コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 小説カイコ ( No.59 )
日時: 2012/05/04 23:58
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: uY/SLz6f)
参照: 書き直し……疲れたorz 一部修正に方向転換っ

「おい、起きろ高橋。」

時刻は午前一時。脇腹らへんに猛烈なキックを食らって飛び起きた。ありがたいキックをお見舞いしてくれたのは時木だった。
「ぐはっ。なんだ、お前か……」時木の肩にはカイコが乗っていた。夜中に訪問とは。TPOをわきまえようぜ。

次の瞬間、時木の罵声が静かな夜の空間に響いた。

「 こ の 、 ク  ソ  馬  鹿 っ !」


「へっ?」
「高橋お前、なんで国由を連れてきたんだよ!! アイツすげぇ旨いんだよ!お陰で憑りつかれちゃったじゃないかよ!!!あーもうどうしてくれるんだ、このクソ馬鹿っ!」 言いながら、ガシガシ俺を蹴ってくる。ちょ、痛い痛い、止めてくれ。
その時、カイコが止めに入ってくれた。
「杏、高橋はね、親切で鈴木君をあのマンホールに連れてきてあげたんだよ。だから、あんまり蹴ると可哀想だよ。」
「……っ、第一、なんでお前が騙されてんだよ!ああーもう!カイコも高橋も大馬鹿だ!! 二人して何やってんだよ!!!」今度はじだんだを踏み始めた。みんな起きてしまうのでそろそろ止めて頂きたい。
「時木、とりあえず謝るから、謝るからさ、頼むから落ち着いてくれ。」
すると時木はふくれっ面のまま俺のベッドの端に腰かけた。
「あのさ、高橋。私、お前にこの前透明人間の話したよな。」
「ああ、うん。」
「私はね、もう気付いてるだろうし、面倒くさいから言っちゃうけど。ーーーーーー 幽霊なんだよ。話したよな?透明人間は目が見えないって。私も同じ。誰も私の姿が見えないし、私の声も聞こえない。代わりに、私も誰の姿も声も感じることができない。」
「そんなこと無いよ。俺、お前のこと見えてるもん。」
「それはお前が霊感が強いからだ。マトモな奴じゃ見えてない。」まじっすか。俺、霊感あったんだ。「でね、理解の遅いお前のためにいちいち丁寧に説明してやるけど、私の本体は精神だ。体は無い。すなわち脳もないからね、考えることもできないし、記憶も、言語能力も皆無なんだ。多くの幽霊がそうであるように、ただ心だけでこの世に漂っていたんだ。けどね、カイコマスターのサイト見たよね?あるカイコマスターが心だけこの世に漂っていた私に脳の代わり、つまり私の蚕を与えてくれたんだ。人助けの一環としてね。」
「その蚕は僕の妹なんだよ。」カイコが言った。
「それで、今私は肉体を持っている訳じゃないからこの世界を感じることはできないけど、霊感の強いお前みたいな奴とは話ができるし、自分の意思も決定できる。ただ、生前の記憶は持ち合わせてなかったんだ。」
「……なかった?」

聞き返すと、時木はばたりと背中をベッドの上に預けた。
「そう。ただ、国由が憑りつかれた時に、記憶がなぜか戻った。うん、ちょうど八時過ぎだったかな。ここの部屋でボーっとしてた時にね。」
「ちょ、ちょっと待て。あの時、お前はマンホールの中に居て、俺と鈴木に今朝の陸上部の部室の幻覚を見せていたんじゃなかったのか。それで、カイコに幻を見破られて、鈴木に飛びかかってたじゃないか。」


「……アレはね、私であって私じゃない。」時木が静かに目を閉じた。「死んだときに別れちゃったんだ。ほら、多重人格ってあるだろ?あれは何も珍しい話じゃないんだ。高橋だって、笑っているときの自分と怒っているときの自分じゃ明らかに性格が違うだろ?誰だって自分の中に沢山の違う『自分』を持っているんだ。ただ、そのそれぞれの『自分』をある一人の自分として形作るにはそれぞれの思い出、すなわち記憶が必要だ。私たちは大勢の自分を記憶という鎖で繋いでいるんだ。
……多重人格者っていうのは自身の中の大勢の『自分』が共通した記憶を持っていない状態の人を指すんだ。だから他人から見て、ひとりの人間の中に多数の違った人間が居るように見えるワケ。」

ああ、成程ね。難しいけど、なんとなく言いたいことは分かった。時木は言い換えれば、某有名アニメのロール○ンナちゃん状態になってるってことか……な?

