コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 小説カイコ ( No.86 )
日時: 2012/08/25 21:50
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: rOrGMTNP)
参照: 部活のジャージの後ろの模様が前方後円墳にしか見えない件。


翌日。
キンコンカンコーン、と鐘が鳴り、四限目が終わって弁当を広げようとしたところで、突然、級長の今井が教壇に立って、教卓をバンッと叩いて大声を張り上げた。びっくりして顔を上げると、彼の四角い眼鏡が蛍光灯の光を跳ね返してキラリと光っていた。

「みなさん、突然ですが聞いてください!今日の昼休み、四十五分から合唱コンクール実行委員会の会議があるらしいんです。僕もさっき初めて知りました……!」


合唱?なんじゃそりゃ。
「合唱コンクール委員会なんてあったんだー。」
「っつーかそれ誰やんの?決めてなくねー」
「あと十五分も無いじゃんかよ。」
みんなそれぞれに口走った。確かにあと十五分でどうしろというのだろう。今井がやってくれるのだろうか。

「みなさん聞いて!」今井が焦って畳み掛けるように叫んだ。「各クラス三人ずつなんですよっ!誰か、誰かやって下さい!!お願いだから!!」

そのとき、俺の斜め前の席から色白な腕が一本挙がった。杏ちゃん(決して時木じゃないよ)の腕だった。

「私、それやりたいな。中学の時もやってたし。」
偉いなぁ、という感心する声がそこかしこから聞こえた。確かに偉いと思う。
「かっ、柏木さん、ありがとう!」今井が名簿にマル印を付けながら言った。「あと、あと二人お願いします!」

それがなかなかあとの二人が決まらない。しかし時計の針は無慈悲に進んで、あと10分で会議が開始になってしまうところだ。
さっきからずっと、今井がクラス名簿を食い入るように見つめている。そして何かを決心したように勢いよく顔をあげると、間違いなく俺の方をキッと睨んできた。そして、やっぱり四角い眼鏡がギラリと光る。


……やべー、ガッチリ目合っちゃった。
今井はそのままつかつかと俺の机の前まで来ると、俺と、俺の後ろの席の田中君を交互に見ながら口を開いた。

「球技大会執行部に体育祭実行委員、文化祭実行委員。風紀委員に書記や班長……あ、あとクーラー係もかぁ。」ぶつぶつと、念仏のように名簿を見ながら今井はそう唱えた。
「え、えと、今井、何が言いたいの?」
田中君がビビリながら聞いた。なんか嫌な予感がするなあ。

「あのね、高橋に田中。君たち二人だけなんだよ。クラスでなんの仕事もしていないの。」今井がニィ、と口角をあげた。「二人でやってくれるよね……?合唱コンクール委員会?」

「そ、そうなんだ。俺たち二人だけだったんだ。」なんか微妙にショック。それと若干、今井の喋り方が怖い。「わかった、俺、やるよ。」
正直面倒くさいことこの上ないが、誰もやる人が居ないのなら仕方がない。それに杏ちゃんもいるしまぁいいこととしよう。そして後ろの席の田中君もじゃあ俺も、と頷いた。

「……っ、二人共ありがとう!みなさーん、一件落着ですっ!合唱委員は柏木さんと高橋君と田中君に決定いたしました!」今井が嬉しそうにクラス全体に向かって高らかに叫んだ。あーよかったね、と言う声がして、ガヤガヤとクラス中に喋り声が戻る。

「あ、じゃあ三人はあと五分ちょいしかないから急いで音楽室に行ってね☆」
今井が微妙にウインクになってないウインクを俺たちに投げながら言った。

あと五分とか、嘘だろ。
すぐに三人で教室を飛び出して西練にある音楽室へと走った。敷地だけは馬鹿に広いこの学校は渡り廊下が半端なく長い。ぜいぜいと息を切らしながら音楽室に着くと、もう他のクラスのメンバーは揃っていた。

「D組、遅い!集合の五分前には集まるもんだ!!」
委員長と思われる真面目そうな顔つきの二年生が叫んだ。
「すいません!」 でも俺のせいじゃないんです!……と主張したい。

そして、無事に全メンバー揃ったところで自己紹介が始まった。
一年生と二年生に別れてやったのだが、八クラス×三人の自己紹介をしても、どの顔が誰なのか簡単に覚えられるものじゃない。今気づいたが、なぜかこの委員会は男子も女子も眼鏡が多いっぽい。
あ、そーいえば田中君も眼鏡だな。隣に座る田中君の、銀縁の眼鏡をかけた横顔を眺めながら、そんなことをぼんやりと思った。
自己紹介は自分の名前+部活+好きなものといった、ベタな項目で進んでいった。やはりというか、オケ部とか軽音部、合唱部とか音楽系の部活が多いみたいだ。このままいくと音感無しの運動部なのは俺だけかもしれない。
そんなこんなしていたら、ついに我らD組の番が来た。
「D組の柏木杏、オーケストラ部です。」杏ちゃんが超簡略な自己紹介をしたので俺もそれに続くことにした。
「高橋任史です。えっと、陸上部です。」
「田中誉志夫、帰宅部ですっ!」
すると田中君のおどけた感じと帰宅部という単語がみんなのツボに入ったのだろう、一斉に笑いが起こった。本人は少し照れた感じでヘヘヘッと頭を掻いている。

「帰宅部だけど、体操教室行ってたんです。中学までは。」田中君が頭を掻いたままそう付け足した。中学までかよー、とみんながまたしても笑った。たいして面白いことを言っているわけではないのだが、本人から溢れ出ている妙なオーラがすごく笑いのツボを押す。こーゆーのを天然キャラっていうんだろうなあ。



ん、帰宅部?
なんだっけ。すごく帰宅部に何かが引っかかる。なんか重要な用事があったような。うーん、何だっけな。

必死に頭のどこかに引っかかるソレを思い出そうとしていたら、いつの間にか自己紹介はH組まで終わっていて自由曲だの課題曲だのという話になっていた。んーしかし何だっけなぁ。帰宅部に何かあっただろうか。

「じゃあ今日はここまで。何かあったら後日またお知らせします。では解散。」
結局考え事で委員会が終わってしまった。お疲れ様でしたーという号令がかかって、一斉に解散になった。杏ちゃんが、じゃあ私がクラスに委員長が言ってたこと伝えておくねー、となんとも頼もしい言葉を残して他のクラスの子とどこかに行ってしまった。

残された俺と田中君。
田中君が「お昼どうしよー。俺全然食べてないよー。」とか一人でぶつぶつ呟いている。


……あ。
「思い出したぞ!!」
思わず田中君の肩を掴んでしまった。
「えっ。な、何を?」
ビビった小柄な田中君は、更に小さくなったようだった。
どうしよう。こんなお願いを田中君にするなんて物凄くドキドキする。これじゃあまるで告白前の女子高生みたいじゃないか。
一息ついて思い切って口を開く。

「田中君、一つ頼みがあるんだ。その、今流行のさ、マネジメント!とか興味ないか、な?」



———— サイコーに恥ずかしいです。