コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 小説カイコ ( No.72 )
日時: 2012/05/06 20:23
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ijs3cMZX)
参照: にょろぽよー。

そのとき、いい考えがひらめいた。
壁部屋の中からでも電波は通じるだろうか?

賭けに近い。うまくいくかどうかは分からない。
自分の携帯を取り出し、鈴木宛に電話をかけてみた。それからメールも。その間にも、鈴木と俺との距離はじりじりと狭まっていく。鈴木の足取りがいつもよりおぼつかない感じがするのは気のせいだろうか。

ピリリリリリリリリ ピリリリリリリリリリリリ
十数秒して、鈴木の手元から静かすぎる空間には不似合いな電子音が鳴り響いた。その後にはメールが届いたのだろう、ジージーとバイブ音が手元が狂うぐらいにずっと鳴っている。その様子に、鈴木は不愉快そうに眉を寄せた。

「小賢しいマネしやがって。」
ちっ、と悪態をついて携帯を地面に叩きつけてしまった。その場で立ち止まってこれ以上俺に近づいてくる様子もない。

「ねぇ、鈴木じゃないよね。君。時木でしょ。」できるだけ、刺激しないように言った。「なんでこんな事するんだよ。実の弟なんだろ、お前だってこんな事してなにも得なんか無いんだろ。」
「……自分の価値観で正義を振りかざす奴は嫌いだ。それに部外者に口を挟んでもらいたくないな。私はどうしてもやんなきゃいけないことがあるんだ。もういい、お前の退治はもうやめた。邪魔な事に変わりはないけれど、まぁせいぜい弟と仲良くしたってな。」

言うや否や、鈴木は円の淵まで走り出して行って黑い壁の中に吸い込まれていった。吸い込まれていった、と言うよりは壁に触れたとたんに消えた、と言った方が語弊がないかもしれない。
後には、俺といまだに気を失い続けている時木が残されただけだ。

この壁、通り抜けられるのかな。
黑い壁に触れてみると冷たかった。例えるなら氷水が一番近いかもしれない。冷たく、指先が痺れるような感覚に蝕まれていく。このまま腕も、体も突っ込んだらどうなってしまうのだろう。

その時、時木の呻き声が足元から聞こえた。
「時木、気がついた?」
「ああ、最高に最悪な気分だ。って、なんだその黒い壁は」
時木が驚いた様子で壁を見上げながら言った。
「ああ、これ。ごめん俺もよく分かんない。お前がぶっ倒れたあと鈴木が豹変してさ、大変だったんだよ。多分鈴木に憑りついたもう一人の方のお前が出てきたんじゃないかな。更にこんな壁残していきやがって……当の本人はやる事がある!とか言って、これに突入してどっかに行っちゃったみたいだけど。」
「はあ。」

時木が珍しく弱気な声を出した。見上げるように、黒い壁を眺めている。
しばらく二人で途方に暮れてしまった。どうしたらいいか分からない。完全にお手上げだ。

「なんかさ、笑えてくるよね。ここまでどうしようもないと。」
時木はうーん。と曖昧な返事を返した。額に指を当てて何か、考えに耽っている様子だった。
「あのさ、高橋。やる事があるって言ってアイツはこの壁からどっかに行ったんだったよね。」時木が壁を今度はじっと睨みながら言った。
「そうだけど……それってどういう意味だよ。」

振り向いて、時木はニヤリと不敵な笑みを顔に浮かべた。
「つまり入口は一つ。やるべき事も一つ。……行くぞ、私らも突入だ。」

Re: 小説カイコ ( No.73 )
日時: 2012/05/06 20:33
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ijs3cMZX)

              ◆

きょうは、お祭りの日です。


それにわたしのおたんじょうびです。

ことしの、お祭りでは国由がやっと3さいになりました。

お姉ちゃんのわたしがいっしょにいってあげなきゃいけません。

もんげんは、5じまでだけど。


スーパーボールすくいのおじさんに、きょうはたんじょうびなんだと言ったら、おまけをたくさんくれました。

わたしのお気にいりは、キラキラのラメがはいったうすいピンク色。

国由にも、きれいな水色のやつをわけてあげました。


家にかえると、

お父さんがかわいいお洋服をくれました。

お母さんがクラッカーをならしてくれました。

みんなでケーキをたべました。


きょうは、ほんとうに楽しい一日でした。


              ◆

最近、クラスが嫌で嫌でしょうがない。
クラスの女子がこぞって私を無視したりハブいたりする。

シカトの理由は簡単。ただの嫉妬だろう。
勉強も運動も人より抜群にできて、他の子よりもちょっと見た目もいい私は先生に可愛がられ、男の子達からも人気。さらに運動会や合唱祭、自然教室なんかでも目立った役をしていた私。馬鹿な彼女たちがよく使う言葉を借りて言えば、わたしは“うざい”存在らしい。

ついたあだ名はガリ子。いっつもガリ勉してるから。

だってしょうがないでしょ?私はあなた達とは目指すところが違うんだから。ガリ勉したり、したくもない学校行事の目立った役をやって内申点もキープしとかなきゃ受からない中学校に行くんだから。


