コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 四人目 野田弘樹の場合5 ( No.17 )
- 日時: 2011/04/29 01:03
- 名前: 天神千尋 (ID: UAMHtL4A)
そして三日後、鎌倉旅行当日
ざわざわ...
ざわざわ...
ざわざわ...
ざわざわ...
寝坊気味で集合時間ぎりぎりに教室に入ると、何だが雰囲気がおかしい。机に突っ伏して死に掛けのコオロギのようにピクピクしているモリワキに近づき何があったのか問いただそうとすると、涎をたらさんばかりに腹を抱えて笑っていた。それならばとネギを振り返るとおなじように死に掛けのオランウータンの様に顔を真っ赤にして必死に笑いを堪えていた。そして二人揃って指をさすので振り返ると、
不思議そうな顔をして眉毛のないおにぎりがこっちを見ていた。そしてすぐ俺も死に掛けのゴキブリの様にピクピクする生物の仲間入りをした。
そう、帰りがけに岩田さんが放った言葉「まぁ眉毛でも剃ればいいんじゃね?」を真に受けて眉毛を全剃りして登校してきたノダの姿があり、クラス中がこのピクピク病を患っていた。ノダのすぐ後ろの自分の席に着席するとノダからの質問
「どうかなぁ?怖い?」
というまったく見当はずれな問いについに耐え切れず爆笑すると、教室が爆発するように全員が爆笑した。そこに扉を勢い良く開けて先生登場
「っさいぞ!!!おまえら...っぷ...ど、どうした?ノダwww」
すぐにピクピク病に感染したことは言うまでも無い。
ひとしきり笑い終わると人間怖いものでその化け物じみたノダの顔にも慣れていった。
で、鎌倉はどうだったかと言うと、眉毛全剃りの男が襟ホックまでしっかり閉めてまじめな顔で大仏を眺めているのである。あまりにも気持ち悪く元気いっぱいな人達も絡んでくることは無かった。
ところが、ノダである。ゴキブリが卵を産むよりたやすくトラブルを生みだすことができる人間である。このまま終わるわけが無かった。
鎌倉からの帰り、お決まりの注意事項「ちゃんとまっすぐ帰るように」という言葉をあっさり聞き流し、モリワキからの提案で渋谷にCDを買いに行く事となった。インターネットなども無い時代である、音楽に関する情報収集はもっぱらタワーレコード渋谷店の視聴コーナーで仕入れていた我々は週に一回くらいのペースで通っていた。
四人で渋谷に辿り着いたところですっかり忘れていた問題が噴出した。そう、ノダの眉毛である。当時の渋谷はわが地元小金井の様に
不思議なバイクを不思議な格好で不思議な...以下略、な人達がいない代わりにチーマーなるものが闊歩していた時代だった。
三人でノダを凝視すると、ノダは知ってか知らずか不思議そうな顔を向けてくる。三人で顔を見合わせため息交じりに無言で頷くと
「ノダ、ちょっと眉毛書こう」
と絵が上手いモリワキがサインペンを取り出し、ノダの眉毛をかき始めた。現在の渋谷の治安などについてこんこんと説明をするとノダも素直に目を瞑りなすがままにされている。
書き始めこそモリワキも距離をとったり角度を変えたりとまじめに描いていたが、だんだんとモリワキの口が悪巧みの時に浮かべる笑みの形に曲がり始めた。
「よしっこれでいいだろう」
とモリワキがデカイ体をはずすと、そこには「北斗の拳のケンシロウ」顔負けの極太眉毛がそこにあった。その脇でニヤニヤ顔のモリワキ、一瞬で察知した俺とネギは自制心をフル稼働して笑いを堪え
「似合うよーーいいよー」
「おまえ、こういう眉毛の方がいいよー」
と、尻の肉が千切れんばかりにつねりあげながら褒めちぎった。それに気をよくしたノダはえーーそお?などと照れながら頭を掻いている。
その後、渋谷の町をケンシロウと歩く。
道行く人は美人とは別ベクトルの理由で振り返る。
「なんか、見られている気がするんだけど...?」
というノダの台詞にも決死の自制心で耐えてタワーレコードに着いた。しばらくパンクコーナーの試聴機をネギと俺、ノダで文字通り占領しているとノダが
「ちょっとトイレいってくる」
とヘッドフォンをはずしてトイレに向かった。曲に夢中な我々は思いの外、当たりなバンドを発見できてヘッドフォンをはずさずに、わかったと口パクで返事をすると再び曲に夢中に...なっている場合じゃない!!慌ててネギのヘッドフォンを毟り取り、ソウル・ファンクコーナーに張り付いていたモリワキを呼びよせた。
「おい、おまえらトイレにノダが行った」
「知ってるよそれがどおした?それよりあのバンドいいな、近々やるライブないかなぁ」
という、ネギの頭を引っ叩く
「トイレには鏡があるな...」
とモリワキが事実に気が付く。やばい逃げようという時にはすでに時遅く、三人で振り返るとそこには、殺意の闘気をまとったちょっと横幅の広いケンシロウがいた。その後、悲鳴と共に体中があざだらけとなったのは言うまでも無い。
さらに翌日学校にて。
教卓の真ん前に陣取るノダ、しかしどの先生も皆一様に
「頼むノダwwwこっちみんなwwww」
とピクピク病を患いそれからしばらくは、まったく授業になることは無かった。
これが俗に言う「北斗のノダ」事件の顛末である。
突然だがそんなあほな我々だって人並みに恋をするのである。
次はノダの恋の話をする事にしよう。勿論普通ではない。