺。
さっきまで一緒だった時木のことが気になって仕方が無かった。変な奴、で片づけてしまえばそれまでなのだが、どうにもそうしてはいけないような気がするのだ。
そこでパソコンを開けてカイコのサイトに繋げてみた次第だ。けれど、パスワードがどうしても思い出せない。無機質な液晶は、真っ白な背景と、その真ん中にぽつねんとパスワードを入れるボックスを映し出すばかりだ。
「パスワードは、kaiko-japan だよ?」
びっくりするくらいクリアに、自分の手元から小さな声がした。恐る恐るキーボードに目を落とすと、あろうことかそこには人差し指くらいの —————— 蚕が居た。
どうやらこいつが喋ったらしい。
「あ、」
一瞬完全にフリーズした思考が、携帯電話の鳴る音で呼び戻された。慌てて、というかパソコンの前からいち早く逃げ出したくて、ベッドの上に放置してあった携帯電話を手に取る。
「はい、もしもし、」
『俺だ、俺オレ。』電話の向こうから、いつも通りのふざけた声が聞こえた。
「……鈴木?だ、よね。大丈夫だったの?俺ずっと校門とこで待ってたんだけど来なかったから…」
『え〜っ、お前ずっと待っててくれたの!?やっぱお前って俺のことが……(照)』
「ない、断じてないからそーゆーの」……何が(照)だ。全く。
『やーでもゴメンちょ、待たせちゃって。実はあの後、先生がタクシー呼んで裏門から肋骨のレントゲン撮りに行ったんだよね。折れてないしヒビも入ってなかったから大丈夫だってさ。ったく災難だぜ。』
「え、いやいや、俺が勝手に待ってただけだから。それに何ともなくて良かったね。」
そう言うと、ふいに会話が途切れた。
けれど続ける言葉も特に見つからなくて、あちらがまた喋り出すのを待つことにした。
『……あのさ、今日の昼さ、高橋の携帯に着信入ったじゃん。』
「時木杏のこと?」何となく、言いたいことは分かった。
『うん、医務室で言った俺の姉ちゃん、同じ名前なんだ。名字も下の名前も。』
「へー」できるだけ、できるだけ自然な声を出した。「偶然の一致かな。そういやその時木って、ちょっと鈴木に似てるんだよね。」
『そりゃすげぇな〜』アハハ、と鈴木の不自然な笑い声が電話越しに聞こえた。『ハハハ、あはは……』
声は、すぐに途切れた。
「鈴木?」呼び掛けても、なかなか返事が返ってこない。
やがて、一呼吸置く音が微かに聞こえた。
『……んでるんだ』
「えっ?なんて、」
擦れるような、小さな声だった。なんと言ったのか上手く聞き取れなかった。
『死んでるんだ、姉ちゃん。俺が小学生の時に。』
「えっ……」
薄々と、予想はできていた答え。
今まであったことが、ぐるぐると脳内を反芻する。
『ごめん、微妙な話題振っちゃって。ところでさ、明日朝練何時ごろ来れる?』
急にいつもの調子で話し出した鈴木に戸惑った。慌てて、こちらも返事をする。「何時でも行けるよ。部室に着くのは七時ごろかな。」
『わかった。んじゃ七時な。じゃあ。』
それを最後に、電話が途切れた。あとには、ツーツーという電子音だけが繰り返し耳に残った。
ふぅ、とため息をついて携帯を布団の上に放り投げた。そのまま、自分の身体も放り投げる。
「高橋、明日、朝早いの?」
忘れていた、机の上のパソコンから蚕の声がした。普段なら飛び上がって驚くところだが、今はそんなことどうでも良くなっていた。
「ああ、六時前に家を出ると思う。」
「そっか、じゃあもう寝た方がいいね。」
そう言うと、ポン、と軽い音がした。少し頭を上げて、蚕の居る机の方を見ると、キーボードの上に突然、白い繭のようなものがどこからともなく現れていた。その中に、蚕はのそのそと這うようにして入っていく。それから、からだの全部が繭に入り終わると同時に繭は空気の中に溶けるようにして消えていった。あまりのことに言葉が出なかったが、今は何も考えられなかった。取りあえず眠い。睡魔がまぶたを重くする。
そして俺はいつの間にか、そのまま朝まで眠ってしまっていた。
- Re: 小説カイコ ( No.47 )
- 日時: 2012/04/29 23:29
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ijs3cMZX)
- 参照: 通学中に携帯で書き直し(笑)
翌朝。
超眠い。そして一駅寝過ごした。
「わあああああああああああああああああ」
友人との約束を破りそうな高橋です。一駅寝過ごしてしまったので、今全力疾走で学校に向かってる感じだ。学校の前の魔の坂を必死で走っていると、なんと前方で鈴木が歩いていた。
