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Re: 小説カイコ ( No.57 )
日時: 2012/05/01 22:04
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: .1vW5oTT)
参照: 塾帰り in電車で書き直し中(゜∀゜)

それからしばらくすると、佐藤先輩がやって来て着替えて、先輩と鈴木と俺は部室を出て行った。全てが全て、今朝にあった通りそのまんまだ。違うことと言えば、自分のことを他人目線から見られることだろうか……まさかあんなに猫背だったとは。それに自分が喋ったり着替えたりしているのを後ろから見るのは、不思議、というよりも相当に気持ち悪かった。
確か、この後三十分ごろに長距離の先輩たちが来たんだったよな。だったらここにいつまでも居るのはマズいだろう。

ちょうどその時、ガタンと音を立てて鈴木が掃除用具入れから出てきた。
「おーい、高橋ぃー、どこだー。」いつも通りの喋り方。今あった事に驚いている様子も無い。
「あ、ちょっと待って。」なんかすごく肩凝った。「鈴木……見えた?あれ俺らだよね、なんかすごく変な気分なんだけど。」
「あー、見えた見えた。俺って後ろの方の髪の毛あんなんになってたんだなー。なんか恰好悪いから今度切りに行くわ。」
「鈴木……やっぱお前タダ者じゃないね……」

俺の呆れにもお構いなく、鈴木は言葉を続けた。
「んでさ、これからどうするよ。ていうか、お前また蚕肩に乗っかってるぞ!」
え? ああ、ホントだ。もう何でも良くなってきた……
「おい、カイコ。助けてくれ。どうすればいいと思う?」猫の手を借りるよりも邪道な手段を取った気がする。

すると、カイコは小さい声で(蚕にしたら大きい声なんだろうけど、)はっきりと答えてくれた。
「う〜ん。どうするも、こうするも、何をどうしたいの?」
「えっとね、あのマンホールに戻りたいんだけど。あ、勿論鈴木もね。」
「なに言ってるの?高橋も鈴木君もまだマンホールに居るよ?」
「……え?」

どゆこと?
鈴木もさっぱり、といった風に首をかしげている。もっとも、虫が喋ったのに何も動じないコイツの方がさっぱりだが。
すると突然、カイコの周りに一筋、金色の光がまるで水が流れるように走った。

「あ、わかった!杏ったら意地悪なんだね!」
そうカイコは納得したように呟くと、呪文のような連続した言葉をブツブツと低い声で唱えた。

「うわっ。」
瞬間、物凄い耳鳴り。キーンというより、ゴーンという重たい音。きっとお寺の大鐘に全身突っ込んでしまったらこんな音だろう。
それから、まばたきするかしないかの間に、目の前に細い赤い線が一筋、入った。それも束の間、そこから見ていた視界がパックリと割れて————— 鏡が割れたように、部室の風景が目の前でガラガラと崩れていった。

耳鳴りがやっと治まったかと思うと、周りの風景は以前来た、マンホールの中の風景になっていた。

「おい、大丈夫?」鈴木が耳を塞いだ格好のまま、地面にうずくまっている。
「高橋こそ大丈夫かよ……顔が真っ青だぜ。」
「まじか。」

カイコが何か言っている。
「杏、そろそろ意地悪やめなよ。見えてるんでしょ?」
カイコが喋り終わると、しーん、とマンホールの中は静かになった。重たく、冷たい空気がどこからともなく流れているようだった。そんな重い雰囲気にすっかり飲まれて、俺も鈴木も喋る気が失せてしまった。カイコはというと金色の眩い光で包まれていて、彼自身からは赤く細い光線が幾筋も出ていた。

その時突然、後ろから時木の笑い声が聞こえた。

「あっははははははははは!なんだカイコ、お前も妙な術使いやがって。私の幻を見破るとはね。」
振り返ると、さっきまでは居なかった時木が、参った参ったーと頭を掻きながらケラケラ笑っている。
それから、口元だけは笑った形のまま、目だけ鈴木の方にギロリと向けた。

「おう、国由。久しぶりだな。」
—————— 短くそう呟くと、目にもとまらぬ速さで鈴木の襟に飛びかかる。
持ち前の怪力で鈴木をそのまま床に押し倒し、まじまじと弟の顔を眺める。

「国由、お前随分でっかくなったなぁ。ふーん、なかなかイイ面してんじゃん。」
「………姉、ちゃん……?」
時木は聞いてるのかいないのか、ニヤリと笑うと妙なことを言い出した。
「欲を言うと女の憑代の方がよかったんだがなー。まぁこの際血が近いし、国由でちょうどいいかも。高橋、お勤めご苦労さん(笑)」
「……は?」
「悪く思うなよ、国由」
そう言うと、時木は右手の親指と人差し指で指を鳴らした。パチン、と乾いた音がしたかと思った瞬間、時木の姿はあとかたも無く消えていた。

しばらくの間、俺も鈴木もポカンとしてしまった。こんなに短い時間にいろいろな事が起こると、思考の整理ができないよ。
鈴木は今まで時木が居た空間をボケーッと眺めている。そりゃそうだ。感動の再会には程遠い感じだった。
しばらくして、カイコが口を開いた。

「ごめんね、高橋と鈴木君。騙されたのは僕の方だったみたい。」申し訳なさそうな声で、そう言った。
「何が?」
「正直、まだ僕もよく分からないし、まだ説明するべきじゃないと思うんだ。だからさ、高橋。いったん家に帰ろうよ!話はそれから。」

すると鈴木が口を挟んだ。
「あのさ、高橋。今気づいたんだけど、ポケットの中がスーパーボールで一杯なんだ……何コレ。」言いながら、ほら、とポケットからカラフルなボールを差し出した。
そういえば、時木と初めて出会った朝もスーパーボールだった。なにかスーパーボールに意味があるのだろうか。

「ねえ鈴木、なんか意味分かんなくなってきたしさ、カイコの言う通り一旦家に帰らないか。」
「ああ……そうだな。分かった。」

それから、マンホールから出て、家で鈴木に夕飯を無理矢理に(母さんが)食わせ、やっと落ち着いた……と思ったら、妹が珍しい来客に興奮してギャーギャーと騒ぎ出し、母さんが「静かにしなさい!!」とぶち切れたりしていた。



……うん、それで事件は皆が寝静まった午前1時頃に起こった。