「それで、国由に憑りついた『私』はこの私とは同じ記憶を持っていないんだと思う。きっと、憑りついたところを見ると、国由についての記憶は嫌な記憶しか持っていないんだと思う。」
「でもさ、時木。憑りついて何か鈴木に困ったことがあるわけ?」
「僕の聞いた話じゃ、一つの肉体を二つの魂で使うと寿命が二倍速に縮むって聞いたよ。」カイコが重々しく言った。

「……。」
そりゃ、ヤバイな。
すると時木が髪を勢いよくかき上げた。

「————— そういうことだ、高橋。だから、手伝ってほしい。カイコマスターとして。アイツを国由から抜くのに力を貸してくれないか?」



Re: 小説カイコ ( No.60 )
日時: 2012/05/05 09:49
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: BoToiGlL)
参照: もう携帯は電車の中でしかいじりません宣言

おはよーございます。
昨日(今日と言うべきか?)夜中に時木に起こされ、クソ眠い高橋です。
結局、あれから二時間、三時まで悪時木をどうやって鈴木から抜けばいいのか善時木とカイコと話し合い、良案出ずして終わり、いつも通り五時半に目覚まし時計で起きてしまったので全然寝た気がしないのだ。
そして今、鈴木と一緒に電車に乗っている訳です。

「で、高橋。まとめとしては、俺には今、姉ちゃん(悪)が取り憑いてて、俺は2倍速でオジサンになってるんだな!?」
「まあ、そーゆーことだね。」可哀想に。
「ヤダ!早くオヤジになるのは絶対イヤだ!」
「うん、でね、どうやらカイコが言うには二つに別れた善時木と悪時木を合体させて、もとの一人の人格にすれば、生前の記憶が完全に復元されるんじゃないかって。そしたら時木は人格も記憶も生前の時木とぴったり一緒になって、お前に取り憑く必要も無くなる、らしい。」
「ふーん、それどうすればいいワケ?」
「そこなんだ。論点は……」

ぬーん。
始発で人が居ないからできる話だよね。田舎でスミマセン。
すると、カイコが口を挟んだ。
「ねえ、鈴木君。思い当たることはない?杏がこの世にまだ留まっている理由について。僕の考えだと、杏は何か未練があるんじゃないかなあ。」
「うーん。未練だらけだとは思うけど。っていうか姉ちゃんに直接聞けないのか?」
「それがさ、時木は昨日、お前についての記憶が少し戻っただけで、なんで自分が分裂したかはさっぱりらしいんだ。」
「マジか……」鈴木が眉間にしわを寄せた。
鈴木は悪時木は見ることはできたけれど、善時木は見ることはできなかった。カイコが言うには、それは悪時木の方が霊力が強いかららしい。
その時、鈴木が声を上げた。

「親父、かなあ?」言いながら鈴木が豪快な伸びをした。「いやー、こんな話して申し訳ないけど……前の親父とね、母親と俺がうまくいってなかったんだよ。親父は俺のこと何でだか嫌ってて、だから俺も親父のこと嫌ってたんだけど。姉ちゃんは家族で唯一、親父とうまくやってたワケよ。それで姉ちゃんが変な病気かかって入院した時に親父の奴、“どうして杏なんだ!国由が代わればいい。”とか言い出してさ、もう母親マジギレ。更に普段から溜まってた親父に対する不満も一気に爆発。そのままノリで別居になって離婚、って感じ。」
「そうなんだ……」
「うん。それでまあ、姉ちゃんからしたら自分のせいで離婚しちゃったんじゃないかとか、自分のせいで俺を傷つけちゃったんじゃないかとか、思うところは色々とあったんだと思うんだよね。もちろん姉ちゃんは何も悪くないけど。」



なんか、自分がいかに幸せ者だったか痛感させられたよ。
でも、
どうすれば、どうすればいいのだろう?