「あ、鈴木おはよー。はああ、よかった、待たせたかと思ったよ。」もう心臓バクハツしそう。
「え?走ってきたの?高橋ってホント律儀男だな。モテるぞ。」
「……残念ながら生まれてこのかた彼女ができたことないよ。いやーホント疲れた。これから朝練はちょっとキツイな。」
鈴木は お疲れちゃーん と、背中をバシンと叩いてきた。朝空の、葉桜に覆われた校門をくぐってグランドを抜け、部室に着いた。部屋の中には誰も居なくて、俺たち二人で大声で話せるような感じだった。
「で、鈴木。なんか話があるんだろ。」
「ああ、そうだった。」
鈴木はふう、と一息ついた。
「高橋さ、その、昨日言ってた時木杏って子とはどういう関係なのさ?」
少し、考えた。
「うーん、いつも見るときは明るい黄色というか山吹色のパーカーを着てて……」
なかなか説明しづらい関係だけど、頑張ってマンホールに落とされたところから昨日傘を貸したところまで説明した。確かに、一体どういう関係なんだろうね。人の家に勝手に入ってきたりして。
鈴木は全部聞き終わると、バッグの中から薄い青色のファイルを出した。中には写真が一枚。中学校の校門と思われるところで、“入学式”と大きく書かれた看板の横にセーラー服姿の女の子が写っている写真だった。
「これ、俺の姉ちゃん。俺と違って、F大付属の中学校に入ったんだよね。」
……こりゃ、どう見ても時木だな。
「それで、どうよ。まさかこれと同じ人だとか無いよね?」
「いや。ちょっと信じられないけど……」もう一度、写真を手に取ってじっくりとその子を観察する。どう見ても、何回見ても、昨晩雨が好きだと言った、あの少女にしか見えない。「……そっくりそのまんまだ、髪型までぴったり同じ。俺の知ってる時木杏と同じ人だ。」
微妙な沈黙が流れた。時刻は六時五十五分。あと二十分もすればラグビー部の連中が集まり始めるだろう。写真を返すと、鈴木はずっと俯いて、手元の写真を眺めていた。
「ねえ、鈴木。会ってみない?その、時木杏に。」
すると鈴木は無言で写真から目を離して、ロッカーの向こうの窓の方に歩いていった。陽射しが高くなっていて、窓の外は眩しかった。窓の縁に腰かけた鈴木の表情は、その逆光でよく分からない。
「会ってさ、会いに行ってさ、会ってくれると思うか。」
「え?」
ハハハ…、と鈴木は少し笑ったみたいだった。「たぶん、それ俺の姉ちゃんだよ。でもさ、考えてみればなんで姉ちゃんは俺に会いに来なかったんだろなって。」鈴木は俺に背を向けると、カチャリと窓の錠を外した。少し窓を右に引くと、その隙間から気持ちのいい朝風が流れ込んできた。「幽霊になってるんだろ、きと。じゃあなんで会いに来ないんだよ。会いたくないから、俺に会わないんじゃないか。」
「そんな……ことないと思うけど。だって弟なんだろ。」
鈴木はそれから返事をしなかった。ただ、窓の外、青い空だけを眺めている。その背中が、やけに哀しく見えた。
「ねえ、鈴木!会ってみなきゃ分からないよ。今日部活終わったら俺んちの近くのマンホールまで一緒に行こうよ。」
「……。」
「嫌か?」すると鈴木は首を横に振った。
「いや、会ってみたい。すまんな、いろいろと世話になって、迷惑かけちゃって。」
「いいよこのくらいなんでもないから。あ、そうだ鈴木って家どこなの?逆方向だったら帰りかなり不便だよね。」
「家は茨城。下宿だから平気。俺の寮、門限けっこう緩いから。」
「あ、下宿だったんだ。寮って学校の近くのあれだよね……俺の家までだいたい一時間半かかるから、往復だとけっこう時間かかるかも。」
「まじか。それってけっこうキツいな…やっぱやめと」
「じゃあ、俺んち泊まってけよ。うち、泊りぜんぜんオーケーだから。」やめさせるワケにはいかん。
すると鈴木は窓の縁から猫のような軽やかさで飛び降りて、今度はニャハハハと大笑いした。
「お前さ、ほんと、イイ奴だな!」唖然とする俺を横目に大爆笑である。「なんで彼女できたこと無いんだよ、要領悪いんじゃないのか?」
「……む。人の過去を笑うな!じゃあ、泊まってくのね!?」
「ああ、ほんとすまんな。世話になるぜ。」
外が、騒がしくなってきた。ラグビー部の掛け声つきジョグが始まったようだ。それから部室のドアの開く音が聞こえて、眠そうな顔をした佐藤先輩が入ってきた。
「あ、先輩。おはよーございます。」