     国立F大学付属中等学校


倍率は6倍近く。でも、
……絶対に、受かって見せる。

             ◆

ある日の夕焼けの綺麗な放課後、私は教室にいました。
その日は塾の自習室も、図書館の勉強室も閉まっている日だったのでしょうがなく学校の教室で勉強していたのです。

私の机には色とりどりのマジックやポスターカラーの落書きの跡。

クラスの馬鹿共が嫌がらせに朝早く学校に来て、私の机に落書きをやっていくらしい。毎日こんなことに時間を費やすなんて、本当に馬鹿なんだなとつくづく思う。


しね、うざい、きえろ、かす、きもい、


こんな汚らしい言葉の上で、私はノートと塾のテキストを広げて勉強します。5時のチャイムがなるまで勉強します。明日は全国模試があるからちゃんと実を入れて勉強しないと……


「杏ちゃんってさ、毎日頑張ってて偉いよね。」

突然、肩の後ろから声がしました。声を掛けてきたのはいつもクラスの隅っこで本を読んでいるような地味な男の子。会話を交わしたのも数回しかないような男の子。

きっと、悪口の書かれた机の上で黙々と勉強する私を憐れんでの言葉だったのでしょう。



だけど、何でだろうね。

私とっても嬉しかった—————————

             ◆

無事にF大付中に受かってから楽しい数か月が過ぎ、秋になった。
夏からずっと頭痛が続いていた私は両親に連れられて病院へ行きました。いくつかの検査の後に、聞いたこともないような病名が私に告げられました。

「早急な治療が必要です。」


……そして、私の入院生活が始まりました。
 
             ◆

入院してから数週間が過ぎ、秋も深まってきました。
今日は友達がお見舞いに来てくれました。

友達が帰った後、窓からの夕焼けが病室いっぱいに広がりました。すごく綺麗で、もう帰っちゃったあの子にも見せてあげたかったな。

その時、ふと思い出しました。

小学生のとき、いじめられていた頃。
あの日も綺麗な夕焼けの日だっただろうか。

私に声を掛けてくれた男の子。
なんて名前だったか思い出せないけど、

今はどこで何をしているんだろう?


          ◆

「ねえお母さん、私、もうすぐ死ぬんでしょう?」

雪の降る、寒い日でした。突然の私の質問に、母は驚いた後に悲しげな表情になってから無理矢理に笑顔を作って私にこう言いました。

————————— 絶対に、治るからね。大丈夫よ。

母が本当のことを言ってくれなくても、私はなんとなくわかっていました。もう、絶対に、治らないんだと。もうすぐ自分は死んでしまうのだと。

————————— どうして杏なんだ!国由が代わればいいじゃないか!!

狂ったように、お父さんが叫びました。お父さんは最近変です。前より派手な格好をするようになったし、仕事も辞めてしましました。言葉づかいも乱暴になりました。それに前からのことでしたが、国由に冷たく当たるようになりました。

————————— ちょっと、あなた、それどういう意味なのよ!

いつも温和で、何を言われても怒らないお母さんがヒステリックに聞き返しました。

————————— だって、アイツが生まれたせいで、真奈は死んだんだぞ!?今度は杏が!アイツさえ生まれなければ、アイツさえ!
————————— いい加減にしなさいよ!なんで国由のせいになるのよ!だいたい、あんたがそんなんだから悪いんじゃないの、なんだって仕事辞めたのよ!?私のパート代だって酒に回してんの知ってるんだからね!?もう、意味が分からないわ。ああ、可哀想な真奈!こんな旦那に……

————————— 真奈はそんな風に俺を言わない!お前なんていらない!



カラン。
後ろで、花瓶の落ちる音がしました。どうやら花瓶の水を汲みに行った国由が、病室のドアのところで今までの話を聞いていたようです。

国由は、私たちが振り返ると廊下へ走って逃げてしまいました。

「待って!国由待って!」
たまらず、私は国由を追いかけました。国由は足が速くてすぐに病院の外に出て行きました。長い入院と、病気に蝕まれて私はうまく足が動きません。

息を切らしながら病院の中庭に着くと、ほとんど雪で埋まってしまったベンチの上に座って国由は一人で泣いていました。




ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね——————
何千回謝ったのでしょう。私は国由を抱きしめながらずっと謝りました。


ごめんね、こんな体になってしまって。
ごめんね、嫌な思いをさせちゃって。
ごめんね、こんなお姉ちゃんで。



ごめんね。
最後の最後になって、隠し通せなかった。私と両親との秘密。
私はもうすぐ死んでしまうけど、国由はこれからもっと生きていかなくちゃいけないのに。




ごめんね。




私の家族は、もうすぐ終わるでしょう。

馬鹿な父親の手によって
継母のヒステリーによって
姉である私の死によって



……せめて、最後の瞬間くらい、本当の家族でありたかった。







最後の言葉は、ちゃんと話せたか分かりません。
ただ、国由がお姉ちゃん、お姉ちゃん、と泣き叫ぶ声だけが聞こえます。
もう、何も感じません。きっと、人はこうやって死ぬんでしょう。





ねえ国由。





いつか、夏になったら、

スーパーボールすくい、またふたりでいきたいな。