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Re: 小説カイコ ( No.70 )
日時: 2012/05/06 19:12
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ijs3cMZX)
参照: 私のやる気スイッチを誰か探してください。

        ◆

コイツの馬鹿さ加減は笑える。

「邪魔なんだよ。」
まだ使い慣れないこの体を自由に動かすのは難しい。なにせ血は繋がってるとはいえ、いままで使ってきた身体よりもずいぶん大きいし、二十㎏以上は重い。それが祟ったのか足を離した瞬間に高橋を逃してしまった。

「ごめん、鈴木!」
高橋はそういいながら私を体当たりで後ろへ吹っ飛ばし、横に転がっていた“私”を素早く背負って円陣の外へ出ようとした。

……そうはさせるか。
苓見土我の壁部屋作りの腕はなかなかのものだった。けれど、精巧すぎたようだ。壁部屋の中では血を垂らした人間が絶対的な力を持つ決まりだ。血は円陣の一部として機能する。ちょうど、血液が身体の一部として機能しているように。結果、円陣の外側————— 苓見とカイコはこの中には手を出せないはずだ。
きっと苓見は壁部屋の中で私を消そうとしたのだろう。死んでから六年しか経っていない私の霊力なら高橋だけでもいけると思っての計画だったに違いない。

それに、確かに私にはこの男に勝つ自信がない。
だったらここで高橋に逃げられては後々面倒だ。

「……閉まれ。」
短く呟くと、期待どうりに円の線に沿って黑い壁が現れた。知れずに笑みがこぼれてしまう。想像以上に苓見の腕は確かだったようだ。

      ◆


「え、嘘だろ……」

鈴木の足が離れた瞬間を狙って逃げ、あと一歩で円から出られそうだったところだったのに。妙な、黒くて壁のようなものが突然目の前に現れた。後ろから鈴木が立ち上がる音が聞こえる。

「往生際が悪い。」鈴木が低く、呟いた。
「誰なんだ、お前。」
鈴木は俺の質問には答えず、足元の砂粒をさらさらと手にすくい始めた。
それから砂を握りしめて、ゆっくりと手を開いた。驚くことに平の上にあるはずの砂は無く、代わりに小さなナイフが握りしめてあった。

やばい。まじでやばい。
背中の時木はまだ気を失ったままだ。でも、このままじゃ俺も時木も危ない。しょうがない、時木はここに降ろすしかないか。
そっと背中から降ろして、向き直る。
鈴木は無言で自分自身の手首をナイフで勢いよく切っていた。数秒もせずに、鮮やかな液体が手首から平へ、指先へと流暢に伝ってゆく。黄土色の地面が、濃い赤色に染まっていった。

「……質量保存の法則って知ってるよな。あんなチンケな法則、この円の中でも通用してるみたいだぞ。」
そう言うと、鈴木はズボンのポケットから携帯電話を取り出した。「このくらい重さがあればいいかな。」

血が流れ続けている鈴木の右手で握りしめられた携帯電話は一瞬、眩い青色に光った後にぐにゃぐにゃとした動きで形を変えていった。気が付けば、台所によくありそうな包丁の形になっている。鈴木は携帯が動きを止めるのを見届けると、首から上だけ動かしてこちらを見た。口元が、微かに嗤いの形を作っていた。

……やばい。