「えぇっ!今日二人とも早いな〜。誰も俺より早く朝練に来たこと無いことが俺の唯一の自慢だったのに……っていうか、国由君、レントゲンどうだった?部活やって大丈夫そうなの?」
そんな先輩のいつも通りの優しさに、俺と鈴木は思わず笑ってしまった。
- Re: 小説カイコ ( No.48 )
- 日時: 2012/04/29 23:17
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ijs3cMZX)
- 参照: そーいえば最近ニコ動見てない
ついに来たる放課後。母親にはメールで鈴木が泊まる許可をもらった。
学生とサラリーマンでギュウギュウ詰めの満員電車はもう慣れたものだが、まぁ好きには到底なれなそうだ。そんな中でも器用に携帯電話をつついたり本を読んだりしている人がいる。プロだな、と思わず感心してしまう。
「心の準備は?」しかも電車の中は節電でクーラーが効いていなく、相当蒸し暑い。車窓が熱気で曇っている。
「オーケーとは言い難いけど。」鈴木が居心地の悪そうな低い声で答えた。
だんだんと都市部を離れていくにつれて電車の詰め具合はマシになっていき、地元に着くころには座席に座れた。駅を降りてからは俺のチャリに二人分の荷物を詰めて、歩くことにした。今の電車で鈴木はすっかり疲れてしまったらしい。横でぶつぶつと何か念じている。
「はあ〜疲れた。高橋毎日あんなんに乗ってんの?」
「ああ、まあね。慣れれば何ともなくなるよ。」確かに入学したころはすごく疲れてたなー。
駅前の商店街を抜けると、この町は一気に活気が無くなって閑静な住宅街が広がる。その先には田んぼがずっと広がっていて、またその先に住宅街がある。その中の一つが我が家である。
申し訳程度に舗装された、コンクリの道を歩きながら、とりとめの無い事を話した。すっかり日の落ちた田んぼからは、蛙のぐぶう、と低く無く声がそこかしこから幾重にも重なって響いている。
「高橋、俺、疲れた。あと何キロぐらい歩けばいいんだよ。」
「う〜ん、五キロ強くらいかな?」まだ歩き始めてそんなに経ってないだろ!?
「なあ、高橋。ドキドキな二人乗りしないか?」
「はぁ?」
「交代でチャリ漕ぐことにしてさ、後ろに乗るほうが荷物を抱えてればいいだろ?そっちの方が絶対早く着くし疲れないって。なぁ、いいだろ、いいよな!?」
言うが早い、鈴木はカゴに詰めてあったエナメル×2を俺に投げつけてきた。
「ぐはっ?!何すんだよ!!」
「もう俺歩くのイヤ。最初は俺が漕いでやる。……お前は後ろで荷物持ってろ。」 そう言うと、勝手に人のチャリにまたがって、自転車の後ろの荷物置きに乗るように俺に顎で命令してきた。
「そんなに歩くの嫌なの?まぁ、別にいいけどさ。」そこまで言うんなら仕方ない。
「やった〜!じゃあ道案内頼むぜ。」
満面の笑顔でそう言うと、ジャキッと鈴木は自転車のギアを最高にセットして、いきなり物凄い勢いで漕ぎ出した。どこにそんな体力残ってたんだか。っていうか、そんなんだったらまだ歩けるだろっていうね。
漕ぎ手交代の余地なく、鈴木の馬力というかガッツですぐに家に着いた。結果、俺の初めての二人乗りが男同士でしかも鈴木とだったという事になってしまった。まあ別にいいが。
「で、どうする?ご飯食べてからにするか?」
もう、鈴木の学ランにつかまってチャリに乗っていた自分が恥ずかしい。黒歴史だ。
「えーっ!?メシまで食わせてくれんの?そりゃ、さすがに悪いから遠慮しとくわ。」
「だってお前、そしたら明日の昼まで食べないことになるよ?」
「俺、毎日一日一食だし。どうってことないよ。」
「よくそんなんで、今まで体もってたな……」
そんなこんなで鈴木が、悪い、悪い と遠慮しまくるので家に寄らないで先にマンホールに行くことにした。あ、勿論歩いて。さすがに二人乗りはもうやりたくない。
まだ八時になる少し前だというのに、人気のすっかり途絶えた住宅路を二人で歩く。等間隔に設置された電灯の放つ白い光が、やけに不気味だった。
数分もせずに目的地に着く。
4丁目のゴミ捨て場の前。ここが例のマンホールのある場所だ。暗い住宅街の中で、ゴミ捨て場にある電灯の光が、スポットライトのようにマンホールを照らしていた。反対側にある灰色のブロック塀の上に、黒い猫が一匹座っていた。大きな月のような瞳の猫で、猫好きの身としては相当に可愛かった。
猫に注目していた俺を、鈴木が肘でつついた。
「ここなのか?」
「……え?ああ、そうそう。」
—————— マンホールの蓋は、開いていた。